田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-10-23 00:38:38 | Weblog
遺体のはいった棺を押して穴の中を進んでいる。
いまにも釘うちのしていない蓋がはねる。
黒い遺体が起きあがってくる。
……のではないかと不安だった。

棺桶の蓋には釘は打たない風習。
棺桶に釘を打ちつけるということは、遺体に釘をうつような感じだからだ。
ということらしい。
そうきくと不安になった。
 
不安なんてものではない。
心臓が喉元にはい上ってくる。
遺体が起きあがったら、どうしょう。
そして、不安は際限なくつづいた。
棺を墓場に納めたところで、背後で、入り口付近で天井がくずれた。
台座のロープをひくこともできない。
わたしはヘルメットのライトを消した。 
わたしが閉じ込められたのはみんなが知っている。
ただ救出されるまでの時間がわからない。
電池をセーブするにこしたことはない。      
闇の中で台座の上にのり座禅をくんだ。   
いや、動けなかっ。
じたばたしてもどうなるものではない。  
時間が経過するにしたがって空気が希薄になっていくようだった。 
臆病だからとんでもない妄想にかられた。

鼓動がたかなり不安が高まった。
 
こんどは、穴のそとの連中がわたしをここに閉じ込めてしまおうという悪意があったらどうしょう、というものだった。

でも、妻がいる。
妻はぜったいにわたしを裏切るようなことはしない。
でも、もし周囲から強要されたら。
……その時はその時だ。
不安とともに周囲の壁から阿鼻叫喚のざわめきがわいてきた。
暗黒の空間にいるのに、さきほどみた戦乱の絵巻がみえるようだ。
とわたしはイメージとして、あたまであの絵を再構築しているのだった。
長刀がひらめき、首をはねられたものがたおれていく。
虚空に生首が散乱する。      
血の臭さえしてきた。       
しかしそのものの形や顔は不分明だった。
やがて、ひややかな長刀の刃がわたしの首筋に感じられた。
わたしは絶叫して意識がとおのいていった。

なぜこんなし風習があるのだ。
あの長刀の女人軍団はなにものと戦っていたのだ。                
薄れていく意識でそうかんがえていた。
 
それを知りたくてさらに民俗学にうちこんできたような気がする。


         
あのときとおなじ恐怖をまた味わいたくはない。
なにを本田に託されたのか。




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