ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・42

2015-09-19 | 4章 遠い道・逃亡

      カトマンズへ

さようなら スノウリ ぼくはカトマンズへ行く 2度と戻っては来ない


午後3時頃には出発できるだろう、カトマンズに着くのは真夜中になるが着きさえすれば何とでもなる。
 出発の準備ができたのだろうボスが呼びに来た。助手席には40代のネパール人が乗っている、後部座席の右側にボスその隣にぼくが乗った。エンジンの音はあまり芳しくない、夜中の山道で故障しない事を願うだけだ。ぼくを乗せたボロ車はスノウリを後にしてカトマンズへ向かった。


連休の間 ブログの更新はお休みします 
「またぁ~お休みぃ~ 」 へぇ~
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・41

2015-04-06 | 4章 遠い道・逃亡

     国境・・・13


 無理をして2日に出発しないで良かった。マリーの気紛れで8日の出発は流れた。逃亡の第1難関である国境を抜ける日は今日だったのだ。2日でも8日でもない、今日、10日しかなかったのだ。昨夜から何度かあった逃亡計画の重要な選択肢の分岐点を間違うことなく進んできた。ぼくは迷い続けた。だが追い詰められてだした、最後の決断には誤りはなかった。窓の外を見ていた、気持ちの良い天気だ。
 ぼく達が乗った力車の車夫がレストランに入って来た。何の用があるのか、ボスが払ったお金に不満があるのか、マダムのところへ行って文句を言っている。しかしマダムの方が貫禄が上だ、彼女にまくし立てられ車夫は渋々と出て行った。まずいな。車夫が直接イミグレーションに入って行く事はない、がそれらしいカーストのインド人に話しを持ち込めばイミグレーションの捜査があるかもしれない。カトマンズ行きの夜行バスの発車は夕方からしかない、出来るだけ早くスノウリを出発する方がベターだ。
 ボスが出掛けて30分は経っている、遅いなと思っているとちょうど戻って来た。ぼくがテーブルの上に身を乗り出し手招きをするとボスが顔を寄せてきた。
「車を一台チャーター出来ないか?カトマンズまでだ」
「カトマンズまでか?車はあるかもしれないが高いぞ」
「当たってみてくれ、値段もな」
分かった、と言うと再びボスは出て行った。
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・40

2015-04-02 | 4章 遠い道・逃亡

     国境・・・12 


国境線を超えると10mくらい右前方にネパールのイミグレーションがある。前庭が見えるが誰もいない、管理事務所は広い。シーズンにはバックパックを担いだ旅行者で一杯になる事もあった。壁際にはビザ申請書を書くための立ち机があり、奥には書類受付の管理官用机が置いてある。今日この国境をインド側から通過したのは、列車で一緒だったヨーロッパ人だけだろう。ネパールに入ると車夫はスピードを加速し、イミグレーションとカスタムの前を走り抜けた。ぼくは後ろを振り返り、離れていく国境とイミグレーションの建物を見た。(ボーダーを抜けた。どうだ、やったじゃないか)どうしてこんなに上手くいったのかぼくには分からない、が何だかぼくの身体から緊張感が抜けていくようだ。ボスが道を指示していたが目的のレストランへ着いた。ぼくは力車代をボスに渡し入口で彼が来るのを待った。ネパール側のスノウリにはレストランを持ったホテルが何軒もある。中へ入るとボスはマダムと気安い会話をしている、ぼくは窓側のテーブルで外と入口が見渡せる椅子に座った。後はカトマンズへ行くだけだ。1人でも可能だ。ここでボスと別れるか、どうする。カトマンズ行きの夜行バスまでまだ時間がある、それまでに決めれば良い。
 ボスがテーブルに着くと頼んであったのだろう、マダムがウイスキーの小瓶と小振りの茶碗を持ってきた。ウイスキーを2つの茶碗に入れると乾杯の真似事をした。お互いにどんな言葉がこの場に相応しいのか分からない。それでも上手くやったなという満足感をぼく達は味わった。遅れて来る3人が気になるのかボスは一杯だけ飲むと立ち上がり、
「ちょっと待っていてくれ」
荷物を椅子の上に置いたままで外へ出かけて行った。
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・39

