ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅・逃亡  カトマンズ・・・5

2016-06-30 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 静かなカトマンズだ、対向車もない。ネパール銀行前から車は狭い道に入り徐行をしている。見慣れた通りだ、そう思い注意して見ていると既にフリーク・ストリートに入っていた。見回すとぼくの定宿モニュメンタル・ロッジの看板が目についた。
「ここで停めてくれ」
約10時間に及ぶ車での逃亡は終った。ヘッドライトがかすかに旧王宮の壁面を浮かび上がらせている。ドアを開け車外へ出る。懐かしいホテルをぼくは見上げた。15ヶ月前ここを出発したときと何も変わっていない。変わったのは逃亡者として帰ってきたぼくだ。座席からバッグを取り出すとボスが近寄ってきて右手を出す。その手をぼくは強く握り
「助かった、有り難うボス」
無口で良い奴だった。スノウリを出発してから、ぼくの事情を聞くことも詮索することもしなかった。カトマンズまで後どのくらいだ、何時頃に着く?ぼくが聞いた事だけ奴は答えた。ボスとの出会いがあったからぼくは国境を抜けられた。感謝しても感謝しきれない、そんなぼくにボスは何の報酬も要求しなかった。
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ジャンキーの旅・逃亡  カトマンズへ・・・4

2016-06-27 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 今まで黙っていた2人のネパール人が言葉を交わした。峠のピークが近い、そう思ったとき前方に黒い家の形が浮ぶ。坂は緩やかな上りに変った。上り坂で沈んでいたリアーは車体の傾きが戻るにつれ浮いてきた。暗い家並みの真中を車のヘッドライトは切り裂くように峠の町へ入っていった。エンジン音が軽い、車は加速し町を走り抜ける。カトマンズ盆地に入る最後のピークをぼく達を乗せた車が超えた。眼下に広がるカトマンズ盆地は深い闇の中に佇んでいる。だがぼくには見える、カトマンズよぼくは帰って来た。
 もう上りはない、車は一気に坂を下りカトマンズ市街へ向かった。
「ジャパニー、どこへ着ける?」
「カトマンズの旧王宮の近くへやってくれ」
そうボスに伝えるとぼくはシートに身体をあずけ煙草に火をつけた。窓外に流れるカトマンズの夜景を見ながら煙草を深く吸いこんだ。何もかも上手くいった。何もかもだ。あらゆる偶然性だけがぼくを救ってくれた。
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ジャンキーの旅・逃亡  カトマンズへ・・・3

2016-06-21 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 心配だった車は厳しい山道を上りきってくれた。カトマンズ盆地に入る前にもう1度かなり急な上りが待っている。エンジンとラジエーターをクーリングするのにちょうど良かった。フロント・バンパーの中に残っている機器はエンジン、ラジエータと空冷用ファンそれにバッテリーくらいだ。他はすべて取り外してある。後、心配なのはバッテリーとダイナモだ。ヘッドライトは電気を使う。車内には暖房もない、窓の隙間から入ってくる冷たい風で身体が震える。だが、そんな事は我慢できる、車が故障する事なくカトマンズに着いてくれさえすれば良い。
 カトマンズを出発した早い便のバスがここムグリンに入って来るようになった。ネパール東部にある国境の町カカルビッタやビラトナガル行きだろう。さあ、出発だ。これからカトマンズへ向かうと多くのバスとすれ違う。カトマンズを出る最終バスが20時だとすれば22時頃まで対向車がある。それが過ぎるとカトマンズへの最後の上りになる。
 暫らくは街道沿いにぽつんぽつんと小さな集落があったが上りに入るとそれも途絶えた。22時を過ぎた。時折すれ違う対向車はトラックに替わった。真っ暗い山の上方から下ってくる車のヘッドライトがチカチカと光る。その光によってカトマンズへ向かう道路がそこにあることを知らせてくれる。まだかなり上らなければならない。ぼくが見えるのはヘッドライトが照らし出してくれる狭い前方だけだ。道路は真直ぐには進んでいない、絶えず右左折をくり返す。運転手は顔をフロント・ガラスに近づけて道路の曲がりを早く読み取ろうとしている。上方から下りてきたトラックとすれ違うと前方に光はない。闇に包まれたつづら折をぼく達はひたすら上り続けた。 
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保釈・・・19 フィリップスについての推論・・・2

