マダムへの取材が始まった。途中からドクターも参加し患者への質問が出された。右手を挙げ進んで報告する者、指名されいつものミーティングと同じように
「メロ・ナム・・・」
と名前を告げ自分のドラック体験やアシアナでの治療について語ったのだろう、数名の報告が続きスタッフが用意した質問も出尽くした感じがした。そろそろ終わりだろうと勝手に思い始めた時、突然マダムの声がした。
「トミー、ピーター前に出て来なさい」
皆、一斉に後ろを振り返った。前に出て行ったぼくとピーターはカメラを向けられ取材を受けた、がぼくらには曖昧な返事しか出来なかった。
ぼくはデリー・パールガンジ警察署に逮捕された新聞記事をまだ読んでいなかった。デリー中央第1刑務所第2収監区に移送され、そこで再会したフィリップスからその記事の切り抜きを見せられた。120gのスメック所持、その背後関係を調査中であると。ピーターはデリー国際空港での手荷物チェックで数kgの薬物が発見されスイス人の彼女と逮捕された。カラー写真付記事で報道されたと彼は言っていた。2人ともまだ裁判中であり警察の調査も続いていた。アシアナという刑務所内、中毒者更生施設の内容、方法について語る事は出来るがそれ以外話す言葉は少ない。
夜から朝へ変わっていく狭間、分離した異質の夜と朝が融合する。夜の終息と朝の始まり、その接点を自然の鳥は知っている。不眠と右肩の痛みはまだ続いていた。禁断からの解放はそれほど容易ではない。眠ろうとすると痛み出す右肩に夜間水浴用に用意された凍るような冷水を流すと冷たさが神経の痛みを麻痺させた。身体に滲み込んだ美しいケシの花を残らず凍らせてしまえ、凍るような水が右肩から胸に流れる。その水がヒマラヤの氷河から流れ罪を清める聖なる河ガンジスの聖水と合流しぼくを救うだろう。夜と朝の引力が弛んだ瞬間、ぼくは底知れない深い眠りに落下した。