田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼の故郷  麻屋与志夫

2008-11-01 15:51:34 | Weblog
門前には長刀の林ができていた。
鬨の声をあげている。
ひさしく戦うことを忘れていた。
昂奮している。   
あるいは門倉を略取されていきり立っている。
抑止しなければ、女たちは勇み立ちこのまま霧に攻め込む。
「さわぐな。全員が疑似音声にまどわされている」
「疑似音声? それって……」
「いかようにもきける音だ。祥代にはどうだ? こころを静めてきいてみれば……」
「まやかしだわ。パパ、こんどはわたしにもただの足音にきける」
「いやちがう。門倉はここだ」
 霧の中から人狼の唸るようなたどたどしい声がした。
 門倉なんかいやしない。
 体をくいちぎられてはいない。
 人狼に咀嚼されてはいなかった。
 だが、生首がなげられた。
 真っ赤に血をふき、脳漿を飛び散らせて椿の胸元に飛び込んだ。
 無念の形相の門倉の顔。
 椿がとりすがった。
「あんたぁ」
 その叫びは苦悶。
  夫の生首をかかえて悲しみと怒りに痙攣する。
 体ががくがくふるえている。
 惨い、むごい、ムゴイ。

 ジャンバー男が霧の中から現れた。
 鉤爪から血がぼたぼたとしたたっている。
 にたにた人狼がわらっている。
 不気味に嘲笑。
「ボス、かかりませんでしたね」
 幻音でわたしたちを霧の中に誘いこみ、門倉のように首をはねる。
それからゆっくり体の肉をくいちぎり咀嚼する作戦だったのだ。
 灰色の体毛におおわれた巨大な人狼がそこにはいた。  
 いかにもボス狼だ。  
 ここにもきれいな歯並びをした一族がいる。
 完璧な歯並び……犬歯がにょきっと下唇まで伸びて……。
 大きな肢体をした精悍な感じだ。 
 まだ二足で起立している。

 あのまま霧の中へでれば、わたしたちも襲われていた。
被害は甚大だった。


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