ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

第13話   回収ババ・・・1

2015-07-30 | 第13話 回収ババ その他・2

 米などを運搬する茶色い大きなずだ袋と長さ50㎝くらいの物挟みを持ってガンガ河岸を何か探すように歩いている男をよく見かけた。何をやっているのか分からないが自分の足元や目先ばかりをキョロキョロと見回している。痩せてひょろっと背の高い男だ。人相は遠目に見ても悪そうだ。だいたいがインド人の男で可愛らしいとか優しい顔というのと出会った記憶はない。男は長挟みで物を挟んでちらっと見やるとずだ袋の中へ入れた。ずだ袋の下の方が少し膨らんでいる。ガンガ河畔のゴミを回収している作業員だろうか、しかしインドにそんな職業があるとは思えないが。ラムジュラ辺りからずっと下流の方でもこの男を見たことがある、がいつ見ても男は自分が立って見渡せる範囲内をキョロキョロと何かを探している。奴を度々見かける場所はラムジュラへ向かう参道のジュース屋の辺りだ。男はどこに住んでいるかぼくは知らない、がそこは奴の作業道路になっているのかもしれない。
 出店のババとチラムを吸っているとこの男が下流からやってきた。今日の仕事は終ったのだろう、ずだ袋を肩にかけ真直ぐ歩いてくる。男は出店の前にくると袋を置きガンガで手を洗い戻ってきた。
「商売、ならんな~、一服するか」そう愚痴を言うと出店のババからチラムを受け取った。チラムを吸う合い間に男は出店のババと商売の話でもしているのか時々大きな口を開けて笑っている。人相は悪いが人はそれほど悪くはなさそうだ。
この男が回収ババだ。何をやっているのかちょっと興味をもっていたぼくは
「河岸でうろうろしているけど、何をやっているんだ?」
と聞くとババはずだ袋の方を見て顎をしゃくった。 
「ババ、中を見ていいか?」「おぅ」
袋を開いて中に目をやると紙くずや枯枝などが入っている、やっぱりゴミの回収屋だ。




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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・49

2015-07-27 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

 グラウンドでダイクに会った。トイレかと聞くと彼は顎で素焼きの水瓶を見ろと合図をした。中は水でなく火の点いた蝋燭が入っていた。トイレでチェーシングをやるつもりだ。ダイクとすれ違ってから如何して彼はトイレでチェーシングをやろうとしているのか理由が分からなかった。7房を覗いてみると外房に燃えた布が捨てられている、房内を覗いてみるとジュドゥの機嫌が悪そう。ジュドゥにとってアミーゴはまぁ良い客と言えるだろう、パケを買った後ベッドの下で吸わせてくれとアミーゴに頼まれ、良いだろうという事になった。火種から火を取ってベッドの下に潜り込もうとした時、アミーゴが持っていた火が布に燃え移ってしまった。大騒ぎして火を消し布を外へ投げ捨てた。
「アミーゴの馬鹿・・・」
と言いかけてジュドゥはベッドにごろんと横になった。思い出したら又、頭にくるからやめたのだろう。
木の下の台座に座っているアミーゴ
「どうした」
奴は両手を広げ、首をちょっと傾けて
「アイドンノォー」と言った。
頭を見るとかなり髪が焼けている、縮れた金髪は鳥の巣のようになっていた。ぼくは台座の上で笑い転げた。照れ臭そうに笑うアミーゴ。
  


朝 畑から採った野菜を友人が持ってきてくれた 今月 野菜を買う必要はなさそうだ
黄色いミニトマトは初めて食べた 甘くて皮が柔らかい やはり畑だなぁ~と思った
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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・48

