ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

逃亡・終章・・・4    交付されないビザ

2017-11-29 | ドラッグの深い闇・終章

ぼくは途方にくれた。それでもぼく達は12月からのスノウリ入国記録を調べ始めた。それ以前を調べても意味はない、スノウリで交付されるビザの有効期限は1ヶ月だ。1月にカトマンズに滞在しているという事は必ずビザの延長をしている。その記録はここの事務所に残っているはずだ、記録が残っていないとしたらオーバーステーを疑われる。ぼくと似たような名前の記録がないか何度も調べた。時間だけが無情に過ぎていく。もう時間がない。
 その時ぼくはある事に気付いた。1月9日からのスノウリ入国記録がここにはない。各国境の出入国管理事務所は週単位くらいでここ本部へ送るのではないだろうか。スノウリからの記録はまだ届いていない。ぼくはスノウリから送られてきた最後の入国記録を持って事務所へ戻った。
「ぼくがスノウリから入国したのは10日か11日です。そのためここには記録がないのです」
「今日はもう確認が出来ない。明日もう1度ここへ来なさい」
とうとうぼくは15日(月)にビザをとることが出来なかった。明日、管理官がスノウリへ電話をし確認すればぼくの嘘がばれてしまう。
トラベル・ドキュメントの有効期限は1月12日(金)~21日(日)までだ。カトマンズ空港からのフライト週2便は火曜日と土曜日しかない、今日ビザが取れなければ16日(火)出国できない、残されたのは20日(土)だけとなってしまった。


ローヤル・ネパール・エアーが週2便 カトマンズ空港~上海~関空を運航していた
時短と料金が安い 余ったネパール・ルピーをどうしても使ってしまいたかった
最悪の場合はバンコック経由で帰国はできる だがドルの手持ちが少ない 
出来ればこのルートは避けたいと思っていた
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逃亡・終章・・・3    入国記録

2017-11-22 | ドラッグの深い闇・終章

彼はぼくの書類にちらっと目を通し机の端に置いた。順番があるのだろうぼく達は椅子に座って呼ばれるのを待った。用件が済んだネパール人は出て行き新しい申請者が入ってきた。管理官の仕事は進んでいる、だが何故なのか彼はぼくが提出した申請書には手を出さない。進行しない状況に苛立ったぼくはスンダルを管理官のところへ事情を聞きに行かせた。スンダルは管理官の横に立ち話を切り出すタイミングを計っていた。立ち上がった管理官はスンダルに何か説明をすると事務室から出て行ってしまった。ビザ申請の手続きは進まない、昼になってしまった。ぼく達も横の通路に出た。
「どうなっているのか?」
「彼は入国記録がないのでサインは出来ないと言っている」
スンダルはそうぼくに伝えると難しい顔をした。
 午後になった。ぼくは我慢できず直接、管理官の説明を聞きに行った。説明は同じだった。だが彼は一つの解決方法を教えてくれた。
「2階に出入国記録の保管倉庫がある。その中のスノウリ入国記録を調べて、君の記録があればそれをここへ持って来い」
ぼく達は2階の倉庫へ行った。どこをどう探してもぼくの入国記録は出てこない。それはぼくが一番よく知っている、密入国しているのだから。
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逃亡・終章・・・2    トラベル・ドキュメント

2017-11-13 | ドラッグの深い闇・終章



玄関ホールを出て左の王宮側へちょっと行ったところに奥へ入る通路があった。通路を入って行くと左側に入口があり、そこから中へ入った。薄暗くてはっきりしないが左にあるのが事務所だろう、入口は開いたままになっていた。中を覗くと正面の大きな机に座って書類に目を通している管理官がいた。その机の前に会議用テーブルが1つと折りたたみ椅子が置いてある。4~5人のネパール人が順番を待っているのか椅子に座っていた。外国人は1人もいない。事務所を間違えたのではないか、そう思っているとスンダルが管理官の前へ行き何やら話しをしている。彼は1枚の申請書を受け取り戻って来ると、この事務所で手続きをする、そうぼくに言った。ぼくは書類に名前等の要求項目を記入しトラベル・ドキュメントに挟んで管理官に提出した。
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逃亡・終章    イミグレーション・・・1

2017-11-07 | ドラッグの深い闇・終章

 3階のべランドから下を見ると一台のバイクが停まっている。スンダルのバイクは確か赤だった、彼はまだ来ていないようだ。今日、持って行くものをチェックする。トラベル・ドキュメントとビザ用写真、それと旅行代理店へ支払うエアーチケット代の約3万ルピー。インドと違ってカトマンズでは1000ルピー札が一般に流通している。30枚だからウエストバッグだけで十分だ。ビザ代はドル支払いと決まっている、面倒だが100ドル札を両替しておかなければならない、そうしないとお釣りはルピーで戻ってくる。ルピーは必要ない、今でも余りそうなのに。
 9時過ぎスンダルがやって来た。出入国管理事務所はタメルと王宮を結ぶ通り沿いにある。バイクだと10分もあれば行き着く。ぼくもスンダルもビザは簡単にとれるだろうと軽く考えていた。カトマンズ警察署が発行したパスポート盗難証明書がある。出入国管理事務所の玄関ホールは一般のビザの延長やトレッキング許可書の申請書を受理し夕方3時から交付事務を行っている。ぼくの場合は通常のビザ延長ではない、管理官に事情を話すとこの建物内の裏側にある事務所へ行くように指示された。
コメント (2)
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ジャンキーの旅・逃亡・・・23

2017-11-01 | 5章 ジャンキーの旅  逃亡

 クマルがやって来た。ケダルとクマルは同じカーストの出身者だ。カーストは中間より少し下のクラスだろうか。結婚も友達付き合いもカーストで決まる。スンダルは彼等と付き合うことはない。ぼくが食事に行く時、もしスンダルとケダルを一緒に誘ったらどちらかが断わる。同じ席に着くことを嫌がる、カーストが違うからだ。ケダルとクマルはぼくと一緒に飲みに行く。3人でよく祭りや遊びに行った思い出がある。彼等の家へ食事に誘われて一緒に食べたこともある。クマルの家は貧しい。お母さんは既に亡くなり無職のお父さんと婚期が近い妹、それに小学生くらいの弟と末妹がいる。どうして生活をしていくのか、心配してもぼくには何も出来ない。彼等は彼等なりに精一杯生きている。そんな彼等をみながらぼくは何をしていたのだろうか。
「いつまでカトマンズにいますか?」
「来週、1度日本へ帰ります。でもまた戻ってきます」
「そうですか・・・」
もし無事に帰国できたとしても二度とカトマンズへは戻ること不可能だろう
彼等はそのことを理解しているのかもしれない、しかしだれもそのことに触れない。

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