田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

ルーマニヤパブ/夕日の中の理沙子 麻屋与志夫

2009-03-08 13:07:18 | Weblog
「翔太さん。こんばんは」

ふいに声をかけられてビツクリした。

オレンジ色のベレーをかぶったタウンポリスのおじさん、横松さんだった。

「操高校の女子生徒に会いませんでした」

操は女子高だから、女子とつける必要はないと翔太は気づいた。

なにか頭が霞がかかったようにぼんやりしている。

「あの宝石店の前を通ってきましたが……なにかゾクッとしましたよ」

翔太の聞きたくはない会話になりそうだった。

「四人ずれだったかな」

翔太は横松の話題に引きこまれないようにさらに質問をした。

横松は首をよこにふった。

彼がそのあとに続ける言葉は見当がついていた。

――あの後ずっとこの通りは不景気だものね。

映画館もなくなった。

撤退する店舗が続出してるものね。

これでおかしな事件でもおきたら死活もんだいだから。

パトロールがんばらなきゃ。

もとニーヨーク宝石店の前をパトロールしてきた横松が。

彼女たちに会わなかったということは。

途中で彼女たちは消えたということだ。

お店に入ったのだろう。

翔太が予期したようなヤクザの影はない。

ヤクザのいた残留思念はない。

あまりに個性の強い人間が通過した後には悪意がその場にとどこおる。

それを翔太は敏感に感じられる。

「翔太」

あたりに人影はない。

元宝石店の前にさしかかっていた。

「翔太。わたしよ」

店の前には濃い乳白色の霧がたちこめていた。

その中で人型のものが揺らいでいる。

「姉さんか? 喜代子姉さんか」

「そうよ。ようやくわたしの声がきこえたのね。ずつと呼びかけていたのよ」

「姉さん、ごめん。むりにでもあの日、出勤する姉さんを止めればよかった」

「そんなことは気にしないで。あれは運命だった。

それより翔太、あなたねらわれているわよ」

「おれは姉さんの恨みをはらす。

姉さんたちの死の悲鳴をよろひんで吸いこんだVをゆるさない」

「怨念を晴らそうとすれば、それは自分にももどってくるわ」

「それでもいい。そのためにおれは覚醒した。

そのためにハンターとなれた。姉さんの恨みは晴らしてみせる」

霧が晴れた。ルーマニヤパブの前まで来ていた。

姉と話しながら翔太は歩いていたらしい。




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ああ、快感。