記憶に残っているのは阿片中毒のおやじだけだ。
「中に入れ」そう言われて小屋に入った。
薄暗い土間の奥に鍋、水がめ、灯油コンロらしき物がある。
小屋の中程にランプが置いてあり、それに向かい合うように2枚の藁ござが敷いてあった。
入り口の壁側に木のベッドが一台ある。
おやじは木製の椅子の上に乗り小屋の梁の隅から包みを取ってござに座った。
中から径3cm、長さ30cmくらいの竹筒を取り出す。底は竹の節で塞がれ
そこから5cmくらいの所に3mm程の小さな穴が一つあけてある。
穴のふちは黒ずみ阿片が焼け焦げて染み込んだように見えた。
包みの中の黒い塊りを千切り指で丸める、ちょうど正露丸くらいの大きさだ。
それを竹筒の穴の周りに貼り付ける。
ランプに火を点け、おやじはぼくに「よく見ておけ」と目で合図を送った。終わると竹筒をぼくに渡す、
竹筒の先端を唇に押し当て阿片を火で軽くあぶりゆっくり息を吸い込む、それを数回くり返すと穴の周りに滓が残った。指先で滓を落とし筒の吸い口をござにトントンと当て息を吹き込んで儀式は終わった。
身体が軽く浮遊し、新鮮な細胞にスタッフが作用した。
小屋の前で記念写真を撮る。ここまで来られた事に感謝したい・・・ 阿片の小分けもケシ畑の花を見ることも出来なかった それでいい
ありがとうぅ~ あばよぅ~
バイクのエンジン音を静かな村に残し走った。