2015-07-24 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

   5月20日(土曜日)
 ガラームとはヒンディー語で辛いとか熱いという意味で使われる。ガラム・パニと言えばパニは水という意味だから熱い水、つまりお湯のことだ。5月に入ると熱さに慣れたインド人でもガラームのラに強いアクセントを置いてガラーム、ガラームとダブらせて恨めしそうに言う。この時期だけは蝿も蚊もいない、あらゆる水分は蒸発して大地はから々に乾く。 
南インドで品質改良されていない大きくてでこぼこした梨を買った事がある。ナイフで皮をむいていたが焼きが入っていないインドのナイフは曲ってしまった。食べてみると殆ど繊維質で微かに梨の味がした。ぼくが知っている果物の梨とはあまりにも異なっていた。梨は芯にある種子を守る事で精一杯なのだろう。大根の皮も厚かった。
 グラウンドの反対側、第4収監区の後塀に沿って両サイドに井戸があるがその井戸の間はレンガ等が捨てられ荒れていた。今、見ると畑になっている。監督官マダムの視察があった時アフリカ人はこの件について許可を得たのだろう、鍬とかの道具をリヤカーで持って来て作業をしていた。この熱い最中、何をやろうとしているのかぼくには分からなかった。今は畑らしくなっている。何本か枯れそうな苗木もあるがバナナの大きな木は1mくらいまで成長していた。殆どバナナの木だがその周りに植えられているトマトの苗も大きくなって何本かは小さな実をつけていた。井戸は近いので朝、夕に水をやっているアフリカ人を時々見かけた。
「バナナはいつ頃できるのか」
「今年は花が咲かないだろう」
とすまし顔のアフリカン、彼は次の年を考えているのか、何年もそのようにしてここで生きてきた。ぼくはスタッフをやりながら早くここから出る事だけを考えていた。



最高気温35度 暑い 九州北部の梅雨明けの発表は台風12号が通り過ぎてからだろう
画像は2013年7月に掲示した 7月8日に梅雨明けしている 脱皮した蝉の殻をトマト畑で見つけた
初めての体験だが うぅ~ん そういうことか という曖昧な表現しかできない 蝉が鳴きだした
午前中 洗濯をし午後は布団干し ベランダから周りを見るとどの家でも洗濯物が干してあった 
晴れを待っていたのだろう
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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・47

2015-07-21 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

  5月2日(火曜日)
 本格的な熱さになってきたがまだ始まったばかり、ピークは6月だ。朝、起きると腕の毛穴に微粒子の白い結晶がついている、塩だ。汗は毛穴から蒸発してしまった。熱さと禁断で身体がだるい。スタッフを入れたいのだが生活のリズムを壊す訳にはいかない。トイレが終った後、井戸水で身体を洗う日課が一つ増えた。空気が乾燥しているとはいえ肌の不快感は残っている。身体を洗いさっぱりして一日の始まりの儀式、スタッフを入れた。ちょうどその頃、朝のティータイムになる。スタッフが効いて身体が動き出すとオマールを連れて売店に行った。ソヤビン入りのカレー炊込み御飯が美味しい。オマールに買いに行かせてぼくは木の台座に座って待っている。手の平くらいの葉っぱに盛られたカレー御飯が5ルピー、オマールの分も合わせて10ルピー、日本円にしたら30円くらいだ。熱さに負けない為には体力が必要だ。食べられる物は少しでも多く食べて体力の低下を防ぐ、長くて熱いインドの夏を乗り切るのはインド人にとっても容易な事ではない。スタッフをやっているから普通に食欲はあるし睡眠もとれている。しかし睡眠中、肌に塩が残るほど発汗していれば眠りによる疲労の回復はそれほどではないのかもしれない。
 テレビが各房に普及し始めていた。ぼくの3房でもテレビを入れる話が出てきた。一台1300ルピーくらいで買えるらしい。ぼくに1000ルピー負担してくれないかと言ってきた。施錠による房内拘束は一日の内15時間だ。夕食後は何もする事がない、テレビでもあれば少しは気晴らしにはなるだろう。東京銀行の両替が無事に済んで少しお金に余裕が出来た。ぼくはOKした。