2016-06-17 | 5章 デリー中央刑務所  保釈

1994年10月24日、ぼくが逮捕された事を彼は新聞記事で知っていた。2日後の26日、第1刑務所の仮監房にぼくを引き取りに来ていたリーダーのトビキから一人の日本人が監房で自殺を計ったがインド人に発見され未遂に終った。スタッフ中毒の禁断が激しく第4刑務所、アシアナへ緊急移送されたという話しを彼は聞いていた筈だ。アシアナでぼくが自殺でもしない限り第1刑務所、第2収監区に来る事は確実だ。その事を前提にしてフィリップスは自分の釈放の計画を作った。彼は自分の釈放とぼくのそれをほぼ同時期にしようと考えていた。彼がリリースされぼくが保釈されるまでの間は1ヶ月以内であった。リリースされた彼はいつまでもぼくを刑務所内に置いて他のアフリカンに金を吸い取らせる必要はないと考えた。ぼくをリリースさせフィリップスの目が届く範囲内にぼくを置いておけばスタッフ中毒者のぼくからいつでも必要なお金は引き出せると。
 今のぼくにとってそんな推論はどうでも良かった。もしそれが事実だとしても彼を責める気持ちなどぼくにはない。フィリップスはぼくにとって信頼できる売人である。ぼくがデリーに残りスタッフを吸い続ける限り彼との取引きは継続する。
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赤いミニトマト

2016-06-15 | ちいさな畑



綺麗な赤だ トマトは暑いのが好きなのだろう 先週から気温が上昇し始めている
今日の最高気温は30度 室温29,5度 暑いけど まだACは使わない
身体に少しづつ暑さに慣れて頂いてもらわなければひと夏は越せない
美味しそうなトマトだ 朝 写真を撮ったあと摘んで冷蔵庫で冷やしてある
自然の恵みに感謝して明日 いただく





 
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保釈・・・18  フィリップスについての推論

2016-06-13 | 5章 デリー中央刑務所  保釈

 夜、ぼくはベッドで横になり考え続けていた。アシアナから第1刑務所に来た時、ぼくとフィリップスは弁護士を誰にするかを話し合った。最初からバクシ弁護士の名前は出ていた、が彼は有能だが弁護費用が高いし今回、ぼくの事犯は小さな問題で彼に依頼する程の事はないというフィリップスの意見で当初の弁護士に決まった。フィリップスがこの最終段階に来てバクシ弁護士に変更した理由をぼくは推測してみた。ぼくが逮捕されアシアナでの治療が終って第1刑務所に収監された時点でバクシ弁護士に依頼していれば今回のような形で早く保釈の判決文を引き出せたかもしれない。フィリップスはぼくのケースを大した事ではない、直ぐリリースされると言った。だがそうはならなかった。彼の弁護士は誰だったのかぼくは知らないが彼のリリースはそんなに長くは掛らないだろうとの心象を彼は弁護士から得ていたのだと思う。フィリップスは自分がリリースされる前にぼくをリリースさせたくなかったではないのか、今、ぼくはそんな気がしている。彼は刑務所にいる間に裁判費用をここで稼がなければならない、そのお金を捻出させてくれる大切な客がぼくだ。ぼくが彼より早く刑務所を出てしまったら彼は金づるを失う。
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保釈・・・17  大使館宛の手紙とフィリップスからのメモ

2016-06-12 | 5章 デリー中央刑務所  保釈

   9月18日(月曜日)
    大使館宛の手紙
面会どうも有難う御座いました。
保釈がほぼ22日か23日に決まりそうです。インド的事務手続きですので遅れた場合は25日になる事も考えられますが。つきましては保釈金40万ルピーの支払いについては前回と同様、バクシ弁護士とマリーが大使館を訪れます。その時、私の自筆の手紙を持参しますのでよろしくご対応下さいますようお願い致します。
22日に判決文が出ますのでたぶん21日にお金を受取りに行くと思います。翌22日に裁判所へ保釈預託金が完納されれば即、釈放される可能性もありますがたぶん23日になると思っています。釈放されました時には大使館へお礼に伺いたいと思っています。
当日、私はお金を持っていませんので21日マリーが大使館へ行ったとき2万ルピーをお渡し下さい。彼女が刑務所へ迎えにきてくれる事になっていますので。

   9月22日(金曜日)
 ニューデリーにあるパテラハウス裁判所から戻って来たアフリカ人のフランシスが一枚のメモ用紙をフィリップスからだと言ってぼくに渡した。
(ハーィ・トミー、今日、保釈の判決文が出た。明日、23日保釈される。マリーと一緒に迎えに行く。フィリップスより)


6月は少しのんびりできそうだ が月末から町の一大イベント夏祭りへ突入していく
それは7月最終土曜日のフィナーレまで続く 区役所、自治会、商店街、子供会
町はその熱気と夏の暑さで風船のように膨れ上がる
しかし、やがて終わりがくる 風船がはじけると平穏な町となる 

お休み中にもかかわらず多くの方が訪問されページをお読みくださりありがとうございました
まだ長い旅が続いていきます・・・   tomy


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