2015-03-30 | 4章 遠い道・逃亡

    国境・・・11

(何故だ、どういう理由からか、相次ぐ外国人の逃亡に国境警備を強化したのか)想像しなかった状況にぼくは狼えた。平日の通行量が多いこの時間帯は通常では遮断機は45度の角度で解放されていた。目の前の遮断機は完全ではないが閉められていた。通行が出来るのは少しだけ、遮断機が上げてある左端だけである、そこにネパール国境警備隊員が立っていた。力車の左側に座っているぼくは国境線を通るとき警備隊員の前、1m以内の至近距離を通過しなければならない。何も起こらなければ良いが、何か起こる可能性もある。遮断機まで10mはない、今からボスと席を替わるのは不自然だ。インド人もネパール人も往来は自由である、検問するとすれば外国人とトラックの荷物くらいだろう。(心配するな、上手くいくさ、何度も絶望的な状況を乗り越えてきた。自然の流れに乗っている、お前は生き続けるのだ)ハンドルを左へ切った力車は路側に沿ってゆっくりと進んだ。ネパール側から対向する2台の力車が国境線に近づいている。ぼくが乗っている力車も進みながら間合いを計った。目の前で1台がすれ違った。2台目は遮断機を越えると直ぐハンドルを左へ切って、ぼくの力車が進入する通路を空けた。前輪が国境を越えると、車夫は力車を前進させた。左前方に立つ国境警備隊員とぼくは接近した。そして横一列に並んだ。そのとき警備隊員のネパール語が聞え、次に右からボスがネパール語で返事をした。それだけだった。車夫は立ち上がり強くペダルを踏みだした。どんな会話だったのかぼくには分からない。知りたくもない。
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・38

2015-03-24 | 4章 遠い道・逃亡

    国境・・・10

 何かあったのか?車夫はスピードを落とし始めた。インドのイミグレーションが近づいているのは分かっている。力車が殆ど停まるのではないかと思うほどスピードを落とすと、車夫は後ろを振り向いた。そして
「パスポート・チェック、パスポート・チェック」
と2度ぼくに言った。インド人は車夫や飯屋の下働きをしている者でも、ある程度は英語を理解する。ぼくとボスの会話を奴は聞いていた。ぼく達が今やっている事を奴は知っている、まずい。パスポートという単語だけが奴の頭に残っている。ぼくは何事もないように前を見ていた。ボスは落ち着いていた、それは隣に座っているぼくに伝わってくる。ボスは密輸入を繰り返し、何度もここを通り抜け対応の仕方を知っている、それは少しくらい危ない場面に遭遇しても自信を持った態度で臨む事だと。ボスは一言、車夫に返事をした。彼が何を言ったのかぼくには分からない、が車夫は立ち上がり力強くペダルを踏みだした。最も危険なポイントは無事に通過した。次はカスタムだ。その先がインドとネパールの国境線上にある遮断機でそこまでがインド国内だ。国境線上を越えるとぼくは逃亡者となる。
 車夫は少しだけスピードを落とし顔を横に向けると、「スタンプ、スタンプ」と、ぼく達にカスタムがある事を知らせた。チョロ、チョロと言うボスの声が聞えると車夫は力車を走らせた。国境は通過できる。そんな安堵感がぼくの内に芽生えようとした瞬間、前方を見たぼくは不安に囚われた。
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・37

2015-03-19 | 4章 遠い道・逃亡

    国境・・・9

ぼくは何も考えなかった、これが流れなのかもしれない。どういう結果になるのか誰にも分からない。奴らとの出会いも流れだ、こうして奴と国境を抜けるようになったのも流れだ。自然の流れに流されていこう。ぼくは黙って力車に乗り奴の隣に座った。
「チョロ」
右手でハンドルを握り客台に左手をかけ車夫は力車をバックさせた。ハンドルを左へ切ると力車の向きが変った。ハンドルで方向をとりサドルにかけた手で力車を引っ張り少しずつ加速していく。頃合をみて車夫は力車に飛び乗った。暫らくの間、車夫は立った状態でペダルを踏み続け力車を加速した。走れ力車、5分で国境を抜けることが出来る。
 ボスは何も聞かない、ぼくも黙って進んで行く前方だけを見ていた。気持ちに余裕があるわけではないが、これから先の状況だけを考えていた。進行方向に向かって右側にボスそして左側にぼくが座っている。インドのイミグレーションもネパールのイミグレーションも右側にある。管理事務所の中から左側に座っているぼくを見ることは出来ない。カスタムは右側にあるが気にする事はないだろう。力車は通りの左寄りを走っている。昼にはもう少し時間がある、午前の仕事に追われたインド人やネパール人が忙しく行き交う。力車は順調に走っている、このまま何事もなく進んで欲しい、視線を上げるとネパールの山が視界に入った。国境を抜ける通りに入って既に30mは通過している、残りは70mだ、絶対に国境を突破する。そうしなければ11ヶ月の刑務所収監や約1ヶ月の精神病院での治療、逃亡計画と準備はマリーの手助けによる、それら今までやってきた全て無になる。否、無ではない再収監されたら生きて日本へ帰る可能性はない。

