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アニメ『銀河鉄道の夜』

2009年07月17日 | 映像(アニメーション)
劇場版アニメ『銀河鉄道の夜』
 監督:杉井ギサブロー
 原案:ますむらひろし
 脚本:別役実
 音楽:細野晴臣
(1985年制作)


《あらすじ》
貧しいジョバンニは、星祭りの夜、親友のカムパネルラと一緒に銀河鉄道の列車で広大な宇宙への旅に出かけ、不思議な体験を重ねていきます。
宮沢賢治世界の集大成的名作『銀河鉄道の夜』。透明な色彩感、幻想的なイメージ、そして文学的香りに満ちた物語。






実は、数年前に購入したまま、なんとなく踏ん切りが付かなくて観られなかった『銀河鉄道の夜』のDVDを、このあいだようやく観ました。猫のやつです。もう大ショックです。もう、あんまり美しいので。


絶対に私が好きそうな作品だから、はやく観ろ! と多くの人から勧められていたこの映画。期待が大き過ぎて、もし万一思っていたようなものでなかったら…などと私は少し心配していたのですが、それはまったく必要のない心配だったことが分かりました。たしかにこれは、びっくりするほど、いかにも私が好きそうな、美しい、繊細なアニメーション映画でした。まさかここまで綺麗に作ってあるとは思わなかった。猫が丸い手でスプーンを掴む、その掴み方とか、彼らがいつも驚いたみたいに目を開いているところとか、背景や小道具のいちいちがあんなに綺麗に美しく描かれていることとか、静かな映像の中に小さな音を丁寧に加えてあるところとか。衝撃的でした。特に背景は、あの塗り方は、素晴らしい。鮮やかなんだけれど、静かな色合い。素晴らしく美しい世界が表現されています。これは参ったなぁ。


物語は、かなり原作に忠実に展開しているようです。原作にあるいくつかの場面を省略したり、かわりに映画オリジナルの設定を加えたりはしてあるようですが、基本的には台詞の細かいところまで、原作とほぼ同じです。

とにかく、絵が美しいです。水晶の砂のプリオシン海岸、明滅する電燈、鳥捕りの周りを飛び回る白い鷺、美しいなぁ。こんなに美しく映像化してあるだなんてなぁ、信じられないな。よく作ったなぁ。とても繊細な表現が次々と繰り出されています。すごいなぁ。

また、ジョバンニやカムパネルラが劇中、「けれども」「けれども」と言うのが、私は好きです。「お母さんは、ぼくをゆるして下さるだろうか」とか、なんて美しい会話だろう。こうやって人の声で語られると、宮沢賢治の言葉の美しさが、ますます引き立って聞こえるということに、あらためて気づかされます。映画の終わりには、『春と修羅』の序文が読み上げられるのですが、私はそのあまりの美しさに、少しぼんやりしてしまいました。



 わたくしといふ現象は
 仮定された有機交流電燈の
 ひとつの青い照明です
 (あらゆる透明な幽霊の複合体)
 風景やみんなといつしょに
 せはしくせはしく明滅しながら
 いかにもたしかにともりつづける
 因果交流電燈の
 ひとつの青い照明です

 ――『心象スケツチ 春と修羅』序(宮沢賢治)


なんて美しいんだろう。言葉が、どうしてこんなに美しくなるのでしょう。ただその字面や音の響きが美しいだけではなく、それがもたらすイメージも、意味も、すべて、あまりに美しい。美しい。美しすぎる。こんなに美しいものがあるなんて、ほんとうだろうか。こんなに透明で美しいものを重ねることができる、宮沢賢治という人は、ほんとうに何者なのだろうか。

ところで、『銀河鉄道の夜』の原作ですが、推敲を重ねられたこの作品には、別バージョンがあるらしい。現在一般的になっているストーリーとは、いくぶん違った展開なんだそうで、それは、ちょっと読んでみたいな。


というわけで、私としては、この映画によって原作から受けた印象を激しく損なわれるといったようなことはありませんでした。主人公が猫として描かれているのも、猫好きの私にはたまらない魅力です。
素晴らしく詩的な映像と音楽。実に美しい世界でありました。



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