ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

ジャンキーの旅        遠い道・・・・・28

2014-10-23 | 4章 遠い道・逃亡

「レートは幾らだ」
「38ルピーだ。これ以上は下がらない」 
信用できるレートを出してきた。ぼくは刑務官に連行されて東京銀行に行った以外、1年以上、銀行で両替をした事がない。がたぶん銀行両替のドル持込みで35ルピー、逆両替だと36~37ルピーが相場だろう。ブラック・マーケットで1ルピーしか乗せていない。話しがあまり美味すぎる、偽札を掴まないよう用心することだ。
「紙幣の額面は?」
「1~100ドルどれでも欲しい紙幣を出す。1万㌦でも両替するぞ」
嫌味な野郎だ。どこにそんな大金がある、あるわけがないだろう。1万㌦とはったりを噛まされてぼくはちょっと小さくなり
「カリュキュレーターを貸してくれ」
ぼくは細々と計算をした。2000㌦だと残りのルピーが少な過ぎる。1900㌦だと72000ルピーでちょうど良さそうだ、それで話はついた。お互いにお金を交換しチェックする。ぼくは19枚の100㌦紙幣を手に入れた。偽札の見分け方は知っている、ぼくが入念に調べていると
「偽札は混ざってない。シーク教徒は信用で商売をしている」
「分かっているが一応、調べさせてくれ」
取引きは終った。ドルが欲しかったらいつでもきてくれ、と言うサダジと握手をしてぼく達は店を出た。マリーにはぼくのお礼の気持ちとして少しお金を渡した。言葉のお礼なんて何の役にも立たない。この取引きは本当に助かった。英和中辞典くらいの大きさと重さがたった19枚の紙幣に変った。それだけではない、最悪の場合はこのお金だけでも帰国する事ができる確実な保障をぼくは手に入れた。
「これでお別れね、トミー。気をつけて行くのよ」
「ありがとう、マリー」
別れ際、彼女はメモをぼくに渡した。
「日本に帰ったら、手紙をちょうだい」
「あぁ、そうする」
さようなら、マリー


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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・27

2014-10-20 | 4章 遠い道・逃亡

「トミー、インド・ルピーを幾ら持っているの? ドルと両替した方が良いわよ」
と彼女は変な事を言い出した。ブラック・マーケットでドルをルピーに両替するのは可能だが、その逆もあるのだろうか。その件についてマリーは何か情報を持っている。突然の思いつきではなさそうだ。それは良い考えでぼくも思いつかなかった。確かにそれが出来ればぼくは助かる、たぶん七~八万ルピーは持っているはずだ。このルピーでは飛行機のチケットは買えないし何に使うのか方法のないお金だった。カトマンズに約二十万円の現金がある。スンダルが保管しているはずだ、がぼくが逮捕され刑務所に入った新聞記事を奴が読んでいればそのお金はどうなっているか分からない。ぼくがカトマンズに戻ってくる可能性がない、と奴が判断すればその二十万円はないかもしれない。マリーが言うようにルピーをドルに両替することが可能なら少しレートが高くてもそうしたい。
「マリー、本当にそんな事ができるのか?」彼女はフィリップスと相談している。サダジの店はどう、サダジなら大丈夫だろう、そんな2人の会話が聞えてくる。
「心当たりがあるわ、行ってみる?」
「当然行くよ。ちょっと下で待ってくれ」
そう言って2人に部屋の外へ出てもらった。
お金を勘定しているところを見られたくない。数えてみると約八万ルピー弱ある、それを袋に入れて2人が待っている廊下に出た。目的の場所は近そうだ、バザールへ向かって商店を10軒も歩いただろうか、フィリップスは店を探し始めた。ここだ、と彼が指差した店はシーク教徒のサリー等を売る生地屋だった。サダジの所在を確かめると2階だと言う、皆で階段を上がっていった。2階の床には赤い絨毯が全面に敷かれている。ぼくは入口で待っているとその間にフィリップスが中へ入ってサダジという男と話をしている。直ぐにOKだ、入って来いとぼくに合図をしながら彼が近づいてきた。
「信用できるのか?」
「心配するな、俺が保障する」
小声で彼と打ち合わせをして、ぼくはサダジの前に座った。
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・26

