ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

第1話 山のアシュラム  サソリ・・・4

2016-01-13 | 第1話 クマルとサソリ

「殺す」
 入口のドアからある一定の間隔でそれはいた。屈み込んで見ると紛れもなくサソリだ。乳白色をした子供だろう、うずくまって動かない。びびっているわりには一瞬、ぼくは写真に撮ろうかと考えた。しかしフラッシュで親サソリが目を覚まし子供サソリのところへ走ってきたらやばい状況になる、やめた。殺すしかない、まず親からだ。腕の長さと手に持ったサンダルで叩き潰せる距離までぼくは忍び寄った。親サソリは疲れているのか尾っぽを跳ね上げる攻撃的な姿勢をとらない。力一杯サンダルを打ち下ろすと、そのサンダルを履いてぼくは子供サソリを次々と踏み潰した。潰れたそれらは箒で外に掃きだした。
生あるものを慈しむインド人はぼくに言うだろう
「何も殺すことはない」


1回目サソリとの出会い ハタヨガ・インストラクターに助けを求めた
彼はサソリに刺され3日間寝込んだ 朽ちかけた木の間にいるサソリに
藁ほうきで向かう 2軒先が彼の部屋だ 逃げ出したサソリはどこへいくのか
初めから彼は殺す気持ちなどなかったのだ 
生あるもの サソリも蛇もカラスも木々、花々、そして人間も
聖なるガンジス河と山々によって生かされている
       
              第1話 クマルとサソリ    終わり 
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第1話 山のアシュラム  サソリ・・・3

2016-01-12 | 第1話 クマルとサソリ

 カトマンズの村で自炊をしていた時、空飛ぶ大ゴキブリを見た。部屋に飛び込んで来たそれは2~3回天井の辺りを旋回すると床に降り羽根をたたんだ。カナブンかカブト虫? なんと今まで見たこともない5センチ以上もある黒褐色のでかいゴキブリだった。大ゴキブリは床の上を走り回りぼくは逃げ回った。
空飛ぶ大きなゴキブリにど肝を抜かれてしまった。もしサソリがそのような羽根を持ち近辺を飛び回ったらぼくには成す術はない。
どうする、思案顔を下に向けた視線の先に何やらを捕らえた。
「うむ・・・」
「ひぃ~~~」(孤独な無音の叫び)

アシュラム内の勉強机 椅子は使わず手前のベッドから机に向かった

[エスコ ケトナパイサ] これなんぼや
[ジャパニババ パイサナヒィン] ジャパニババ お金はいらん
ババから手に入れた青い本 ぼくが学んでいるアシュラムが著作元だ 日本で読んだヨガの本
その一冊がこの本を翻訳されたことに気がついた 今も手元にありお世話になっている
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第1話 山のアシュラム  サソリ・・・2   

2016-01-08 | 第1話 クマルとサソリ

 

 夕方の瞑想と食事が終わるとぼくはいつものようにガンガ河畔のババ達のところへ向かった。ババ達はぼくが来るのを待っている。懐中電灯の灯りが闇の中でチラチラと光り、別館下を照らすと暗闇の中に座っているババ達の顔が浮ぶ。シャンボー、とババの声がする。シャンボーと言ってぼくは座りチャラスをババに渡す。1本目のチラムが回り始める。
「オーム・ナム・シバー」
「ボーン・サンカール」
ババ達はそれぞれの神を讃えてチラムを吸う。突然、雨季でもないのに雨が降り出した。しかし、ここは別館下だから雨に濡れる心配はない。雨は激しくなる。2本目のチラムが終る頃には小雨に変った。ちょっとふらつく足どりでぼくはアシュラムへ戻る小道を上った。
 やっと部屋にたどり着きベッドに腰を掛けようとした時、ベッドの敷物の上に茶褐色をした何かがいる。何だろうというふうに近寄って見たぼくは2~3歩後ずさりをした。
「どひぇ~~~~」
「サ、サ、サソリじゃないの君は?」
心臓はドキドキし足は小刻みにふるえた。2度目の出会いである。姿は細長い海老のようだがはさみと上半身のサイズに比べると尾っぽは細く尖っている。その尖った尾っぽの先に毒を出す針があるらしい。
 クマルの馬鹿、藪から棒ではなくサソリとは。季節外れの雨に軒を刈られちゃサソリだって避難するしかないだろう。藪に生息する生き物へ藪の1部を残すとか、そのような配慮や愛があればこのような事態にはならなかった。歓迎されざる生き物の侵入を招いた責任はクマルにある、馬鹿。

