ベッドに戻るとピーターは横になっていた。左端に身体を寄せぼくの寝場所を空けてくれている。それでもぼくが横になるとお互いの腕が触れた。引いた腕の肌に残る感触に不安があった。狭いベッドにドイツ人と日本人が身体も触れずに眠る事など出来ない、2人は禁断の不眠に苦しんでいる。ぼんやりと天井を見ながらぼくは考えていた。横に寝ているピーターも決して眠 っている訳ではない、無言だが何かを考えている。
「ピーター」と彼の名を呼んだ。
1日の施錠時間は夕方6時から朝6時までの12時間、それと日中12時から15時の3時間、病棟内拘束は合計15時間である。主に過す場所はベッドしかない、1日交替でベッドを使おうと彼に提案した。ぼくの話を聞き終わると彼は納得してくれた。ぼく達とハルジュダムのベッドの間を広げ1人が横たわれるスペースを作る為、彼とベッドを移動させた。今日入院したばかりのピーターにベッドを譲りぼくはフロアーに毛布を敷き寝仕度をした。夜の投薬が始まっていたがぼくの順番は随分と後ろの方になっていた。ここではもう古顔なのか、薬の量も少なくなり今日もひとつ減って2個だけになった。眠れないので睡眠薬の処方を願い出たが無視された。町の病院ではない、ここはデリー中央第4刑務所アシアナである。ドラック中毒者が刑期中、収監される更生医療施設だ。