ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

逃亡・終章・・・9    峠を越える

2018-02-19 | ドラッグの深い闇・終章

Dさんは何故これほどまで親切にしてくれるのだろうか、ぼくは在インド日本大使館員Bさんの事を考えていた。ぼくの逃亡を知っているBさんが最後の別れの時「ご無事で・・・」と言ってくれた。運良く国境を抜けカトマンズに辿り着き大使館を訪ねたら日本へ帰らしてやろう、Bさんはそう考えておられたのではないだろうか。Bさんは立場上ぼくの逃亡を支援することは出来ない。何らかの方法でDさんにその意図を伝えられた、とぼくは考えた。薬物に溺れそこから這い出せないぼくに闇から抜け陽の下で生きよ。ぼくは多くの方達に助けられた。
 大使館が開くのは朝9時30分からだ。Dさんは書類をぼくに渡しながら
「これでもビザが取れなかったらすぐ連絡して下さい」と言われた。
2日間通った事務室の管理官はぼくが提出した書類に目を通すとビザ申請書に簡単にスタンプを押しサインをした。
「表のビザ申請受付けカウンターで手続きをしてくれ」そう言って申請書を戻してくれた。
それを持ってぼく達は表のビザ申請カウンターに行きトラベル・ドキュメントと一緒に提出した。ネパールのビザ代は高い、1週間で18・75ドルだ。20ドル札を払うとぼくのトラベル・ドキュメントの受取書とお釣りがカウンターに置かれた。これでぼくのビザ申請書はここ出入国管理事務所で受理された。今日の午後3時から4時の間にここへ来て受取書と交換にビザのスタンプが押されたトラベル・ドキュメントがぼくに戻される。全身から力が抜けていく自分を感じた。 
「トミー、やっとビザがとれたね」
ありがとうスンダル、ぼくは彼の手を握り締めた。

後 30枚ぐらいだろうか 「終わり」を記入するまで
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逃亡・終章・・・8     大使館

2018-02-09 | ドラッグの深い闇・終章

 走るバイクにカトマンズの1月の冷たい風が吹きつける、心の芯まで凍りつくようだ。大使館に着くとぼくは受付のネパール人に日本人スタッフに会いたいと告げた。愚図愚図しているネパール人にスンダルが面会の理由を説明した。ネパール人が執務室に入るとすぐ大使館員のDさんが出て来られた。ぼくは出入国管理事務所での経緯を話した。よほど憔悴した顔をしていたのだろう
「それは大変でしたね」と慰めてくれた。その後、Dさんは
「ネパールのボーダーにレコードがないというのは出入国管理事務所の責任であって、パスポートの盗難に合い苦労しているあなたは被害者じゃないですか。その被害者のあなたに速やかにビザを発給しないのはおかしい。早く連絡してくれたらよかったのに」
と言ってくれた。
「明日もう1度ここへ来て下さい。ビザ収得に必要な書類は用意しておきます。」
思いもよらないDさんの好意的な言葉にぼくは戸惑いながら
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ぼくは深々と頭を下げ大使館を出た。
「良かったねトミー、これで明日ビザがとれるよ」

ブログの更新が遅れている 重い追想に心が疲れる

今年の冬は例年より寒い 湾での釣りは良くない イカもタコも駄目だ
ワカメの新芽が潮に揺れている それと青ナマコの数が多く少しは助かっている
海は変わっていく 湾が与えてくれるその恵みはありがたい
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逃亡・終章・・・7    迷い道

2018-01-30 | ドラッグの深い闇・終章

「まあ、しょうがないだろう」と彼、隣の部屋にいる次席官からサインを貰いなさいと言って申請書をぼくに戻した。それは希望を持ったぼく達をただたらい回しにしただけにすぎなかった。次席官はぼくの申請書に目を通すと、それを投げ捨てるようにしてぼく達に戻した。お願いします、助けて下さいと頭を下げるぼく達に彼は手の甲を向けて出て行きなさいという仕草をした。尚も食い下がるぼく達に駄目なものは駄目だと言い出て行けという仕草をくり返した。次席官の部屋を出た。階段の手すりにつかまりぼくは1階へ下りた。
 ビザが取れないとネパールから出国はできない。1月21日でトラベル・ドキュメントの有効期限が切れる。この状態が続けば不法滞在者としてぼくはネパール警察からも追われる。次回22日はデリー・ティスハザール裁判所への出頭日だ。これをキャンセルすれば2回目となり裁判所はインドの新聞にぼくの逃亡告示を出すだろう。インドとネパールの両警察の追跡から逃げ切る事は不可能だ。ぼくの下痢は続いていた。トイレから出て通路に行くとスンダルがぼくを待っていた。
「トミー、大使館へ行こう・・・」
その先を彼は言わなかった。行ってどうなるのか彼もぼくも分からない。だがここでやるべき事は全てやった。
「大使館へ行こう、スンダル」

