ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

第14話   旅人とマラリア・・・4

2015-10-23 | 第14話 旅人とマラリア

朝、W君の高熱は37,5度まで下がっていた。もう心配することはない、峠を越えた。昨夜の記憶はおぼろにあるのだろうか、彼の表情はちょっと空気が抜けた風船みたいだ。オーナーの親父が薬の飲み方や食事についてあれこれ教えている。ぼくはガンガ河畔を散歩しながらチャイ屋へ朝食に行く。死体焼き場には火がちょろ々と燃え煙が辺りに漂う、その横をすり抜ける。
通りには沐浴に向かう多くの巡礼者とガンガの聖水を持ち帰るインド人の流れがある。死は日常生活と平行しその空気は淀み重い。ぼくがベナレスを好きになれないのはそのせいかもしれない。
しかし今回はベナレスの神々に感謝する。一人の日本人の命を救ってくれた。オーナー、息子、ドクターそれと大学病院の医局、すべて幸運に恵まれた。
元気になったW君と別れる。ぼくは2週間のトランジット・ビザしか持っていない、2週間以内に第3国へ出国しなければならない。朝、8時ベナレス発のバスに乗ればゴラクプールには昼頃に着く、バスを乗り換え約1時間で印・ネ国境の町スノウリだ。

ボーダーで1ヶ月のビザを収得しポカラへ 10月下旬 マジックマッシュルームはあきらめていた が幸運にも2回フレッシュなものが手に入り飛んだ ついでにジャンキーからコ・パンガンの情報も得た
年内 インド ネパールのビザは使い切って滞在不可 バンコクしかない


1970年代のポカラ レークサイド のどかだった
 
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第14話   旅人とマラリア・・・3

2015-10-07 | 第14話 旅人とマラリア

聖地ベナレス、ガンジス河に近い馴染み宿は3軒とも満室で断られた。どこでも良いから早くベッドで横になりたいとW君、そこへ客引きが来た。ガンジス河沿いに2ヵ所ある死体焼き場の下流側の近くの宿だった。風向きによっては死体を焼く独特の臭いが部屋に入ってくる。
夕食に出掛ける前、W君に体温を計らせた。38度、抗生物質を使うには迷う体温である、もう一晩様子をみますと言う彼にぼくも同意した。夕食後ガンジス河畔を散歩し宿へ戻ったぼくは顔を真っ赤にした異様なW君を見た。体温を再度計らせると40度を少し超えている。ぼくは大声でマネージャーを呼んだ。緊迫した状況を理解した彼は息子をドクターの所へ走らせた。 
 ドクターはすぐに来てくれ、その診断は5分を必要としなかった。マラリア。W君の発症の兆しは思えば3日前にあった。危険な症状に陥っているのだろう、至急この薬を買って来なさい。ドクターはぼくにメモ紙を渡した。すでに夜、ベナレスの裏路地は恐怖の迷路だ。
「ぼくが案内する」と マネージャーの息子。
ホテルを出ると彼は急いだ。薬屋が閉まる時間を知っているのだろうか1軒、2軒、3軒だが薬はなかった。州境を越えてここはウッタル・プラディシュ州、マラリアの危険度が低いのかその薬を薬屋は常備していなかった。店仕舞いをしていた4軒、5軒目も「ない」もしあるとしたら大学の医局だろうと教えてくれた。
広いキャンパスの中をオート力車で尋ねながら走る。ある建物の前に力車を停めると、リキシャワーラーにここで待つように指示し彼は玄関ロビーから奥への廊下を急ぎ足で進んだ。数分後、彼は白い紙包みを手にし部屋の中から出てくる「戻ろう」と言った。
1時間半は経っている、ぼくらは黙ってオート力車に乗った。


パキスタン国境ペシャワールからカブールへ向かう 山賊がでるというカイバル峠
えらい汚い画像だねぇ へぇ~えらいすんませぇん

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第14話   旅人とマラリア・・・2

2015-10-06 | 第14話 旅人とマラリア

 明日、早朝の列車でガヤからベナレスへ移動する。その為ガヤ駅近くに宿をとった。W君を夕食に誘ったが、食欲がないと言う。食事を終え駅で急行乗車券2枚を買ってホテルへ戻った。ドアーを開けると咽かえるような蚊取線香の煙、その中で毛布に包まって横になっているW君。死んだ蚊を潰すと糸を引くどす黒い血だった。かなり前のものだろう。煙が息苦しくてぼくはチャイを飲みに外へ出た。
 出発の朝。準備をしていたぼくはW君に声を掛けた。
「ぼくも出発します」
もし同行者の足を引っ張るようなら、ひとり残って体力の回復を待って旅を続けなければならない。彼のバックパックはどうみても20kgはあるだろう、弱った体力を苦しめる。ものを所有することから人間の苦悩が始まる(ブッタ)
救いを求める甘さがあるなら旅は続けられない。誰も救いの手を差し延べはしない。旅は心の旅の中から生まれる。
ガヤ~ベナレスは約4時間の列車の移動だ。大混雑で難儀するインドの列車しか知らないぼくにとって初めての体験になった。車中はガラーンとし、W君は風邪でしょうか?と言いながら風邪薬を飲んで横に置いたバックパックに身体を寄せた。

 
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第14話   旅人とマラリア・・・1

2015-09-30 | 第14話 旅人とマラリア

 ぼくはいつもひとり旅をしていた。ビハール州で日本人のW君と1週間程旅をしたことがある。ビハール州はマラリアの危険地帯である。
仏教の聖地ブッタ・ガヤには仏教国の寺院が点在している。ぼくらはチベット寺に宿泊の許可を求めた。日本寺があるのに、と一言嫌みを言われたが泊めてくれた。
モハンの茶屋で晩飯を食べ終えたころW君がやって来た。メジテーションをしていました。窓が開いていたので蚊が入っていると思います。日本製の蚊取線香があるので使って下さい。インドのそれは効かない。煙に追われて逃げはするが物陰で耐えている。煙が消えるとまたぞろ飛び出してくる。
蚊は必要な量だけ吸えば飛んで行きます。小さい斑点が残るだけです。叩こうとすると蚊は自分を守るため痒くなる物質をだして逃げます。
「なるほど、そういう事か」
日本製の蚊取線香は凄まじい。煙を出して十分もしただろうか?広げた新聞紙の上にぽたぽたと蚊が落ちてきた。新聞紙に集めた数匹の蚊を潰すと今吸ったばかりの鮮血だった。その中のひとつの蚊がマラリアを媒介しW君に感染させていた。そのことをぼくらはまだ知らなかった。

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