書道部での異変
2
部員は引き戸をあけた。
しかし、外には走り出られなかった。
敷居をまたいだ。
そこで、紙に追いつかれた。
紙が、まるでトルネードのように渦巻き彼女におそいかかった。
彼女は紙でぐるぐるまきになった。ギャッと絶叫がした。
紙の塔がジワッとくれない色に染まっていく。
カマイタチみたいだ。
彼女の生足を血が滴りおちた。
足は紙におおわれていない。
部室の底部ではなにも起きていない。
「伏せるんだ」とっさに豊は叫んだ。
紙の乱舞は天井にむかっている。
その中になにか――いる。
まさかイタチでも!!!
「伏せるんだ」豊は匍匐した。
はって、近寄った。
血染めの半紙をとりのぞいた。
新入部員。たしかみんながケイと呼んでいた。
「ケイ。ケイ。ケイ」
太股がぱっくり傷口をひらいていた。
廊下を通りかかった男子生徒が「どうした」と声をかける。
「報知機。警報を鳴らしてくれ」
豊は彼女の傷口に涼子のハンカチをあてた。
涼子とふたりでケイを廊下に引きずる。
紙につつまれて、白いオットセイのように部員がはってくる。
なにか仮想現実の世界での出来事をみているようだ。
ガサゴソとオットセイは白い巨大な波頭のように豊と涼子めがけてうちよせてくる。
聞こえてくるのは潮騒ではない。波の音ではない。
悲鳴だ。苦鳴だ。ぜいぜいする呼吸音に、泣き声がまじっている。
それは恐怖に泣く書道部員の声だ。
豊もパニックを起こしていた。
あまりの恐怖が怒りにかわった。
「なにものだ」たしかに感じられる。
だれかいる。
「豊センパイ!!!!」
涼子の叫びが後ろでする。
豊は部室の中央にとってかえした。
「だれだ」紙が動きを止めた。
動きの止まった一枚の半紙に血がにじんでいく。
口でも拭いているようだ。
半紙には一本の線が引かれていた。
さきほど豊が書いた流線型の線だ。
そのうえに赤い顔が浮きでた。
顔の下に墨の黒い線。コルーマンひげのようだ。
そして顔の魚拓。
ああ、それは吸血鬼の顔だった。
空に浮いた半紙の赤い顔がちかよってくる。
フフフフフフと低い声がした。
いた。
たしかにここになにかいる。
それは人間の顔に似て、
人間ではないものだ。
顔は豊かに迫ってくる。
半紙の中で赤い口が開いた。
長い牙がみえる。
あの牙でかみつかれたら。
せまってくる。
せまってくる。
豊は金縛り。
動けない。
だめだ。
やられる!!
そのときあしもとにころがってた長い筆をだれか、
ひろいあげた。
墨をたっぷりとふくんだ筆が<
半紙の血染めの顔をよこにないだ。
「涼子、元気してた」
警報で、
かけつけたらしいそこには……翔子がいた。
翔子は筆を剣のようにかまえていた。
「The pen is mightier than the sword」
翔子の口からヨユウの掛け声がもれる。
「いくわよ。わたしの友だちになんてことするのよ」
プチしていただければ作者の励みになります。
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部員は引き戸をあけた。
しかし、外には走り出られなかった。
敷居をまたいだ。
そこで、紙に追いつかれた。
紙が、まるでトルネードのように渦巻き彼女におそいかかった。
彼女は紙でぐるぐるまきになった。ギャッと絶叫がした。
紙の塔がジワッとくれない色に染まっていく。
カマイタチみたいだ。
彼女の生足を血が滴りおちた。
足は紙におおわれていない。
部室の底部ではなにも起きていない。
「伏せるんだ」とっさに豊は叫んだ。
紙の乱舞は天井にむかっている。
その中になにか――いる。
まさかイタチでも!!!
「伏せるんだ」豊は匍匐した。
はって、近寄った。
血染めの半紙をとりのぞいた。
新入部員。たしかみんながケイと呼んでいた。
「ケイ。ケイ。ケイ」
太股がぱっくり傷口をひらいていた。
廊下を通りかかった男子生徒が「どうした」と声をかける。
「報知機。警報を鳴らしてくれ」
豊は彼女の傷口に涼子のハンカチをあてた。
涼子とふたりでケイを廊下に引きずる。
紙につつまれて、白いオットセイのように部員がはってくる。
なにか仮想現実の世界での出来事をみているようだ。
ガサゴソとオットセイは白い巨大な波頭のように豊と涼子めがけてうちよせてくる。
聞こえてくるのは潮騒ではない。波の音ではない。
悲鳴だ。苦鳴だ。ぜいぜいする呼吸音に、泣き声がまじっている。
それは恐怖に泣く書道部員の声だ。
豊もパニックを起こしていた。
あまりの恐怖が怒りにかわった。
「なにものだ」たしかに感じられる。
だれかいる。
「豊センパイ!!!!」
涼子の叫びが後ろでする。
豊は部室の中央にとってかえした。
「だれだ」紙が動きを止めた。
動きの止まった一枚の半紙に血がにじんでいく。
口でも拭いているようだ。
半紙には一本の線が引かれていた。
さきほど豊が書いた流線型の線だ。
そのうえに赤い顔が浮きでた。
顔の下に墨の黒い線。コルーマンひげのようだ。
そして顔の魚拓。
ああ、それは吸血鬼の顔だった。
空に浮いた半紙の赤い顔がちかよってくる。
フフフフフフと低い声がした。
いた。
たしかにここになにかいる。
それは人間の顔に似て、
人間ではないものだ。
顔は豊かに迫ってくる。
半紙の中で赤い口が開いた。
長い牙がみえる。
あの牙でかみつかれたら。
せまってくる。
せまってくる。
豊は金縛り。
動けない。
だめだ。
やられる!!
そのときあしもとにころがってた長い筆をだれか、
ひろいあげた。
墨をたっぷりとふくんだ筆が<
半紙の血染めの顔をよこにないだ。
「涼子、元気してた」
警報で、
かけつけたらしいそこには……翔子がいた。
翔子は筆を剣のようにかまえていた。
「The pen is mightier than the sword」
翔子の口からヨユウの掛け声がもれる。
「いくわよ。わたしの友だちになんてことするのよ」
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