7
「ながかった」
それが内部にある声なのか。
わたしがこれから書こうとしている小説のなかの会話なのか。
わからない。
リアルな世界に想像の世界が――小説の世界が入りこんできた。
「ながかった」
わたしの町の人狼伝説を書きだしていた。
たえずこれまで邪魔されてきたが。
人狼がわたしにおよぼしている害意だとすれば。
すべての不可解なことが解けてくる。
夕暮れの茜色。
巨大な鯨の胴を真っ二つに割いたような赤黒い雲。
茜色などというロマンチックな色彩ではなかった。
わたしはこの色を恐れてきた。
わたしたちの種族では男の子は歓迎されなかった。
男が生来の能力に目覚めることは、小さな部族に危機をまねくだけだ。
男が血を吸う種族全体のもつ能力に目覚めることは忌み嫌われていた。
そんなことが起きれば、部族に滅亡をもたらすかもしれないのだ。
女だけがマインドバンパイアとして生きてきた。
人と交わることもできた。
「わたしたちの部族は男を産んだときはね、
母親みずからが赤ちゃんに割礼を施すのよ。
嬰児に割礼を施して男に種族の本能に目覚めさせないようにするの。
割礼が本能を抑えるなんてまったくの迷信よね。
たぶんかわいそうにそのときの朱の記憶、
血の色を痛みとともに覚えたのね。
かわいそうに、初めて流した血の色を覚えているのだわ」
どこかでタニス・リーの小説だったろうか。
あまりにも、わたしの立場と似ている一節を読んだ。
これが、この一節がわたしの受容しなければならない現実なのか。
誰かにいわれたことばなのか。
小説の中でのことなのか分明ではない。
どこで読んだのか。
記憶にない。
誰かに聞いたことばだというのか?
いまとなっては曖昧となった記憶だ。
あるいは、わたしの書いたものかもしれない。
気にいった文があると。
コラジューのように。
じぶんの小説のなかにちりばめるという手法をとっている。
どのていどまでが許され。
どこからは剽窃といわれるのだろうか。
わからない。
わたしの小説の中の一節だとしても。
それがわたしがまちがいなく書いたものだという確証はない。
わたしは母に疎まれた子だとながいこと苦しんできた。
「狼がでた。狼がきたわ」
冬。
満月の夜。
母はよくそういって怯えていた。
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それが内部にある声なのか。
わたしがこれから書こうとしている小説のなかの会話なのか。
わからない。
リアルな世界に想像の世界が――小説の世界が入りこんできた。
「ながかった」
わたしの町の人狼伝説を書きだしていた。
たえずこれまで邪魔されてきたが。
人狼がわたしにおよぼしている害意だとすれば。
すべての不可解なことが解けてくる。
夕暮れの茜色。
巨大な鯨の胴を真っ二つに割いたような赤黒い雲。
茜色などというロマンチックな色彩ではなかった。
わたしはこの色を恐れてきた。
わたしたちの種族では男の子は歓迎されなかった。
男が生来の能力に目覚めることは、小さな部族に危機をまねくだけだ。
男が血を吸う種族全体のもつ能力に目覚めることは忌み嫌われていた。
そんなことが起きれば、部族に滅亡をもたらすかもしれないのだ。
女だけがマインドバンパイアとして生きてきた。
人と交わることもできた。
「わたしたちの部族は男を産んだときはね、
母親みずからが赤ちゃんに割礼を施すのよ。
嬰児に割礼を施して男に種族の本能に目覚めさせないようにするの。
割礼が本能を抑えるなんてまったくの迷信よね。
たぶんかわいそうにそのときの朱の記憶、
血の色を痛みとともに覚えたのね。
かわいそうに、初めて流した血の色を覚えているのだわ」
どこかでタニス・リーの小説だったろうか。
あまりにも、わたしの立場と似ている一節を読んだ。
これが、この一節がわたしの受容しなければならない現実なのか。
誰かにいわれたことばなのか。
小説の中でのことなのか分明ではない。
どこで読んだのか。
記憶にない。
誰かに聞いたことばだというのか?
いまとなっては曖昧となった記憶だ。
あるいは、わたしの書いたものかもしれない。
気にいった文があると。
コラジューのように。
じぶんの小説のなかにちりばめるという手法をとっている。
どのていどまでが許され。
どこからは剽窃といわれるのだろうか。
わからない。
わたしの小説の中の一節だとしても。
それがわたしがまちがいなく書いたものだという確証はない。
わたしは母に疎まれた子だとながいこと苦しんできた。
「狼がでた。狼がきたわ」
冬。
満月の夜。
母はよくそういって怯えていた。
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