寒い冬型の気圧配置が続いている 
1月のカトマンズと重なって かすみの向こう その記憶がある
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逃亡・終章・・・6    最後の望

2018-01-22 | ドラッグの深い闇・終章

 ぼくが通路に出て煙草を吸っているとスンダルが寄って来た。彼は管理官の言葉として3000ドルを出せばサインするとぼくに伝えた。ぼくにはもうそんなお金はない。もし彼がぼくのお金を使っていなければ2000ドルは残っていたはずだ。それとデリーを出発する前マリーの助言でインド・ルピーをブラックでドルに逆両替えした1900ドルがある、そのお金で何とか払う事も出来たのだが今ではもう無理な話だ。
 午後に入ると管理官はぼくを呼んだ。彼は申請書をぼくに戻し2階へ行ってトップのサインを貰ってこい、それが出来たらビザは出せると言った。ぼく達はトップに会いに彼の部屋へ向かった。彼はぼく達に会ってくれた。温厚な顔をしたネパール人だ、もしかしたらサインをしてくれるかもしれない、事情を説明しながらぼくは期待をふくらませた。


朝から雨が降っている 明日から3日間雪のマークだ
東京は大雪になりそうだ 首都高速から湾岸線へ向かう途中
木場を過ぎた所で車が進まなくなった 雪が降り続いた
八王子へ向かったときはチェーンを装着していない車だけ用賀で降ろされていた
車を端に寄せてチェーンを巻いたことがある 仕事だからいくしかない
45度を超えた異常熱風は体験している 北海道の氷点下20度は理解できない
それは業務用に設定された温度ではない 日常生活で受け入れなければならない 
と言う点についてだ

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逃亡・終章・・・5    冬の嵐

2018-01-08 | ドラッグの深い闇・終章

 夜、夕食が終ってホテルへ戻るとき、冷たい雨が降り始めた。夜中になると雨は激しくなり冬の嵐になった。この嵐では明日スノウリとの電話線は使えないだろう。運はまだぼくを見捨てていない。
 朝、嵐は去っていた。良い天気になりそうだ。昨日の午後からぼくは神経性の下痢に苦しめられていた。1時間ごとにトイレに入りスタッフを吸うのだが下痢は止まらない、だらだらと流れ出た。昨日の事がある、スンダルは朝早くぼくを迎えに来てくれ9時には事務室に着いた。スノウリとの電話線がどこかで断線している、管理官の態度で分かった。ネパールの事だ回復には時間が掛かる。
「入国の確認ができるまで待てない。申請書へサインをして下さい」
ぼくは管理官に食い下がった。スノウリとの連絡がとれず入国の確認が出来ない彼はぼくへの理解を示し始めた。「スノウリを通った事を証明できるもの、又はスノウリから乗った夜行バスの半券でも良い、何でも良いから出せ」と管理官は言ってくれた。だがぼくは逃亡者だ、国境の町スノウリに長時間滞在することは危険を伴なう、車をチャーターしてカトマンズに来ているのだ、スノウリにいた事もそこから来た事も証明できるものは何もなかった。「それが無理だったら大使館の証明書を持って来い」と彼は付け加えた。デリー中央刑務所でぼくが依頼した弁護士と保釈を進めていた時、大使館からの手紙でどんな事情があろうと大使館、又大使館員が個人の身元保証人になることはないと言われた。ネパールの日本大使館もこれと同じ立場をとるに違いない。

朝から雨が降っている 
明日 強い冬型の気圧配置になり数日続くとの予報 有り難くない
湾でのイカ釣りはお休みになりそうだ
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逃亡・終章・・・4    交付されないビザ

2017-11-29 | ドラッグの深い闇・終章

ぼくは途方にくれた。それでもぼく達は12月からのスノウリ入国記録を調べ始めた。それ以前を調べても意味はない、スノウリで交付されるビザの有効期限は1ヶ月だ。1月にカトマンズに滞在しているという事は必ずビザの延長をしている。その記録はここの事務所に残っているはずだ、記録が残っていないとしたらオーバーステーを疑われる。ぼくと似たような名前の記録がないか何度も調べた。時間だけが無情に過ぎていく。もう時間がない。
 その時ぼくはある事に気付いた。1月9日からのスノウリ入国記録がここにはない。各国境の出入国管理事務所は週単位くらいでここ本部へ送るのではないだろうか。スノウリからの記録はまだ届いていない。ぼくはスノウリから送られてきた最後の入国記録を持って事務所へ戻った。
「ぼくがスノウリから入国したのは10日か11日です。そのためここには記録がないのです」
「今日はもう確認が出来ない。明日もう1度ここへ来なさい」
とうとうぼくは15日(月)にビザをとることが出来なかった。明日、管理官がスノウリへ電話をし確認すればぼくの嘘がばれてしまう。
トラベル・ドキュメントの有効期限は1月12日(金)~21日(日)までだ。カトマンズ空港からのフライト週2便は火曜日と土曜日しかない、今日ビザが取れなければ16日(火)出国できない、残されたのは20日(土)だけとなってしまった。