70年代 国境の町スノウリの朝 古い写真だ スキャンで調整した しかしこれが限度だった

90年代 通りには商店が並び人々が行き交っていた
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・36

2015-03-12 | 4章 遠い道・逃亡

    国境・・・8

町や村が近づくとオート力車や自転車が走っている。荷台に藁や家族を乗せてのんびりと牛車が歩いている。そこには昨日から今日、そして明日へ何も変らない人々の生活がある。道を歩いている人が手を上げるとバスは客を拾う、車内の客が合図をすればバス停など関係なく停まる。急ぎの客が文句を言おうが、ノープロブレムだ。バスは遅れているのかもしれない、だが確実にスノウリに近づいている。成るようにしかならない。幾ら考えても、どんなやり方をしても100パーセント安全な方法などはない。スノウリに着いたら町の通りを見てみよう、通り抜ける事が可能なら行く。危険だったらこのバスでゴラクプールへ戻る。明るいうちに一度だけでも通りを見ておけば夕方、通り抜ける時には役に立つだろう。町が近づいてバスはスピードを落とした。今まで何度か町に停まったがこんどは違う。客のざわめきとバスの通路に置いてあった荷物の整理が始まった。「スノウリか?」「そうだ」
そんなインド人の会話が聞える。町の通りに入ったバスは徐行を続けていたが、左側のバス停らしい広場に頭から突っ込んで停車した。スノウリ、スノウリ呼び込みはそう客に知らせて降車を促がした。降車口からの列が続いている、ぼくは割り込まないで列が短くなるまで待った。短くなった列の後尾に並んでいたぼくはのろ々とバスから降りた。眩しいような空だ。国境への通りに向かって歩こうとした時、バスの横に平行して停まっている力車を見た。力車から降りてハンドルを握っている車夫と、力車の客席の右側に座っているネパール人のボスだった。立ち止まって車夫が座るサドルに左手をかけ、前を向いたままぼくは一つ息を吐いた。
「パスポート、あるのか?」
「ない」
ボスとぼくの目が合った。ボスは顎を左へしゃくり
「乗れ」とぼくに言った。 




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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・35

2015-03-10 | 4章 遠い道・逃亡

    国境・・・7


こういう町の短距離バスには時刻表のようなものはない、客が一杯になれば発車する。1人でも多くの客を早く取りたい。客が取れないといつまでも発車できない、それだけではない早く出そうなバスに客を取られる。前方のバスが先に出そうだ。客の足がそこへ流れている、インド人の間にネパール人もいた。(クシナガルを通るバス停もこの近くにある、どうするんだ)迷っていた、ぼくは迷い続けていた。迷いは良い結果を生まない、それもぼくは知っている。スノウリ行きのバスの方へぼくは歩いていた。駅から出てきた客の流れが途切れると右側の客引きは呼び込みをやめた、次の列車が着くのを待つのだろう。バスの入口に押し寄せていた人々が中へ吸い込まれていく、ネパール人も乗った。バスの前に立っているのはぼくを含め数名だけになった。客引きが早くバスに乗れとぼくを見て手招きをする、(乗るのか、スノウリへ行ってどうする、計画どうり動いたらどうだ、どうしたら良いのか誰か教えてくれ、ぼくには分からない)ぼくはバスに乗った。
「スノウリ、スノウリ・・・」
出発するぞぉ~、と大声で叫びスノウリを連呼する客引き。バスの運転者は出発を知らせるクラックションを数度、長く鳴らした。エンジンが始動する。バスはゆっくりと走り始めた。
 バスは町を通り抜け街道に入るとスピードを加速した。両側の並木に挟まれた道路はどこまでも真直ぐに延びている。その先に国境の町スノウリがある、今ぼくはスノウリへ向かっている。(何故だ、計画とは違う、これで良いのか、上手くいくのか)これから何が起こるのか、ぼくは何も分からない。