九州は毎日のように雨が降る 今夏はじめて数分だが蝉が鳴いた そろそろ梅雨明けだろう
洗濯物は乾かない 布団は湿っぽい 天気予報では最高気温30度 最低気温24度
しかし室温28度 湿度は82%だ たまらん 梅雨が明けたら猛暑か それもきぃち~いぃょお~ぉ

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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・46

2015-07-17 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

朝、排便を済ましその中のスタッフを洗って再びポンプしてトイレから出ていく。これをやるのは組織のストッカーだけだろう。毎日、ほぼ同じ数のトイレが汚れていた。ストッカーは4~5名いる。1人10~20gをポンプすれば監房内には少ない時で50g、多い時には100gくらいはストックされている。フィリップスが言う絶対に見つからない場所とはこの事だったのだ。
 何度SPのチェックが入っても、もし捕まるとしたら1パケくらいを不用意に持っていた末端の売人くらいだろう。シンジケートはダメージを受けない。現在のBバラックはいつも静かだ。多分そこに数名のストッカーがいる筈だ。Cバラックの小売はムサカの6房とジュドゥの7房だ。以前は組織も小売も同じ旧Bバラックに入っていた。少なからず危険を伴っていただろう。今回の新しい監房で旧Bバラックにいたムサカ、ジュドゥをCバラックに移動させ小売の拠点とした。組織はBバラックに残り安全を確保した。
 肛門から中へ入れるのは簡単だが直ぐには出てこない。朝とは違ってこの時間、便意がない。下腹や肛門の周りをマッサージしているとやっと出てきた。あまり綺麗じゃない。水で洗ってスタッフはブリーフの中に隠してトイレの外へ出た。大きな木の前ではイスラム教徒の礼拝が始まっていた。
チャーリーがチャッキして来た。

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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・45

2015-07-14 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

 3時のロックが開錠されても外を歩いている者は少ない。まだ午後の暑さが厳しい時間帯だ。ぼくはビリを持って7房へ行った。レゲェーを聞きながら取り留めのない話をし、ビリを吸っていた。その間、ショッカンとインド人がパケを買いに来た。ジュドゥは商売人だ。まずお金を受取ってからパケを渡す。何と言い訳しょうが金のない奴は相手にしない。パケが小さいとか効きが悪いとか値下げを含んだ文句には、じゃパケを戻せと強気だ。リズムのある気風の良いジュドゥの会話は聞いていて楽しい。
「トミー俺といると楽しいか」
彼は人気がある。人の出入りが多くいつも賑わっていた。
 4時頃、ダイクと身体を洗いに行く、いつもの生活パターンだ。水で身体を冷やしてからベッドの下に潜り込む、この暑さだと扇風機はもう止められない。その風が入らないようにベッドの下は広い布で蔽ってあるのだ。ここでぼくはスタッフをポンプしている事に気付いた。ダイクを待たせてペットボトルの水を持ってトイレへ行った。トイレの内鍵を掛け便器を跨いだ時、どこに座るか迷った。一旦いつもの位置に座ってみたがもしスタッフを落とし穴に落としてしまったら浮いてくる事はないだろう、便槽の中へ沈んでしまう、これじゃ不味い。前へ進む。小便の受け皿は傾斜がついている。丸くパッキングしたスタッフがぽろっと出て転がったら後ろ手では取れない。反対に向いてみる。お尻を入口に向けると目の下がちょうど落とし穴だ。これだったらスタッフを失う事はない、万全だ。ぼくはやっと気が付いた、何故トイレが汚れているのか。ポンプだったのだ。

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ジャンキーの旅          No2 Ward・・・・・87

2015-07-11 | 3章 デリー中央第一刑務所No2Ward





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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・44