2014-10-16 | 4章 遠い道・逃亡

敷地内に大型護送車が4台停車しているが人の姿はない。収監者達は既に留置場に入れられ、審理が始まるのを待っている。隣り合わせの2つの留置場に約200名の収監者達がひしめいている。座る余裕はない、皆は立って呼び出しを待つ。刑務官の呼び出しが始まると、1人また1人と鉄格子のドアを潜って出て行く。1人の収監者に1人の刑務官が付く。手錠や腰紐は使わない。右手を出し5本の指を広げると、その間に刑務官の左手の指が入れられる。ぎゅと手を握られるとそれだけで逃げられない。1時間も経つと留置場内は空いてくる、ぼくは座り込み壁に凭れて順番を待った。何故だか呼び出されるのはいつも遅い。ぼくが刑務官に連れられ法廷へ行くと、必ずマリーが面会にきて待っていた。彼女はバッグからお金を出し刑務官にバクシシすると当然のようにお金を受取った刑務官はぼくの手を離してくれる。彼女から煙草とマッチを受取り指に挟んだ煙草を、ぼくはゆっくりと吸い込む。玄関前で煙草を吸いながら、ぼくはその頃を思い出していた。
 次回、1月15日の出頭を命じられた。裁判所の建物を出て広場を通って裁判所ゲートへ向かって歩いた。左側の壁は留置場の後ろ壁だ。鉄格子の高窓がある、その中にぼくはいた。ぼくはもう2度とここへは戻って来ない。玄関横の水屋からコップを受取り水を飲んだ。
 バザールを歩いているとアメリーが声を掛けてきた。マリーとフィリップスがぼくを探していたという知らせだ。アメリーは小柄で人の良いナイジェリア人だ、奴もリリースされていたのか。しかし今日ぼくが裁判所へ出頭しているのはマリーも知っているはずだが、急いでホテルへ戻った。スタッフを吸っている場面を彼女には見られたくない。吸い終わった頃に2人が来た。2枚のチケットをぼくに渡しながらマリーは今日のチケットは買えなかった、これは明日、9日のチケットだと平気な顔で言う。今夕ぼくは出発するつもりで緊張感を高め逃亡という階段を上り詰めようといた。その階段を一つ踏み外した、ぼくはそんなバランスを失った精神状態になってしまった。しょうがない、この切符しかないのだから、気持ちを入れ替えよう。ノープロブレム、何が起こってもおかしくないインドだ。チケットを買ってきたんだから文句ないでしょう、という彼女の顔を見ていると、まぁそう神経質になることはないか。今日はまだ体調が良くない、明日の出発でちょうど良いのかもしれない。
「有り難う、マリー」
ぼくは釈然としないが一応、彼女にお礼を言った。
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ジャンキーの旅        遠い道・・・・・25

