田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

下痢18  麻屋与志夫

2019-11-14 09:48:02 | 純文学

18

 葬儀車は雲龍時に向かっていた。
 ぼくはすでに外の景色はみていなかった。
 
 通夜のため昨夜は一睡もしていなかった。
 美智子はどうしているだろう。お腹の大きい妻は焼き場にはこなかった。
 寝たきりの母には付添う身内が必要だった。
 すこしでも、妻が寝られればいいのだが。
 これからまた忌明けの食事の準備がある。過労で倒れなければいいのだが。心配だった。
 
 読経がはじまった。
 このときになって、ぼくはきゅうに汗がふきだした。
 汗は背広をぐっしょりとぬらしていた。
 喪服もなく。
 夏の背広もなく。
 冬の背広をきているじぶんがなんとなくやるせなかった。
 医療費の支払いさえなければ、裕福に暮らせるだけの収入はあった。
 それがいまは借金まみれだ。
 ぼくの背に親族の眼が集中していた。
 太ももがひりひりする。
 骨壺の底の形にズボンの布が焼けたように変色していた。
 骨壺が熱かったのだ。
 ……夢中で膝の上で骨壺をかかえていた。
 熱さに気づかなかった。
 手の平も火傷をしてあかくただれるようにふくらんでいた。



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