1日中 冷たい雨と風 やっと冬になりそうだ 
ストーブの用意はしてあるがまだ一度も使っていない
寂しそうなストーブ君 出番ですよ~
明日から三日間 お休みします


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第1話 山のアシュラム 何か起こる予感・・・1 

2016-01-07 | 第1話 クマルとサソリ



リシケシの山の中には大きな蛇がいる。吊り橋を渡ってガンガの上流へ歩いて行くと道の両側にはヨギ(ヨガの修行者)の小屋が何軒もある。その道端に大きいものでは2m近くもある蛇を肩にかついで座り込んでいる者が何人もいた。ヒンズー教では蛇も神様である。蛇の頭を触ると御利益があるらしい、おばちゃんに手招きされ近くにいってみたが恐い。三角形の大きな頭、口からピンクの細長い舌がびょんと出たりする。蛇の頭を触るとおばちゃんはパイサ(お金)を出せと言うに決まっている。蛇だって機嫌が悪いときがあるかもしれない、手を出すといきなり顎の関節を外してガブリと咬みつかれたらたまったものではない。蛇の牙は咬んだ獲物を逃さないように内側に曲っているらしい。
 花壇の藪の中には何かいる、ぼくは不安を感じていた。正直言って朝と夕方の瞑想の行き帰り何か出そうでぼくはびびっていた。まあ、これで一安心だ・・・と思ったこの夜に事件が起こった。
リシケシの町からきた道路の左側は山である。その山の斜面にぼくが住んでいるアシュラムが建っている。道路からアシュラムへ行くには専用の小道しかない。かなり急な上り坂だ。坂を登りきったところがちょっと広くなり、右側に大きなメインホールがあり左は事務所やライブラリーになっている。小道は真直ぐ山の上方へ続き左右には長屋式の宿舎が建っている。坂を下り道路に出るとすぐ右前にアシュラムの別館がある。聖地リシケシは山間を流れる広いガンジス河と多くの山に囲まれ平地は少ない。道路から河川敷に5mぐらい下がっているのだが、そこに鉄筋コンクリートの柱を建て道路と同じ高さの別館が建てられていた。別館の中に入ったことがあるが20畳ぐらいの広さがある。この建物の下は数本の柱があるだけだ。暑いときには日陰で涼しい、雨が降っても心配はない、ババ達にとっては絶好の生活の場となっていた。いつも10人前後のババ達がたむろし、その中へぼくは入り込んでいた。
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第1話 山のアシュラム  蛇とクマル・・・2   

2015-11-09 | 第1話 クマルとサソリ

「待て、ちょっと待て」と言ってクマルは部屋から出て行った。
奴は何をするつもりなのか?ちょっと不安もあったが背中の痛みは我慢ができない。そこへ油が入った小ビンを持ってクマルが戻ってくると、上半身裸になってうつ伏せに寝ろと言う。横になるとぼくの背中にオイルを塗ってマッサージを始めた。オイルを塗った背中を指で滑らせると硬くなった筋肉が分かるのだろう、そこを親指でぐいと押される。とてもじゃないが痛くて、うぅと唸ってぼくはベッドを拳で叩き足を跳ねる。クマルは面白しろそうに笑いながら硬い筋肉をほぐしていく、30分ぐらいマッサージをやってもらった。楽になった、有り難うとぼくが起き上がると目の前に奴の手が出てくる。インドで無料の奉仕などあり得ない、しょうがない5ルピーを手の上に置くとクマルは部屋を出て行った。それからぼくの顔を見るとマッサージ・マッサージと言うようになった。
 この日、クマルはぼくの部屋の前にある長方形で大きい花壇の手入れをしていた。外出から戻ってきて花壇を見ると疎らな花と苗らしき草を残して丸坊主にされている。茫然と花壇を見ているぼくにクマルが近寄って来た。1m程の高さに茂っていた藪の中から、彼は両手を広げて、こんなに大きな蛇が飛び出して逃げた、とぼくに告げた。
「やっぱり、おったか。でかいのが」

1日中 小雨が降り ベランダから見える山の竹林は西風に揺れている
昨日は11月なのに最高気温25度 夏日だった 気温が下がりそうだ
  
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第1話 山のアシュラム  マッサージ師クマル・・・1

2015-10-29 | 第1話 クマルとサソリ


ネパール人のクマル 後ろはアシュラムのメーンホール 毎日ここで瞑想とハタヨガの指導を受けた

 ヨガ・アシュラムに入って2週間が過ぎただろう。アシュラムの日課は日曜日を除いた毎日、夜明け前と午前10時から、それと日没までの3回、各1時間の瞑想である。それともう一つは午後のハタ・ヨガ(エクササイズ)である。この4つは特別な事情がない限り参加するよう一応は義務づけられている。アサナという瞑想をするポーズが何点かあるが同じ姿勢で1時間、瞑想を続けるのは中々に難しい。自分に合ったアサナを選ぶ必要がある。瞑想の姿勢をしたとき頭から背骨が真直ぐに立たなければならない。しかし日常生活では姿勢がどちらかに傾いていたり、体がねじれていたに違いない。1週間ぐらいは真直ぐに坐ることが出来た、がそうする為に背中の筋肉は無理をしていたのではないだろうか。その後、瞑想の姿勢をすると背骨の両側から背筋全体が痛くてとても瞑想どころではない。部屋へ戻るとベッドの上に丸い薬ビン(正露丸)を置いて横になり背中を押し当て転がって一人でマッサージをしていた。そんなぼくを窓の外から不思議そうな顔をして覗いている奴がいる。何をやっているんだ、ジャパニーは?奴の顔にはそう書いてある。クマルである。
 ネパール人クマルはアシュラム内の庭や花壇の手入れを仕事としている。何度か見かけたことはあるが話しをするのは初めてだ。まあ話しをするというよりは殆どボディー・ランゲジーだ。
「ジャパニー、マッサージ、マッサージ~?」と言いながら彼は手で揉む仕草をする。
「おぅそれだ、マッサージ、それだよぅ~」
指で彼を差しながらぼくは起き上がる。
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第1話 山のアシュラム  サソリ・・・2

