ムサカ、ムスタハン、アシュラム、フランシス等グリーン・GHの客の90%はアフリカンで占められている。普通の旅行者はあまり近寄らない。何となく危ない雰囲気が漂うドラックの溜まり場だ。アフリカンは気儘で気難しい、だが知り合いになってしまえば楽しい、どんな薬でも用意してくれる。パラが興味本位で何かハード・ドラッグをアユミに飲ませたのかもしれない。刑務所内でドイツ人のピーターが口から涎を流し異常な顔をしているのを見た、
「どうした具合でも悪いのか?」
「タブレットをやった」とピーター。
翌日どうだったと聞いたら奴は疲れた、とだけ答えた。アユミはグラスやチャラス程度と言っているがぼくにはとても信用出来ない。彼女の描いた絵を見たとき彼女はまだ飛んでいたのだから。何かの切っ掛けでドラッグがリアリティーの配線回路に侵入する事がある。ドラッグの飛びが静まり帰路へ向かおうとした時、脳に侵入していた異分子は現実回帰への指標を狂わせる。トリップからの帰り、迷路に彷徨う人間を何人もぼくは見た。アユミのビザは後3日しか残っていないらしい。オーバー・ステイだと何かと問題になりそうだが、大使館とドクターが何等かの手を打つだろう。
パスポートのないぼくは日本との送金に大使館口座を使わざるを得なかった。それしか送金の方法がない、送金額から足がついてしまった。刑務所の塀の中で動けないぼくの代理として大使館に出入りしていたマリーは、大使館員に度々ぼくの金銭の使用について追求を受けていた。使用金額が多過ぎる。保釈後、大使館に保釈の報告とお礼に行き金庫に保管されていたぼくのお金、インド・ルピーを受け取った。そのお金は小さなダンボール箱に入れる程の量だった。刑務所内で吸った粉代や借金の支払い、新たに買い付けた粉代でお金は消えてしまい、再び日本へ送金を依頼した。大使館へお金を引き取りに行ったぼくは、大使館員の厳しい追及をかわし切れず、すべてを認めてしまった。何という失態だ。その為こんな苦しい思いをさせられている。この状態はたぶん1ヶ月は続くと考えて良いだろう、長い日数が待っている。この病院に入院していることも既に姉には連絡されているだろう。ヘロインで捕まり保釈中またヘロインをやっていたとは、呆れて物も言えないとはこの事か、本当に麻薬は怖い。