田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

とある田舎町の「学校の怪談」episode19 赤いランドセル。  麻屋与志夫

2014-06-21 03:13:02 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode 19 赤いランドセル。

二宮神社の境内で毎月4日に開かれる骨董市だった。
木枯らしが吹きすさんでいた。
男体山がその日は、初冠雪。
街も山々も寒々としていた。
春になれば定年となる刑事のS。
Sのたったひとつの趣味である骨董市巡り。
そのSの眼が赤いランドセルを見ていた。
ブルーシートの上にならべられていた。
骨董というよりもガラクタ。
刑事のSの持論は。
「骨董とは――骨が草の重みで古なっていくもの」
草が生えて、枯れる。
生えては枯れして。
歳月の重みに耐えてこそ骨董品なのだ。

老婆がじっと伏し目がちに冷やかしの客を見ていた。
ときどき声をかける客もいた。
老婆からは、返事はもどってこなかった。

「このランドセルは生々し過ぎる」
刑事の勘がそうつげていた。
あの事件は解決した。
赤いランドセルを背負った幼いK子チャンのポスターもとりはずされた。
Sにもあの同じ小学校にかよう孫娘がいた。
赤いランドセルのK子チャンの姿を見るのが痛ましかった。

Sの意識にはあの赤いランドセルがあった。
よく見ると無数の刺し傷がある。
千枚トウシのような鋭利な刃物で突き通された傷だ。
冠(かぶせ)の反射鋲の上のほうにのこっている。
無数の刺し傷。

あの犯人は小学校でイジメにあっていたにちがいない。
すでに帳場はたたんだ。
あの陰惨な事件の犯人のことを思っていた。
感情を押し殺したような、無表情な顔。
遠い国から母につれられてきたこの街。
言葉もろくにつうじない。
いじめにあってひきこもりぎみだったと近所のひとが証言していた。

だれが、このおれを、ヒキコモリにした。
クソヒキコモリのおれは……いつか復讐してやる。
リベンジだ。
リベンジだ。
そう叫びながら赤いランドセルの冠に千枚トウシをつきたてた。
ツキタテタ。

細かな穴のひとつひとつから悪意に満ちた怨念が吹きだしていた。
おれの思いすごしなのだろう。
こんなかんがえは、アンリアルだ。幻想だ。
刺し傷だらけの赤いランドセル。

「お客さん。買ってくれんけ」

いつまでも動かないSに老婆が上目ズカイに声をかけた。
Sはしぶしぶそのランドセルを買った。
こんな品は骨董品ではない。
際モノだ。
あの事件を連想させる今だけしか売れない、メッタニないしろものだ。

学校でのイジメは――。
虐めるものには一時。
イジメラレルものには一生トラウマとして残る。
イジメの被害者が、恨みをエスカレートさせる。
「誰でもいい。殺したかった」
なんてことになる。
何年もたってから縁もユカリもないものに狂った殺意がむけられる。
痛ましいことだ。

「おばちゃん。また売れたじゃないか」
となりに店をだしている青年が老婆に声をかけた。
老婆は応えない。
もじもじと座ったまま毛布のかげからとりだした。
赤いランドセルだった。
ランドセルの反射鋲が男体颪のなかで光っていた。
カブセがパタンパタンと音をたてて揺らいでいた。






平安の昔より続く「九尾(吸美)族VS人狼」の怨念の戦いが今蘇る。勝利して月に吠えるのは、どっちだ!

猫の動きから「人狼(じんろう)」の出現を予感していた一人の老人がいた。老人の予感通り人狼が出現し、民族学者の石裂(おざく)は争いの渦にまきこまれていく。那須野を舞台に展開する千年越しの怨念の戦い。勇猛果敢な妻は「あなたのことは、わたしが守る」といい、長女の祥代は「お父さんのことは、見捨てないから」といってナギナタをふるって人狼の群れに斬りこんでいく。那須野ガ原の『玉藻狩り絵巻』さながらの戦いが妻の故郷で勃発したのだ。平安から連綿と続く「都市伝説」は平成の世にも生きていた!痛快無比の壮絶な戦いの幕が、ここに切って落とされた――。

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