「私」は珍しく日本にいまし
た。どこかの地方の食堂とい
う風情の場所にいて、4人掛
けの木のテーブルの1つに1
人で座り食事をしています。
周囲のテーブルにも三々五々
人がいて、食堂らしくみな気
兼ねなく食事をしています。
1人だけだったのは「私」だ
けで、こぢんまりとした場所
でお互いの距離は近く、NZ
のノリで周りの人たちに声を
かけ、会話が始まりました。
みな食事に満足そうでしたが
『今日のお勧め』がいつもす
ぐなくなってしまうというの
が共通の不満のようでした。
「頼もうと思っても、もう終
わりましたって言われたり」
と地元の年配者が言えば、
「そうそう。私たちもそれが
楽しみで来てるのに、売切れ
ていることが多いのが残念」
と観光客の女性も言います。
「私」も頼もうとしたお勧め
のいくつかは売切れでした。
=============
場面は変わって、「私」は所
狭しと商品が陳列された、典
型的なみやげ屋にいました。
通路には支払いをしようとす
る客の列ができ、その先には
風呂屋の番台よろしく店内が
見渡せる一段高い場所に男性
が座りレジを打っています。
「私」の番になって彼は初め
て「私」に気づき、驚き照れ
つつも歓迎してくれました。
=============
「なんとかやってますよ。」
混み合う店内を「私」に案内
しながら男性は言いました。
店ははやり、彼の本業とは関
係ない仕事でしたが、本人も
まんざらではなさそうな反面
いずれは本業に戻りたいとい
う、強い意思も感じました。
店は大きな川の淵に立ち店内
に涼しい風が吹いています。
「これは茨木物産展のものな
んですよ」と男性が指差した
ものは、全開の窓の下の棚に
いくつも並べられた竹籠の中
に入ったお洒落雑貨でした。
「茨木?」
と聞き返すと、苦笑いしつつ
「なんでも売らないとね~」
と男性の横顔が呟きました。
茨木はその場所とも男性の出
身とも無関係の場所でしたが
買い物客はお洒落な雑貨を盛
んに見ており、「私」も1本1
本が違う端切れでできた素朴
な木綿のバナナの房を気に
入って買うことにしました。
(※リアルでも大のバナナ好き)
さっきの食堂はみやげ屋に併
設されていた店のようです。
人気の『今日のお勧め』をも
っと増やしては?と男性に告
げかったものの、本人がずっ
と話し続けていたので口を挟
めずにいました。それでも、
男性がみやげ屋の店主として
しっかりやっているのを見届
けられホッとしていました。