テーブルに立てたローソクの灯を見ながら ぼくは小舟に乗って揺れている、遠くへ、遠くへ流される。身体が左右にゆっくりと心地よく揺れる、仄かなローソクの陽炎。夢遊、ドラッグの幽玄に意識が流れる、それは無に近づく意識の放棄。身体が円を描き始める、回りながら円は大きくなり闇の中へぼくは落ちた。
「どうしたの、トミー」
「キャー、ひどい血だわ、動かないでトミー、お願いだから」
「じっとしてるのよ、分かった」
ぼくは円を描いていた、テーブルを倒しながらベッドから間へ落ちた。上へ延ばした腕に頭を乗せ横たわっている。割れたガラスの破片がぼくの右手首の静脈を切ったのだろう、手首から流れる鮮血。それは妖しいケシの花弁。
彼女はぼくを抱き起こし、ベッドに凭れ掛けさせ血を拭くとその腕を頭の高さに持ち上げた。無言で片付けをするマリー。終るとぼくの手首に包帯を巻き
「明日は病院よトミー、ガラスが入っているかもしれないから」
「ごめん、マリー」
「トミー・・・」
「うぅん」
「何でもない、おやすみ」
トミー、もう駄目だわ、マリーが胸に飲み込んだ言葉をぼくは気付いていた。傷が治ったらぼくは街へ戻る。