田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼の故郷

2008-10-23 08:38:17 | Weblog
なにをたのまれたのか知りたかった。    
まさか、猫に餌をやることをたのまれたわけではあるまい。
わたしが、この街に住んでいないのを本田はよく知っていたではないか。

狭い街だ。
いくら孤独な老人でもわたしたち家族の噂は耳に入っているはずだ。
急坂がつき黒川にかかった府中橋を渡り切ると、わたしは右折した。

車をさらに徐行させた。
ヨーカドーに向かった。     

妻の両親の面倒をみるために、この街に住みついたころは、よくこの川べりの夜道を散歩した。

妻は紫外線を浴びて日焼けするのを嫌っていた。

夜出歩くのがすきだった。   

なぜこのような清流を黒川と呼ぶのか妻に聞いたことがあった。
妻はこたえなかった。

小柄でやせぎすの妻はあまり加齢を感じさせない。
いまでも、あのころのままの美貌をたもっている。  

なにをたのまれたのだろうか。

妻にもわからないことがあるのだろうか。  

わかっていてもわたしに教えてくれないのかもしれない。 

黒川のときもそうだった。      
あるとき映画館で
『川のほとりでは、太古おおくの血が流されました。血は月の光でみると黒くみえるのです』
というセリフが耳に飛び込んできた。

わたしのとなりにいる妻がはっと息をのむのが伝わってきた。

わたしは気づかないふりをしていた。

それを妻がさらに気づいて、無視しているのを感じた。

わたしはむかしのことであり、水量も多く、濁流逆巻く黒川を想像していた。

妻の肩がふるえているのがわたしの肩につたわってきていた。

川の流れが赤く染まっていた。

黒川の源流である日光で戦があったのだろう。

川の水をこれほど赤く変えるからにはかなりの戦いがあったのだろう。

わたしはなぜか地理的にはこじつけになるのを承知で、これは戦場が原の戦いだと思っていた。

太古おおムカデと猿でたたかったという伝承をおもった。
人の血が川の色を赤くそめるほど流れ。
想像であっても悲しすぎる。        

そういえば、この地方には、赤川、とか赤染川と赤いと表現した川もおおい。



ヨーカドーの裏の道は暗かった。
はるかに建物や駐車場のほうに明かりがあるだけだった。
闇のなかになにかいた。
なにか、わたしをまちうけているものがいた。
猫のうなり声がする。
それも危機に瀕した鳴き声だ。 




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