国境・・・9
ぼくは何も考えなかった、これが流れなのかもしれない。どういう結果になるのか誰にも分からない。奴らとの出会いも流れだ、こうして奴と国境を抜けるようになったのも流れだ。自然の流れに流されていこう。ぼくは黙って力車に乗り奴の隣に座った。
「チョロ」
右手でハンドルを握り客台に左手をかけ車夫は力車をバックさせた。ハンドルを左へ切ると力車の向きが変った。ハンドルで方向をとりサドルにかけた手で力車を引っ張り少しずつ加速していく。頃合をみて車夫は力車に飛び乗った。暫らくの間、車夫は立った状態でペダルを踏み続け力車を加速した。走れ力車、5分で国境を抜けることが出来る。
ボスは何も聞かない、ぼくも黙って進んで行く前方だけを見ていた。気持ちに余裕があるわけではないが、これから先の状況だけを考えていた。進行方向に向かって右側にボスそして左側にぼくが座っている。インドのイミグレーションもネパールのイミグレーションも右側にある。管理事務所の中から左側に座っているぼくを見ることは出来ない。カスタムは右側にあるが気にする事はないだろう。力車は通りの左寄りを走っている。昼にはもう少し時間がある、午前の仕事に追われたインド人やネパール人が忙しく行き交う。力車は順調に走っている、このまま何事もなく進んで欲しい、視線を上げるとネパールの山が視界に入った。国境を抜ける通りに入って既に30mは通過している、残りは70mだ、絶対に国境を突破する。そうしなければ11ヶ月の刑務所収監や約1ヶ月の精神病院での治療、逃亡計画と準備はマリーの手助けによる、それら今までやってきた全て無になる。否、無ではない再収監されたら生きて日本へ帰る可能性はない。
70年代 国境の町スノウリの朝 古い写真だ スキャンで調整した しかしこれが限度だった
90年代 通りには商店が並び人々が行き交っていた