田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-04-18 03:08:22 | Weblog
4月18日 金曜日
吸血鬼/浜辺の少女 6 (小説)
 鬼島がアロハ男に呼びかけた。参戦するように叫びかけられた。田村は動かない。
 鬼島はナイフを両手ですばやくさばく。交互にもちかえる。フェイントをかける。夏子がひく。さらに後にすさる。ナイフの動きを見極めようとしている。鬼島は切りつけるのがむずかしい。困難と悟る。夏子の動きは敏速だ。鬼島はナイフを夏子の胸になげようとしている。
「銀のナイフでもわたしは傷つけられないわよ」
 夏子のあまりの冷静さに、隼人は不安になる。
「夏子さん」
「夏子でいいわよ」
 斜陽の最後の光矢が彼女の顔を照らした。
 そして薄闇に反転した。攻撃する鬼島も、夏子もこの一瞬を逃さなかった。
 シュッとナイフが風を切る。夏子は巨大な蝙蝠翼に体をたくす。ナイフは空をなぐ。夏子は中空をとぶ。ばさっとはばたきすら聞こえてきた。夏子は水槽タンクの上にいた。
「そこから隼人見ていて。わたしの動きがみえるようになってね。わたしのことなら、心配ないのよ。わすれたの? わたしは死ねない女なのだから……」
 夏子の動きは煙っているようだ。見えない。吸血鬼ムーヴイング。凄まじい速度で移動する。小さな颶風のようだ。鬼島が夏子のまわしげりでふっとんだ。
「田村」
 アロハ男がしぶしぶ拳銃を夏子にむける。
「姫。無粋なモノでゆるしてください」
「無粋と承知ならやめたら」
 拳銃で威しながらナイフをひろいあげる。
 屋上に常夜灯がともった。
 アロハ男がナイフで夏子の首筋にななめに切りつける。
 夏子はとびのく。
 夏子の髪がたなびく。その先端の髪が切られた。
 夏子の苦鳴が隼人の胸にひびく。
 夏子を助けなければ。やうやく、隼人は動けるようになった。田村の手にあるナイフを隼人は足でけった。ナイフが中空にはねあがった。おちてきたナイフを受ける。田村の脇腹につきたてた。しかし、血はでない。緑の体液がかすかに滲んだ。
「レンフイルド。兄さんの従者たちも死なないのよ。ほうっておけばいい。すぐに再生するわ」
 ナイフを手にあえいでいる隼人のかけられたことばだ。
 ひとを刃物で刺して隼人は興奮していた。
 だが、かれらをひとといっていいのか。


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