中卸しに何かあった。禁断の苦しみで何をするか分からない二ナを外へ出られないように鍵を掛けてランジャンはスタッフを探しに出かけた。
「トミー、グリーンGHに急いで行って、パラかムサカがスタッフを持っているわ」
「お願い、トミー、助けて」
ぼくは後退りし駆けるようにして階段を下りた。トミー、トミー、助けて、二ナの苦しげな声がぼくを追いかける。ぼくを捕えようとする。狂気だ。凄まじい力でぼくを引き摺り戻そうとする。もう逃げ切れないかもしれない、ぼくは。
ベッドで横になりぼんやりしていた。どうしょうもないよ二ナ、ぼくは何もできない。ごめんよ、二ナ。あれが今までのぼくの姿だったのか、身も心も蝕まれスタッフの命令で生きていた。ハード・ドラックを長期間継続すると現実の脳とは別に模倣された影の脳が形成される。現実の脳の指揮と命令系統の主導権は少しずつ失われていく。主導権を奪った影の擬似脳の中心には紅い芥子の花が咲いた。主導権を掌握した擬似脳はリアリティーから分離していく。日常生活で得た情報や知識はすべて配線回路の分岐点から擬似脳に送られる。ぼくはリアリティーから分離した視点と時間そして思考に生き続けた。
2日夜行列車の予約切符は手に入らなかった。1月8日の出発に変更する。偽造パスポートができるまで数日は必要だろう、それで良い。どういうつもりなのかフィリップスは自分の偽名パスポートをぼくに見せた。それにはネパール入国ビザのスタンプが押されていた。同行するネパール人が見つからなかったら俺が一緒に行ってやると奴は言う。何を考えているのかぼくには理解ができない。アフリカンの奴とボーダーを抜けたら余計に目立って危険だ。