ガタガタと窓の音がする あぁ風が吹いている 眠りのなかでそう思った
暴風雪警報が解除されたのは昼頃だった 雪は朝ぱらっと降っただけ
もう10年以上 雪が積もったという記憶はない 強い風が吹いていたが買い物だ 
ほうれん草 大根 たまご ししゃも 納豆 牛乳その他
湾の水温が上がっているのだろう 日曜日 海へ行って小さなクラゲを見つけた
1ヶ月もするとアジが湾に入ってくるだろう 皆それを楽しみにして待っている 
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・34

2015-01-08 | 4章 遠い道・逃亡

   国境へ・・・6

悪い奴らではない、4人に囲まれるようにして通りを歩いていけば抜けられる。ぼくが逃亡していると彼等は思っていない。インドでオーバースティした、カトマンズで新しいパスポートを作る、それで奴らは信用する。ぼくがパスポートを持っていない事をイミグレに密告しても奴らには何の利益もない。一度、ぼくは話すチャンスを逃した。通路側の窓に立ち外を見ていたボスにぼくは近づき並んで窓の外を見ていた。
「もう近いのか?」
「あぁ、もう直ぐだ。あの建物が見えてきたからな」
ボス・・・話そうとした、だがその先の言葉がぼくの喉に絡み付いて出てこない。
「荷物の用意をしろ。そろそろ着くぞ」
振り向いたボスはネパール語でそう言ったのだろう、若者達はベッドの上段から荷物を降ろし始めた。
 スピードを落とした列車は駅のホームへゆっくりと進入し停まった。何度も見た小さな地方の駅、ゴラクプールだ。ぼくは逃亡行動をしている、しかしまだ逃亡はしていない。今夜の夜行列車でデリーへ戻り15日に裁判所へ出頭すれば何のお咎めもない。(何を考えているんだ、ここまで来て、しっかりしろ馬鹿野郎)ヨーロッパ人は列車が停まる前にバックパックを持って出口へ歩いて行った。もう降りていないだろう。ぼくはバッグを提げてプラットホームに降りた。空は晴れている、暖かくなりそうだ。陸橋の階段を見るとネパール人達が上っている、ぼくは付かず離れずの間合いをとって後ろからついて行った。(チャンスはあったのに何故、どうして話さなかった。一人でクシナガルへ行くのか)ゴラクプール駅前へ出ると前方と右側に2台のバスが停まっていた。列車が着いたのは分かっている、大勢の客を見て両方の客引きの呼び込みが激しくなった。
「スノウリ、スノウリ、スノウリ・・・」
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ジャンキーの旅        遠い道・逃亡・・・・・33

2015-01-05 | 4章 遠い道・逃亡

  国境へ・・・5 

列車の揺れと一定のリズムを刻むレールと車輪の音を聞いているうちに眠りに落ちた。大分、眠っていた。目が覚めると向かいの座席にネパール人達が座っている。窓の外はもう明るい、枕元の時計を見ると針は7時少し前を差していた。ゴラクプールまで後1時間しか残っていない、ぼくは慌てた。この大事なときに寝過ごすなんて、今日の行動はどうする、まだ何の結論も出ていない。起き上がり窓側に座って煙草に火を点けた。(どうするんだ、1人でクシナガルに行くのか)計画は立てていた、だが実際にその場に直面しないと、どう動いたら良いのか分からない。(どうするんだ、早く結論を出せ)心は騒ぐが頭の中は混乱していた。チャイを2つ持ってボスが戻って来た。
「ジャパニー、チャイだ、飲めよ」
と言ってぼくにチャイを渡してくれた。
「どこへ行くんだ?」
「カトマンズだ」
「じゃ、俺達と同じだ」
いつもだったらこれから会話が弾む、だが今はそんな気分になれない。ぼくは気難しい顔をしていたのだろう、ネパール人もそれ以上は話し掛けてこなかった。列車がスピードを落とし始めた。
「着いたのか?」
「いや、この次だ」
ぼくはトイレに入ってスタッフを入れた。少し気持ちが落ち着くだろう。ネパール人との関係は良くなっている、ボスに本当の事を話して助けを求めるべきか、ぼくはどうしても決心がつかなかった。
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