ぼくはいつもひとり旅をしていた。ビハール州で日本人のW君と1週間程旅をしたことがある。ビハール州はマラリアの危険地帯である。
仏教の聖地ブッタ・ガヤには仏教国の寺院が点在している。ぼくらはチベット寺に宿泊の許可を求めた。日本寺があるのに、と一言嫌みを言われたが泊めてくれた。
モハンの茶屋で晩飯を食べ終えたころW君がやって来た。メジテーションをしていました。窓が開いていたので蚊が入っていると思います。日本製の蚊取線香があるので使って下さい。インドのそれは効かない。煙に追われて逃げはするが物陰で耐えている。煙が消えるとまたぞろ飛び出してくる。
蚊は必要な量だけ吸えば飛んで行きます。小さい斑点が残るだけです。叩こうとすると蚊は自分を守るため痒くなる物質をだして逃げます。
「なるほど、そういう事か」
日本製の蚊取線香は凄まじい。煙を出して十分もしただろうか?広げた新聞紙の上にぽたぽたと蚊が落ちてきた。新聞紙に集めた数匹の蚊を潰すと今吸ったばかりの鮮血だった。その中のひとつの蚊がマラリアを媒介しW君に感染させていた。そのことをぼくらはまだ知らなかった。