ローヤル・ネパール・エアーが週2便 カトマンズ空港~上海~関空を運航していた
時短と料金が安い 余ったネパール・ルピーをどうしても使ってしまいたかった
最悪の場合はバンコック経由で帰国はできる だがドルの手持ちが少ない 
出来ればこのルートは避けたいと思っていた
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逃亡・終章・・・3    入国記録

2017-11-22 | ドラッグの深い闇・終章

彼はぼくの書類にちらっと目を通し机の端に置いた。順番があるのだろうぼく達は椅子に座って呼ばれるのを待った。用件が済んだネパール人は出て行き新しい申請者が入ってきた。管理官の仕事は進んでいる、だが何故なのか彼はぼくが提出した申請書には手を出さない。進行しない状況に苛立ったぼくはスンダルを管理官のところへ事情を聞きに行かせた。スンダルは管理官の横に立ち話を切り出すタイミングを計っていた。立ち上がった管理官はスンダルに何か説明をすると事務室から出て行ってしまった。ビザ申請の手続きは進まない、昼になってしまった。ぼく達も横の通路に出た。
「どうなっているのか?」
「彼は入国記録がないのでサインは出来ないと言っている」
スンダルはそうぼくに伝えると難しい顔をした。
 午後になった。ぼくは我慢できず直接、管理官の説明を聞きに行った。説明は同じだった。だが彼は一つの解決方法を教えてくれた。
「2階に出入国記録の保管倉庫がある。その中のスノウリ入国記録を調べて、君の記録があればそれをここへ持って来い」
ぼく達は2階の倉庫へ行った。どこをどう探してもぼくの入国記録は出てこない。それはぼくが一番よく知っている、密入国しているのだから。
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逃亡・終章・・・2    トラベル・ドキュメント

2017-11-13 | ドラッグの深い闇・終章



玄関ホールを出て左の王宮側へちょっと行ったところに奥へ入る通路があった。通路を入って行くと左側に入口があり、そこから中へ入った。薄暗くてはっきりしないが左にあるのが事務所だろう、入口は開いたままになっていた。中を覗くと正面の大きな机に座って書類に目を通している管理官がいた。その机の前に会議用テーブルが1つと折りたたみ椅子が置いてある。4~5人のネパール人が順番を待っているのか椅子に座っていた。外国人は1人もいない。事務所を間違えたのではないか、そう思っているとスンダルが管理官の前へ行き何やら話しをしている。彼は1枚の申請書を受け取り戻って来ると、この事務所で手続きをする、そうぼくに言った。ぼくは書類に名前等の要求項目を記入しトラベル・ドキュメントに挟んで管理官に提出した。
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逃亡・終章    イミグレーション・・・1

2017-11-07 | ドラッグの深い闇・終章

 3階のべランドから下を見ると一台のバイクが停まっている。スンダルのバイクは確か赤だった、彼はまだ来ていないようだ。今日、持って行くものをチェックする。トラベル・ドキュメントとビザ用写真、それと旅行代理店へ支払うエアーチケット代の約3万ルピー。インドと違ってカトマンズでは1000ルピー札が一般に流通している。30枚だからウエストバッグだけで十分だ。ビザ代はドル支払いと決まっている、面倒だが100ドル札を両替しておかなければならない、そうしないとお釣りはルピーで戻ってくる。ルピーは必要ない、今でも余りそうなのに。
 9時過ぎスンダルがやって来た。出入国管理事務所はタメルと王宮を結ぶ通り沿いにある。バイクだと10分もあれば行き着く。ぼくもスンダルもビザは簡単にとれるだろうと軽く考えていた。カトマンズ警察署が発行したパスポート盗難証明書がある。出入国管理事務所の玄関ホールは一般のビザの延長やトレッキング許可書の申請書を受理し夕方3時から交付事務を行っている。ぼくの場合は通常のビザ延長ではない、管理官に事情を話すとこの建物内の裏側にある事務所へ行くように指示された。
コメント (2)
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