田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

清明の母は白狐/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-09-07 09:48:16 | Weblog
奥様はバンパイァ46

○「歩いて帰らない」とM。

「クリツパーはどうするの?」と玲加。

「あすとりにくればいいわよね」

さっさと駐車場を横切りながら、Mはいらいらした声でGをふりかえる。

「わたしたちの悔しさはだれにもわからない。わたしたちの恨みはわたしたちだけ

のもの……」モノローグのような口調でつづける。

「Mありがとう。洋子はぶじにもどった。ありがとう」

玲加にはMの悔恨と怨念のよりどころが理解できない。

「でも山本さんが麻薬取締官だとは思わなかったな」

「それよりあそこで大麻を原料とした合成麻薬をつくっていたとはね……」

Mはまだ苛立ちを隠しきれないでいる。

いままでいた空間での戦闘の喧騒。

天井いっぱいにくりひろげられた残虐非道な合戦絵巻からぬけだせないでいるの

だ。

「わたしテキにはね、オバサマ。歴史好きな女の子としては玉藻の前の戦いに連座

した感じ。またとない経験をしたわ」

歴女の玲加はうれしさで興奮している。

必死に抵抗する九尾族の女たち。

絶叫。

すすり泣き。

人狼の影。

後ろ足だけは人間のままで女たちに襲いかかるものたちが多かった。

狼になりきったもの咆哮。

火の粉。槍や刀、松明を手にした都からの追って。

まだ玲加の耳には戦場のセメギ合う声がひびきがのこっているのだろう。

「わたしたちユダヤ十支族がこの極東の小さな島にたどりついたとき、ほとんど武

器は使い果たしていた。武器らしい武器はもたなかった。部族のだから最強の武器

は色白の美女たちだった。美しく化粧する能力のある女たちだったの……。わたし

たちの部族はここを終の棲家とすることにきめたの。ここはシルクロードの終着

点。世界の果て。ここに定住したい。それにはこの地の先住民族に女たちをさしだ

すことしかできなかつた。阿倍晴明が白い狐を母として生まれたという言い伝えが

あるわ。玲加しってるでしょう。狐が人間の子供を産むわけないでしょう」

「じゃわたしたちの先祖が……」

「渡来人の女から生まれたということが憚られた時代のですものね」

「帰化人の色白の美女が白狐だったんだ」

「真実をかくすための寓話よ。アレゴリーなのよ。狐は損な役回りなの。人をだま

す狡猾なものの寓意として洋の東西にかかわらずむかしから記されてきたの。清明

の母といわれる葛の葉は『恋しくば尋ね来て見よ和泉なる信太の森のうらみ葛の

葉』と詠って身をひくの。まさか玲加、白狐が和歌を詠んだと信じていなかったで

しょう。むかしから、わが部族の男たちは女の縁で政界にとりいっていったのよ。

女の武器をつかって画策しなくても、十分やって行けるほど大和の国に地盤を確立

したの。最後に切り捨てられたのが玉藻の前。鳥羽天皇の寵愛を一身に集めていた

彼女を嫉妬する女官の側に、わが部族の男たちが味方してしまった。同族のものに

排除された。悲劇よね」

     マチルダ
       
    pictured by 「猫と亭主とわたし


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