18
葬儀車は雲龍時に向かっていた。
ぼくはすでに外の景色はみていなかった。
通夜のため昨夜は一睡もしていなかった。
美智子はどうしているだろう。お腹の大きい妻は焼き場にはこなかった。
寝たきりの母には付添う身内が必要だった。
すこしでも、妻が寝られればいいのだが。
これからまた忌明けの食事の準備がある。過労で倒れなければいいのだが。心配だった。
読経がはじまった。
このときになって、ぼくはきゅうに汗がふきだした。
汗は背広をぐっしょりとぬらしていた。
喪服もなく。
夏の背広もなく。
冬の背広をきているじぶんがなんとなくやるせなかった。
医療費の支払いさえなければ、裕福に暮らせるだけの収入はあった。
それがいまは借金まみれだ。
ぼくの背に親族の眼が集中していた。
太ももがひりひりする。
骨壺の底の形にズボンの布が焼けたように変色していた。
骨壺が熱かったのだ。
……夢中で膝の上で骨壺をかかえていた。
熱さに気づかなかった。
手の平も火傷をしてあかくただれるようにふくらんでいた。
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