22
「どうしょう。慶子ちゃん、わたしどうしたらいいの? 学都先生のうしろにもうひとりおなじ型のマボロシみちゃった」
「幽霊と闘おうとしてたのね」
「あれって吸血鬼だわ」
「吸血鬼縛にかかったのよ。吸血鬼はね、処女の血が好きなんだって、ひとにらみされると動けなくなるの。だから恍惚とよろこんで血を吸われているような表情になるのよ。動けなくなるって、ほんとなんだぁ」
「コワーイ話しー」
「ほんと怖くなってきたね」
彩音と慶子は『アサヤ塾』に急いでいた。
ふたりそろって、同時に、府中橋からトマソンの幸橋をみた。
うそだ。幸橋をぞろぞろ女工が寮に帰っていく。慶子にそれが見える。
宵やみがせまっていた。逢魔が時。
「彩音。わたしにも幽霊みえるよ」
「ほんと。どこどこ……」
慶子が右手、上流の幸橋をさしている。
慶子のいうとおりだ。
いまは両側の階段を切り離されている。
トムソン橋。幽霊橋。ひとの通るはずのない橋。
それなのに、ああ、女工さんたちが寮へ帰っていく。
「ほんとだぁ。慶子、すぅごい。わたしたちヤッパともだちでしょ」
立ち直りがはやいのもふたりの明るい正確による。
舞台での吸血鬼との接近遭遇。
から立ち直った。
ふたりはキキャハハとさわぎなからアサヤ塾の門を潜っていた。
6
さっと顔に薄幕がかかった感じがした。
「そうか、感じたか」
アサヤのオッチヤン先生が破顔する。
無精髭をそったあとなのですっきりしている。
いかにもうれしそうだ。
もっとまめに、できれば毎日ひげをそってくれればいいのに。
と彩音たちは思っている。
「センセイ、あれってなんなの」
顔に感じた薄幕のようなものについて聞いてみた。
「吸血鬼バリァだ」
ダァッとこんどは彩音と慶子がコケタ。
あまりのタイミングのよさ。
吸血鬼の話しをしながらかけつけた塾だ。
授業のはじまるまえにオッチャンの知恵をかりようとかけつけた塾だ。
まけたぁ。
ここにも異界を見ることのできる存在がいたのだ。
「授業はうちの美智子さんにまかせよう。じっはな、彩音、文美さんがきてるんだ」
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「どうしょう。慶子ちゃん、わたしどうしたらいいの? 学都先生のうしろにもうひとりおなじ型のマボロシみちゃった」
「幽霊と闘おうとしてたのね」
「あれって吸血鬼だわ」
「吸血鬼縛にかかったのよ。吸血鬼はね、処女の血が好きなんだって、ひとにらみされると動けなくなるの。だから恍惚とよろこんで血を吸われているような表情になるのよ。動けなくなるって、ほんとなんだぁ」
「コワーイ話しー」
「ほんと怖くなってきたね」
彩音と慶子は『アサヤ塾』に急いでいた。
ふたりそろって、同時に、府中橋からトマソンの幸橋をみた。
うそだ。幸橋をぞろぞろ女工が寮に帰っていく。慶子にそれが見える。
宵やみがせまっていた。逢魔が時。
「彩音。わたしにも幽霊みえるよ」
「ほんと。どこどこ……」
慶子が右手、上流の幸橋をさしている。
慶子のいうとおりだ。
いまは両側の階段を切り離されている。
トムソン橋。幽霊橋。ひとの通るはずのない橋。
それなのに、ああ、女工さんたちが寮へ帰っていく。
「ほんとだぁ。慶子、すぅごい。わたしたちヤッパともだちでしょ」
立ち直りがはやいのもふたりの明るい正確による。
舞台での吸血鬼との接近遭遇。
から立ち直った。
ふたりはキキャハハとさわぎなからアサヤ塾の門を潜っていた。
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さっと顔に薄幕がかかった感じがした。
「そうか、感じたか」
アサヤのオッチヤン先生が破顔する。
無精髭をそったあとなのですっきりしている。
いかにもうれしそうだ。
もっとまめに、できれば毎日ひげをそってくれればいいのに。
と彩音たちは思っている。
「センセイ、あれってなんなの」
顔に感じた薄幕のようなものについて聞いてみた。
「吸血鬼バリァだ」
ダァッとこんどは彩音と慶子がコケタ。
あまりのタイミングのよさ。
吸血鬼の話しをしながらかけつけた塾だ。
授業のはじまるまえにオッチャンの知恵をかりようとかけつけた塾だ。
まけたぁ。
ここにも異界を見ることのできる存在がいたのだ。
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