一九九五年九月二十三日夜、ぼくは釈放された。この日釈放されたのは約十五名、外国人はぼくとナイジェリア人のアシュラムだった。センターゲート・オフィスでの釈放手続きは長い時間を要した、いつもの事だ。インド的な非効率的事務処理で待たされるのにはもう慣れている。センターゲートの潜り戸から刑務所の外へ出、迎えに来てくれたマリーと一緒にオート力車に乗ったのは九時を過ぎていただろう。暗い荒地の中を真直ぐ延びる道路を走り続ける、と前方に明かりが見え街の中へ入った。彼女はちょっと高級な中華風レストランの前でオート力車を停めた。レストランの中は高カーストのインド人客で賑っている。アフリカン・ブラック女と膝の出たトレーナーにサンダル姿でビニール袋をぶら提げたジャパニー、それを見たボーイは奥の離れたテーブルにぼくとマリーを案内した。
まずビールを頼む、ボーイが歩いていく後姿を目で追いながら華やかなレストランの現実と30分前までのネガティブだった日常の落差に気持ちの整理がつかない。
「今日でちょうど十一ヶ月だよ」
「何が?」
「ポリに逮捕されてからさ」
「あぁ、そう、長かった?」
「分からない、長かったのか、どうか?」
グラスを鳴らしマリーと乾杯する。冷たいビールが喉を刺激し、ぼくは自由になったのだ、煙草に火を点け煙を深く吸い込む。
(ぼくは社会復帰して10年、当時のノートを見ることはなかった)
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