2015-07-08 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

  4月17日(月曜日)
 気温は40度まではいっていないが毎日、暑い日が続いている。天井の扇風機はスタッフを吸う時に止める以外、回り続けていた。5月に入ると気温は連日40度を記録する。太陽に熱せられた体温より高い熱風は木陰の涼しさに逃げたとしても意味はない。吹く風が涼しいのは体温以下の場合であってそれを超えると温風乾燥機の中に居るようなものだ。昼食が終わりスタッフを一服してベッドで横になっていると
「トミー気をつけろ、7房にSPのチェックが入った」
とフィリップス。何故、彼には分かるのか、確かに外房の天井は鉄格子だけだから声は通る。同じ房内に居るのに彼だけが分かるというのはアフリカ人だけが分かる連絡手段があるのだろう。英語が分かる刑務官の前でチェックが入ったから気をつけろと英語で知らせる事は出来ない。ぼくはスタッフをビニールで二重にラッピングしそれにオイルを塗った。股を開いて屈みオイルを塗ったビニールの小さな塊りを肛門の中に入れ込んだ。初めてのポンプだった。スタッフをやり続けるなら自分の事は自分で守らなければならない。異物を入れた肛門内に不快感が続いた。異物を押し出そうとする便意感だ。我慢して横になっていると少しずつ違和感が無くなってきた。幸いSPのチェックはこの房までは来なかった。

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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・43

2015-07-05 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

   4月17日(月曜日)
 気温は40度まではいっていないが毎日、暑い日が続いている。天井の扇風機はスタッフを吸う時に止める以外、回り続けていた。5月に入ると気温は連日40度を記録する。太陽に熱せられた体温より高い熱風は木陰の涼しさに逃げたとしても意味はない。吹く風が涼しいのは体温以下の場合であってそれを超えると温風乾燥機の中に居るようなものだ。昼食が終わりスタッフを一服してベッドで横になっていると
「トミー気をつけろ、7房にSPのチェックが入った」
とフィリップス。何故、彼には分かるのか、確かに外房の天井は鉄格子だけだから声は通る。同じ房内に居るのに彼だけが分かるというのはアフリカ人だけが分かる連絡手段があるのだろう。英語が分かる刑務官の前でチェックが入ったから気をつけろと英語で知らせる事は出来ない。ぼくはスタッフをビニールで二重にラッピングしそれにオイルを塗った。股を開いて屈みオイルを塗ったビニールの小さな塊りを肛門の中に入れ込んだ。初めてのポンプだった。スタッフをやり続けるなら自分の事は自分で守らなければならない。異物を入れた肛門内に不快感が続いた。異物を押し出そうとする便意感だ。我慢して横になっていると少しずつ違和感が無くなってきた。幸いSPのチェックはこの房までは来なかった。


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ジャンキーの旅          No5 Ward・・・・・42

2015-07-01 | 4章 デリー中央第一刑務所No5Ward

ダイクの7房にいるチョコマが執拗にナンシーの居場所をぼくに聞いてきた事があった。
「ナンシーの事など何も知らない」
ナンシーはマリーと一緒にぼくの出頭日、裁判所に来てくれるがどこに住んでいるか等ぼくは本当に知らなかった。知っていたとしても喋らないだろう、奴らの問題だ、深入りすべきではない。
「マリーからナンシーの居場所を聞きだしてくれ、ナンシーはキシトーのワイフだ」
チョコマは高ぶる感情を抑えて、
「キシトーはインホーマーだ、奴の密告で俺と彼女は逮捕された」
シンガポール人の彼女は女性専用の第1収監区に収監されていた。
「奴は絶対に許さない」
この事は全てのナイジェリア人が知っている。キシトーは早くここから出たかったのだ。恐らく警察は直ぐ出してやるとそのような約束をキシトーとしていたのではないだろうか。これはぼくの推測だが多分、間違ってはいないと思っている。キシトーは明日にでもデリーを離れるだろう、奴にとってデリーは危険過ぎる。ベッドで横になったフィリップスは身動きもしない。何を考えているのだろうか。
 3月に入ってリリースが続いた。
イギリス人・・1名 イタリア人・・2名
ドイツ人 マーシャル アフガン人 プラン
新たに収監された者
Cバラック4房 クリス(フランス人)
Bバラック   シンガポール人
 フィリップスが精神的に立ち直ったら、ぼくと奴の釈放の可能性を新たに考え始めなければならない。



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