田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

恋空の観覧車 Part 3

2008-09-21 17:58:40 | Weblog
9月21日 日曜日
観覧車/後生車/鬼の面
●観覧車は恋心を乗せて回っている。
 観覧車は子どもを喜ばせようという
 親ごころを乗せて回っている。
 わたしたちの世代であったら
 胸いっぱいの感傷をのせて
 思いでをのせて回っている

●詩にもならないような言葉をメモに書き連ねながら石段を下りた。

●千手堂に降り立った。右手に後生車がある。わたしの背丈ほどの石の上部がくり抜かれている。その中に輪がはめこまれている。いろいろな呼び名があるらしい。

       

       

●わたしと中津君は、天気車といっていた。勢いよく下に向かって回す。そのままなら、明日は天気。どうかすると、止まる寸前になって逆回転する。「残念、あしたは雨だ」中津君の悔しそうな声がいまでも耳元に残っている。

●中津君は恋多き男。竹久夢二に似た風貌をしていた。やはり絵を描いていた。千手堂のわきに住職が住んでいた。きれいな娘さんがいた。中津君の家は参道のはずれにあった。よくわたしを呼びだしては娘さんのところにかよっていた。ひとりでいくのは恥ずかしかったのだろう。この片思いの恋の行方をわたしは知らない。

●上京してシナリオ研究所に通いだしていたわたしの前に彼が現れた時には、金丸恒子? さんといっしょだった。

●中津君は三年ほど前に他界した。不幸な晩年だった。絵筆を握るべき手にペンキ屋のハケを持っての老後だった。脳梗塞で一度倒れ、それでも「鬼殺し」のパックを傍らに置いていた。コップでぐいぐい飲んでいた。

●「将棋しょう」わたしがささないのをわすれていた。なんどもさそわれた。いまになってみると、かたちだけでも相手してやればよかったと反省している。あれが最後になった。

●若い訪問者のかたには、しめっぽくなってごめんなさい。

●振り返れば、観覧車は未来に向って希望いっぱいの若者を乗せて回っていた。

●この本堂の横の欄間に鬼の面がかかっていた。「息をつかないで走って一回りできれば、鬼の面が笑うんだよ」

●そういった中津君の声が耳元でする。いまでは走ることなどおぼつかない。でも文章は書ける。いつかきみの無念の人生をわたしに書かせてくれ。臨終の床に立ち会えなかったお詫びにせめて一編の小説を捧げたい。

       

       

       

       





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