田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

失神 吸血鬼ハンー美少女彩音

2008-07-05 14:54:55 | Weblog
     

        川上澄生美術館

3

慶子やオケラ部の友だちが上から彩音をのぞきこんでいる。
「あら、わたしどうしたのかしら」
「失神したのよ」
「どうしたの、彩音。……貧血? 勉強のしすぎじゃないの」
美術館のソファに横になっていた。
耳元でシンバルがひびいた。フラッシュに目がくらんだ。そこまでは覚えている。鼓膜がやぶれたのではないか。
それほどのショック。
どうしてだろう。ほかのみんなは、なんともないのに。
わたしだけが……?
そして、幸橋から身をなげる少女のまぼろしを見た。あれは夢なんかじゃない。
たしかに起きたことだ。まちがいない。リアルすぎる映像だった。 
わが家の家系。鹿沼の語り部としての血に目覚めたのかもしれない。
川端家は長寿の系譜だった。女系家族。
その家で生まれ育った女は卒寿は全うする。
江戸末期に百歳を超えて生きつづけた川端タキの例もある。
そして、記憶力がすこぶるいい。
鮮明に各時代の鹿沼の出来事を朗唱することができる。
それでこそ、当主は代々鹿沼の稗田阿礼とさえいわれている。
「隣の図書館にいってみない」
「どうしたのよ。彩音。きゅうに朝から勉強したくなったの」
「調べたいことができたの」
「それって、やっぱ、勉強じゃない」
「ねねね、彩音がたのんでいるの、いこーよ」
「ゴメン。六面。七面鳥。とめてくれるな、彩音ちゃん。バスケの朝練、まっている」
9時になった。図書館の開館の時間だ。
平成になってからというもの、ハローワーク、商工会議所、情報センター、法務局の分室、文化交流館などが立ち並び、この国産繊維の女子寮の跡は、すっかり鹿沼の官庁街になった。
歩道に人が群れる。街が活気づく。
図書館の郷土資料室のパソコンには、ここ15年間の資料しかインプットされていなかった。
司書のひとに幸橋から投身自殺した少女のことを調べたいのです。
なんてこといいだせない。過去の新聞を調べるとしたら、どの時代まで遡るべきなの。わからない。それに時間の浪費。
考えただけでも、ウザイ。とてもひとりで調べきれるものではない。
だいいちあの服装、モンペ姿からみてもかなりむかしの出来事だろう。
こんなときは、家のおばあちゃんにかぎる。
図書館が今宮町の旧市役所跡に、いや戦後中央小学校の片隅に町立として誕生したときから定年まで勤めあげたおばあちゃんだ。
鹿沼の生き証人。鹿沼の語り部。稗田阿礼。
とまでいわれている記憶力の天才だ。
文美おばあちゃんに聞くのがいちばんだ。
彩音は携帯をプッシュする。


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