田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

完結 吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-11-08 11:47:28 | Weblog
「祥代。しっかりするんだ」
「ママはあれをパパにみられたくなかったのよ」

 いがいとしっかりした声で娘が応えた。
 肩からは血がふいている。
 美智子は人狼に噛付いたまま、門の方角へ運ばれていく。
 あれは、玉藻は、美智子だったのか‼

「心配しないで、パパ」
 わたしは妻の後を追えなかった。 
 足が萎えて立ち上がれない。
「心配しないで、パパ。ママは強くなった。より強くなっているから。玉藻さまはママの体をかりてよみがえっていたの。人狼が覚醒する前からよみがえっていたのよ。降臨していたの。玉藻さまがママの中に共存していたの。マインドバンパイアになっていたの。ママはパパに狐になった姿をみられたくなかったのよ」

 赤く目が光るだけではなかった。
 妻もまた自由に体を変形できるようになっていた。

 爪がのびるだけではない。 
 目がはねあがり狐の目となり、赤く燃えるだけではない。
 吸血鬼の姿をとるのは、変化の段階だ。
 完全に獣の形をとれるのだ。
 
 妻の姿は黄金色に輝く九尾の狐。 
 玉藻の前だ。
 
 祥代がわたしに負傷していないほうの手を差し出した。
「だいじょうぶか」
「ママもだいじょうぶだよ。狼なんかに負けない。史上最強のマインドバンパイアなんだから。一つの国を操れるほどの能力がある。傾国の美女よ。すぐにもどってくるわ」 
 
 部族のものを祥代が妻にかわって励ましている。                         
「傷ついて倒れていても、首がつながっていけば、仮死状態なのよ。再生の望みはまだある」
 祥代の声が、いや姿までわたしが美智子と大学の道場で知り合ったころのそのままだった。
 祥代が頼もしく映った。
 
 ぞくぞくとレイコたちが戻ってきた。 
 まだこんなに大勢生きていたのだ。
 わたしは感動した。        
 涙が出た。          
 いつになく、一族のものとの連帯をかんじていた。
 それは陶酔感。 
 それは共存の喜び。
 彼女たちは美しすぎる。  
 肩にかついだ重傷のもの、仮死のものたちを道場によこたえる。
「おれはあとでいい。はやく彼女たちをみてやってくれ」
 そこまでいうと、出血のとまらないわたしはまた失神してしまった。

13

 ヨーカドーの駐車場からつれてきた孕み猫が産気づいた。
 はじめての出産らしいひざの上に抱き上げ腹をさすってやる。
 苦しがる。

 胸に抱く。  
 わたしの背中に爪をたててひっかいている。 
 人狼に襲われた左肩ではなくて助かった。
 まだ肩には包帯をまいてある。      
 猫にはそれが分かっているのだ。
 苦しがっている。でも左肩には爪を立てない。 
 わたしの背に爪を立てた。苦しがって爪でひっかいている。

 羊膜につつまれた子猫が狭い産道を伝って出きた。
 その胎児を手でわたしは受けた。

 生暖かい生の鼓動が伝わってきた。
 わたしはひどく感動した。            

 母となった猫と三匹の子猫にも名前をつけなればならないだろう。

 戦いは避けられないものか。
 わたしはこのまま妻の故郷で、猫たちの世話をしながら年老いてもいいとさえ思っていた。
 だが、人狼は覚醒してしまった。

 本田はわたしが、彼の意思を継ぎ、猫と共生し……できれば人狼の覚醒を抑止できるような生活をしてくれ。
 そういいたかったのではないか。          

 本田の遺言はそういうことではないのか。
 そういうことを頼まれたのではないのか。

 わたしは夢のことをしきりと考えていた。
 あの夢のメッセージは母猫の子猫への愛ではないのか。 
 敵対するふたつの部族のDNAの中にはいくらさがしても『愛』という概念は組み込まれてはいないのか。
 そんなことはあるまい。

 もどってきたら妻に、わたしはそのことをききたい。

                          第一部 完結

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