2014-10-08 | 4章 遠い道・逃亡

 体調は良くないがネパール人と接触できるかどうか最後のチャンスだ。無理をしてジュース屋へ行きネパール人が現れるのを待った。1月のデリーの夜は冷える、熱があるのか少し寒気がする。国境をひとりで抜けるのか、後30分だけ待とう、それで奴が来なかったら諦める。まずい条件ばかりが揃った。チケットはない、サポーターはいない、体調は悪い、逃亡は失敗するかもしれない。もし逮捕されたら最後の幕は自ら引く。奴は現れない、早くホテルへ戻って身体を温め眠りたい。体力を回復しておかなければ明日の出発は苦しい。
 朝、目が覚めるとちょっと体調は良さそうだ。チェーシングをして、いつものインド人のチャイ屋で朝食をした。冷える朝に冷たいジュースは身体を冷やす、飲むのをやめた。甘くて美味しいチャイを飲む。バタートーストを食べるときホットミルクをもらった。身体が温まる。床屋で髪を揃え髭をカットしてもらった。ホテルへ戻るとドアの前にバケツが置いてある。朝食に出かける前ラジューに5ルピーをバクシシして、ホットウオーターを用意しておくよう頼んでおいたが、ちゃんと用意している。バクシシの効果は大きい、ただ口で頼んだだけではこうはならない。インドはやり方さえ分かってしまえば楽で事はスムースに運ぶ。
 温かいお湯で身体を洗う。狭いトイレの中だからお湯で室内が暖かくなってくる。頭、耳と首筋なども丁寧に洗った。最後に頭の上からお湯を全身に流すとさっぱりした。新しい下着に着替えた。汚れた下着は洗濯してロープに干しておくと夕方には乾くだろう。チェーシングをしていると裁判所へ出頭する時間になった。これが最後の出頭であって欲しい。通りへ出ると朝陽が差している、暖かくなりそうだ。
 オールドデリー、ティスハザール裁判所。去年10月26日にぼくを逮捕した私服のポリに連行されここへ来た。1年2ヶ月が過ぎた。デリー中央第1刑務所への収監手続きが終り、裁判所刑務官へぼくを引き渡す前、奴は「水を飲むか?」とぼくに聞いた。頷いたぼくに奴は屋台の水屋からコップ一杯の水を買い飲ませてくれた。


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ジャンキーの旅          No2 Ward・・・・・86

2014-10-07 | 3章 デリー中央第一刑務所No2Ward

 何とか無事に終った。エマ、ジャクソン、トビキが助けてくれて大事に至らなかった。レポートが刑務官からSPに行けば終わりらしい。今日、スタッフをやる時はエマが見張りをしてくれた。まだまだ注意が必要だ。フィリップス、キシトーから呼び出された。2人とも機嫌が悪い。最終的にどういう話し合いで決着がついたのか、誰もぼくには言わない。捕まったぼくにスタッフを流していた彼らに何らかの話しがあったのかもしれない。彼らの不機嫌はそこから来ているようだ。だが金づるの客を手放す訳にはいかない。そこに彼らのジレンマがあるのだ。ここでスタッフをやるというのは大変な事だと分かった。毎日の事だからどうしても人の注意を引いてしまう。スタッフを入れる時間も大体、同じだから見張られたら一発でやられる。ヘビ目の奴はとても危険だ。奴が目を付けたらトイレの中でも調べに来る。それでやられたのがランジャン、プラン、それにディクソンだ。トイレも安心出来ないとしたら何処でやれば良いのか。早くワードが替わって欲しい。そうすれば少し楽になるかもしれない。
 エマは恐い顔をしているし気も短かそうだが、トミー、々と話しかけてくれる。彼はここで力を持っている、それは確かだ。ジャクソン、エマの存在はぼくにとって大きい。昼過ぎまで雨が降った。自分のミスで落ち込んでいたぼくにとって寒々とした一日だった。昨夜、スタッフを処分しょうかと迷っていた時ディクソンが粉を少し回してくれないかと頼みに来た。どうせ処分しなければならないスタッフだと思っていたから回してやった。そんな事があったからだろう、彼らはぼくに気を使ってくれた。久し振りに楽しい食事とティーだった。以前のようにお互い気まずい関係だったらぼくも辛かっただろう。少しくらいスタッフを回してやってもスリランカ人の場所で吸った方が安全だ。ヘビ目にしても、ぼくらがネットの中でスタッフをやっていると分かっていても踏み込めないだろう。一人でやると狙われる。少し出費が多くなってもここの事情を良く知った人間と組んだ方がベターだ。粉が効かない。夜、2パケ入れてしまった。




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