田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

日輪学院の怪(2)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-09 16:50:53 | Weblog
2

ここはどこ?

美智子にはわからなかった。
前の部屋とは、微妙にちがう。
前の部屋よりは明るい。
一応、ソファもテーブルもある。
「シタッパはテレビも映画もみない。
あんたのことは知らなかった。
唄子と同じジャンキーとでもおもったのだろう」

なにもない、薄暗い部屋に監禁したことを詫びているのか?
日輪教の信徒となることを勧められた。
なによ突然?
なにをいわれているのか、わからない。

「日輪教の広告塔にならないか」

どういうことなの?
ここから早く出たい。
まえの部屋で――。
とっさの機転で、直人の詩のコピーの裏側にlipstickで『タスケテ』と書いた。
窓から何枚もほおった。
交番にとどけてください。
だれかひろって!!!
交番にとどけて。
神に祈った。

唄子から携帯に連絡を受けた。
「美智子。お金もっと貸して」
どこか遠くへ逃げる気なんだわ。
警察に出頭することをすすめよう。
それでも財布にお札をいれて……門をでた……。
説得して自首させる。
ところが屈強な男たちに車にひきずりこまれた。
クロロホルムをかがされた。
気づいた時は監禁されていた。
薄暗い部屋には窓はない。
イヤある。小さな窓がついている。
仄かな明かりがおちてきていた。

そこから助けを求める紙片を投げた。
こんどの部屋も――似ている。
最初に閉じ込められた部屋と……。

倉庫にでも使うはずの部屋にちがいない。
それとも拷問部屋。
そう思わせるような、冷やかな壁にかこまれていた。
恐怖で美智子は戦慄した。
寒さと空腹と恐ろしさがいりまじる。
美智子のふるえはとまらない。
部屋の隅になにかある。
部屋の角になにかある。
それに気づくまでにどれくらい時間が経過したか。
美智子にはわからない。
美智子はその壁際にわだかまるものににじり寄った。
毛布らしいぼろ布をかぶって――唄子がいた。
美智子は唄子を揺り起こした。

「唄子! 唄子‼ しかりして」
「ほかの部屋に移せ」

とさきほど、配下に指示した男が立っている。
いつの間に部屋にはいってきたのかしら。
巨体だ。
「ほかの部屋に移せ」
また同じ言葉を同じ口調でいう。
人間じゃないみたい。
眼が赤くひかっている。
酷薄な薄い唇からよく光る犬歯がのぞいている。
美智子は不気味なものを感じた。


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