第二部
私立池袋学園の怪談。
書道部
1
成海離子主演の「書道ガールズ」の人気のおかげだ。
と……部員はみんなしっている。
しらないのは顧問の平池春陽先生くらいだ。
今朝もカンヌデビュー!
豪快な書道パフォーマンスに観光客がわく、
とテレビのニュースでやっていた。
はかま姿で豪快なパフォーマンスを成海離子がみせていた。
「春陽先生はテレビみないシ」
三年生になって伝統ある書道部の部長となった鹿沼豊に川添涼子が応える。
「どうして書道部にこんなに大勢の新入生がはいったか先生はおわかりかな?」
と豊がツブヤイタことに二年生の副部長、涼子がすばやく応えたのだ。
苦労している。気配りはたいへんなものだ。
新入部員激増の理由をしらない先生にかわって、
豊はパフォーマンスをみせる。
いまさら永字八法でもあるまい。
横センと欲すれば縦セヨ。
縦の線をひこうとおもったら横に打ちつけてから!! なのだよ!!!
などと教えてもだれもよろこばない。
「半切に作品をかけるようになるまでぼくは十年かかりました」
という謹厳実直な先生にかわって、
豊はなんとかこのマスコミでの人気に乗じて、
書道部を盛りたてようとしている。
「豊がイケメンだからよ」
と涼子はサラリと言う。
豊は照れながら半紙に新幹線の先頭形状をイメージした線をひいてみせる。
「わぁダイナミック」
「線が生きてるわ」
などという歓声が起こる。
涼子はふと気づく。
部員の上げる歓声の間にかすか音をきいた。
なにかひっそりとした音。
パラパラと本のページをめくるような音だ。
辺りをみまわす。
ゴキブリでも這っているようにもきこえる。
机にきちんと重ねられた半紙の角が動いていた。
涼子は半紙の角が動くのを目撃した。
だれも豊の筆の動きにみとれている。
半紙の角が目にみえない指ではじかれている。
涼子は真っ青になった。
部室は窓が閉まったままだ。
風のいたずらではない。
だれもその半紙の重ねられた机の隅にはいない。
透明人間でもいるのか。
それより遊霊。ポルターガイスト???。
体ががくがくふるえだした。
どうしょう。
どうしょう。
みんなに注意したほうがいいのかな。
わたしだけにしかみえない超常現象なのかな。
超常現象だなんておおけさすぎるシ。
どこからか隙間風がふきこんでいるのよ。
そうよ、風よ。
ヤッパ、風でしょう。
涼子はそっと音を立ててめくれている半紙の角に手を近づけた。
風なんかあたっていない。
指先までふるえている。
背筋を冷やかな汗がながれ落ちる。
体が冷たくなる。
豊の傍らの半紙がまいあがった。
ひらひらと蝶のように虚空にまいあがった。
部員はこれも豊のパフォーマンスとおもいこみいっせいに拍手している。
「すごい。すごい」
「かみが生きているみたいに飛んでいる」
「すごいわ」
涼子が手をあてていた半紙も一斉に部室の天井にまいあがった。
豊が不審そうに四囲をみまわす。
「扇風機でももちこんで、だれかトリックをしかけているのかな」
と心のつぶやきを声にする。
いちはやくそれをきいた涼子が「センパイ。怪奇現象ですよ」とささやく。
半紙の舞はいまや部室いっぱいにひろがっている。
豊が筆をとり落とす。
墨をたっぷりと含んだ筆がゆかに落ちる。
墨があたりにとびちる。
「すばらしいわ」
とびちった墨の跡にまだ部員は感動している。
「キヤ!!!」
と悲鳴があがった。
豊が血をながしている。
指先から赤な血が流れていた。
床に散らばった半紙のうえに鮮血がしたたっている。
やっと、部員も異変におどろく。
さらに、紙が部員をおそいだした。
口にはりついた。
それはいいほうだ。
紙の縁で頬をきられる。
額をきられる。
真っ赤な血が白い半紙に滴り落ちる。
首筋をきられて血がふきだす。
部室はパニック。
悲鳴。
にげまどう部員。
「火災警報を鳴らすんだ!!!!!」
廊下への最短距離にいる部員に豊が叫ぶ。
部員は引き戸をあけ廊下に走り出る。
プチしていただければ作者の励みになります。
私立池袋学園の怪談。
書道部
1
成海離子主演の「書道ガールズ」の人気のおかげだ。
と……部員はみんなしっている。
しらないのは顧問の平池春陽先生くらいだ。
今朝もカンヌデビュー!