2015-10-27 | 第1話 クマルとサソリ

 サソリはアフリカに生息するものだとぼくは固く信じていた。突然こんなところに現れてもらっては困る。ぼくは度肝を抜かれサソリがベッドに上がってくるのではないか、とキョロキョロ周りを見回す。何とかしなければ、これではトイレには行けないし、ベッドで安心して眠ることも出来ない。ぼくはベッドの上でサソリの発音を和英辞典で調べた。長屋の奥にインド人が住んでいる。彼はハタ・ヨガのインストラクターだ。彼なら安全に処理してくれるのではないだろうか。ぼくは彼の部屋へ行き状況を説明し助けを求めた。ノープロブレム、彼はおっちょこちょいの一面はあるが人柄は悪くない。ぼくについて部屋に入った彼に懐中電燈を渡すとぼくは逃げ腰でベッドに上がった。ぼくが指し示す場所へ、パタパタとサンダルの音をさせながら無神経に彼は近づく。彼はしゃがみ込んで木の窪みに懐中電灯の光を当て、その先をじい~と見ているかと思ったら、いきなり奴はびびって2~3歩後ずさりをした。
「やばい、こいつに刺され3日間も高熱にうなされた」
「どうする、サソリがここにいたらぼくは困る」
うぅんと唸っていたが、奴は掃除用の藁ほうきを持って来ると
「エイー」
と、ばかりに窪みからサソリを追い出した。サソリは驚いてかトイレとシャワールームがある方へ、尾っぽを跳ね上げ逃げて行ってしまった。
「どうだ」と奴。
それ以後トイレが恐くて安心して使えなくなりぼくは便秘に苦しむ事になる。

半月か やっと雨 毎朝 湾へ釣りに行っていた 最高気温25度 潮焼けしたおっさんの顔になった
イイダコと甲イカのシーズン イカを捌いて刺身 ゲソはバター焼き 呑んべぇ~Tさんと呑む
うまかぁ~ねぇ~ うん うまかぁ~ みんな湾の有り難い恵みに感謝・・・
寒冷前線が南下 気温は下がる これから甲イカが美味しくなる 

 
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第1話 山のアシュラム  サソリ・・・1

2015-10-25 | 第1話 クマルとサソリ

アシュラムに入ったばかりの頃、ぼくは古くて狭い5軒長屋の宿舎に入れられていた。ある夜、ベッドに坐り机の上に開いたヨガの本を読んでいた。3月中は寝る前に扇風機を止めることもあったが4月に入ると扇風機は回り続けている。アシュラムが出版している英文のヨガの本を英和辞典を片手にぼくは悪戦苦闘をしていた。その時、机に向っているぼくの右目の端が何か動く物を捕らえた。前にある机の左端から右斜め後ろへ床の上をすぅ~と動く。扇風機の風が糸くずを動かしたのだろうか。動いた物はどこへ行ったのか、ちらっと見るとトイレとシャワー室へのドア辺りへ行ったようだ。ドアを囲む木材もドアの下部も朽ちかけその窪みは暗い。何となく気になったぼくは懐中電灯を手にしてベッドから降りた。宿舎は4・5畳ぐらいの広さで入口の左側に壁に沿ってベッドと机が置いてある。トイレとシャワーは右側のドアから入るが隣の部屋との共用になっている。暗い窪みに懐中電灯の光を当てながら近づいていく。窪みに何か黒いものがいるようだ、が朽ちた木の隙間と一体化して何だかはっきりとは見えない。なおも近づきながらライトを当て左手を出そうとした瞬間、黒いものがビクと動いた。ぼくは手を引きじぃっと見ていると黒い形をしたそれの全体像がはっきりと見え始めた。両手を床に着け尾を跳ね上げ逆立ちをしている濃褐色の生き物だ。その生き物もぼくを見ているのではないだろうか。図鑑や映像による予備知識はある、がそれと当面している現実の出会いとの認識の照合確認に数秒の時間が必要だった。これはゴキブリでもムカデでもない。これがサソリという生き物なのか?
「どひぇ~~~~~」
ぼくはベッドに飛び乗った。
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