静かなカトマンズだ、対向車もない。ネパール銀行前から車は狭い道に入り徐行をしている。見慣れた通りだ、そう思い注意して見ていると既にフリーク・ストリートに入っていた。見回すとぼくの定宿モニュメンタル・ロッジの看板が目についた。
「ここで停めてくれ」
約10時間に及ぶ車での逃亡は終った。ヘッドライトがかすかに旧王宮の壁面を浮かび上がらせている。ドアを開け車外へ出る。懐かしいホテルをぼくは見上げた。15ヶ月前ここを出発したときと何も変わっていない。変わったのは逃亡者として帰ってきたぼくだ。座席からバッグを取り出すとボスが近寄ってきて右手を出す。その手をぼくは強く握り
「助かった、有り難うボス」
無口で良い奴だった。スノウリを出発してから、ぼくの事情を聞くことも詮索することもしなかった。カトマンズまで後どのくらいだ、何時頃に着く?ぼくが聞いた事だけ奴は答えた。ボスとの出会いがあったからぼくは国境を抜けられた。感謝しても感謝しきれない、そんなぼくにボスは何の報酬も要求しなかった。