豪快な書道パフォーマンスに観光客がわく、
とテレビのニュースでやっていた。
はかま姿で豪快なパフォーマンスを成海離子がみせていた。
「春陽先生はテレビみないシ」
三年生になって伝統ある書道部の部長となった鹿沼豊に川添涼子が応える。
「どうして書道部にこんなに大勢の新入生がはいったか先生はおわかりかな?」
と豊がツブヤイタことに二年生の副部長、涼子がすばやく応えたのだ。
苦労している。気配りはたいへんなものだ。
新入部員激増の理由をしらない先生にかわって、
豊はパフォーマンスをみせる。
いまさら永字八法でもあるまい。
横センと欲すれば縦セヨ。
縦の線をひこうとおもったら横に打ちつけてから!! なのだよ!!!
などと教えてもだれもよろこばない。
「半切に作品をかけるようになるまでぼくは十年かかりました」
という謹厳実直な先生にかわって、
豊はなんとかこのマスコミでの人気に乗じて、
書道部を盛りたてようとしている。
「豊がイケメンだからよ」
と涼子はサラリと言う。
豊は照れながら半紙に新幹線の先頭形状をイメージした線をひいてみせる。
「わぁダイナミック」
「線が生きてるわ」
などという歓声が起こる。
涼子はふと気づく。
部員の上げる歓声の間にかすか音をきいた。
なにかひっそりとした音。
パラパラと本のページをめくるような音だ。
辺りをみまわす。
ゴキブリでも這っているようにもきこえる。
机にきちんと重ねられた半紙の角が動いていた。
涼子は半紙の角が動くのを目撃した。
だれも豊の筆の動きにみとれている。
半紙の角が目にみえない指ではじかれている。
涼子は真っ青になった。
部室は窓が閉まったままだ。
風のいたずらではない。
だれもその半紙の重ねられた机の隅にはいない。
透明人間でもいるのか。
それより遊霊。ポルターガイスト???。
体ががくがくふるえだした。
どうしょう。
どうしょう。
みんなに注意したほうがいいのかな。
わたしだけにしかみえない超常現象なのかな。
超常現象だなんておおけさすぎるシ。
どこからか隙間風がふきこんでいるのよ。
そうよ、風よ。
ヤッパ、風でしょう。
涼子はそっと音を立ててめくれている半紙の角に手を近づけた。
風なんかあたっていない。
指先までふるえている。
背筋を冷やかな汗がながれ落ちる。
体が冷たくなる。
豊の傍らの半紙がまいあがった。
ひらひらと蝶のように虚空にまいあがった。
部員はこれも豊のパフォーマンスとおもいこみいっせいに拍手している。
「すごい。すごい」
「かみが生きているみたいに飛んでいる」
「すごいわ」
涼子が手をあてていた半紙も一斉に部室の天井にまいあがった。
豊が不審そうに四囲をみまわす。
「扇風機でももちこんで、だれかトリックをしかけているのかな」
と心のつぶやきを声にする。
いちはやくそれをきいた涼子が「センパイ。怪奇現象ですよ」とささやく。
半紙の舞はいまや部室いっぱいにひろがっている。
豊が筆をとり落とす。
墨をたっぷりと含んだ筆がゆかに落ちる。
墨があたりにとびちる。
「すばらしいわ」
とびちった墨の跡にまだ部員は感動している。
「キヤ!!!」
と悲鳴があがった。
豊が血をながしている。
指先から赤な血が流れていた。
床に散らばった半紙のうえに鮮血がしたたっている。
やっと、部員も異変におどろく。
さらに、紙が部員をおそいだした。
口にはりついた。
それはいいほうだ。
紙の縁で頬をきられる。
額をきられる。
真っ赤な血が白い半紙に滴り落ちる。
首筋をきられて血がふきだす。
部室はパニック。
悲鳴。
にげまどう部員。
「火災警報を鳴らすんだ!!!!!」
廊下への最短距離にいる部員に豊が叫ぶ。
部員は引き戸をあけ廊下に走り出る。
プチしていただければ作者の励みになります。
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