14
小野崎からのものだった。
誠はなにか不吉な予感にあわただしく封を切った。
成尾誠様
ずっと前に成尾、きみが翔太君のことで悩んでいたときにぼくはなにもしてあげられなかった。
tellにもけんもほろほろの対応しかしなかった。
手紙までもらったのに返事も書かなかった。
ぼくは悪い友だちだ。
友だちの名にふさわしくない。
でもだいぶ、数年も遅れしまったが返事を書かせてくれ。
実は、香取から電話があってきみがあの夜、わざわざわが家の門前までかけつけたことを知った。
ありがとう。
ほんとうにありがとう。
慧もよろこんでいることだろう。
霊になってしまえばなんでも見えてくるだろうから……。
きみがきてくれたという、あの時ぼくは義父と言い争ってっていた。
知ってのとおり、彼は県の教育長をしていて、東大出の高級官僚だ。
来年の衆議院の選挙には党から立候補を打診されている。
大切に時期だ。
ぼくは妻と結婚するまえから彼を尊敬していた。
よく彼の家にでいりしていて彼女ともごくしぜんにひたしくなり結婚した。
このことはきみもしっているとおりだ。
妻を愛している。
慧のこともかけがえのないひとり息子だ、愛していないわけがない。
ぼくはいろいろなことを知っているし、わかっていると思って生きてきた。
ぼくは理系の人間だ。
成尾のように文系ではないので、こんなときどうしたらいいのか判断できなくなってしまう。
文学書や哲学や心理学の本などはよんでいない。
だからいまになってみると人間のことなどなにもわかっていない。
無知同然だとおもう。
ぼくの尊敬する義父は、慧ののこした遺書は公表するなとぼくに命令調でいった。
慧がどんなにクラスでイジメられていたか、それをけしかけているのが教師だったということが、ことこまかに書き記されていた。
いやむしろ、教師が率先して慧をいじめていたのだ。
体刑がともなっていた。
妻は父に反対して、ぼくのほうについてくれるとおもったのに……。
妻は父に反対して遺書を公開することに賛成してくれると期待していたのに。
父の命令に従順に従った。
慧の遺書には慧をおいつめたものの卑劣な手口のかずかずが列挙されていた。
箇条書きされていたそれらのことについては、いまは、ぼくは語るまい。
ぼくはいままでしっかりとふみしめていた地盤が、がらがらと崩れてしまった困惑に苦しめられている。
ぼくは慧の悩みは何も理解してやれないでいた。
それどころか、自殺するほどの苦しみを何も感知してやれなかった。
ぼくは父親として失格だ。
義父が慧の遺書を持ち帰るのにもさからえなかった。
ことを公にしたくない彼の気持ちは理解できる。
でも死んだのは慧だ。
彼にとっても初孫だ。
かわいくないわけがない。
それなのに、どんなことがあってもこの事件は公にして、県の教育界にたいする不信感を募らせることはできないと泣いていうのだ。
ぼくらはもうおわりかもしれない。
ぼくはいま離婚を考えている。
なんだか無様なことばかり書いてしまった。
ごめん。
悲しいよ。
じぶん自身がふがいなくて恥ずかしい。
小野崎 俊
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
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小野崎からのものだった。
誠はなにか不吉な予感にあわただしく封を切った。
成尾誠様
ずっと前に成尾、きみが翔太君のことで悩んでいたときにぼくはなにもしてあげられなかった。
tellにもけんもほろほろの対応しかしなかった。
手紙までもらったのに返事も書かなかった。
ぼくは悪い友だちだ。
友だちの名にふさわしくない。
でもだいぶ、数年も遅れしまったが返事を書かせてくれ。
実は、香取から電話があってきみがあの夜、わざわざわが家の門前までかけつけたことを知った。
ありがとう。
ほんとうにありがとう。
慧もよろこんでいることだろう。
霊になってしまえばなんでも見えてくるだろうから……。
きみがきてくれたという、あの時ぼくは義父と言い争ってっていた。
知ってのとおり、彼は県の教育長をしていて、東大出の高級官僚だ。
来年の衆議院の選挙には党から立候補を打診されている。
大切に時期だ。
ぼくは妻と結婚するまえから彼を尊敬していた。
よく彼の家にでいりしていて彼女ともごくしぜんにひたしくなり結婚した。
このことはきみもしっているとおりだ。
妻を愛している。
慧のこともかけがえのないひとり息子だ、愛していないわけがない。
ぼくはいろいろなことを知っているし、わかっていると思って生きてきた。
ぼくは理系の人間だ。
成尾のように文系ではないので、こんなときどうしたらいいのか判断できなくなってしまう。
文学書や哲学や心理学の本などはよんでいない。
だからいまになってみると人間のことなどなにもわかっていない。
無知同然だとおもう。
ぼくの尊敬する義父は、慧ののこした遺書は公表するなとぼくに命令調でいった。
慧がどんなにクラスでイジメられていたか、それをけしかけているのが教師だったということが、ことこまかに書き記されていた。
いやむしろ、教師が率先して慧をいじめていたのだ。
体刑がともなっていた。
妻は父に反対して、ぼくのほうについてくれるとおもったのに……。
妻は父に反対して遺書を公開することに賛成してくれると期待していたのに。
父の命令に従順に従った。
慧の遺書には慧をおいつめたものの卑劣な手口のかずかずが列挙されていた。
箇条書きされていたそれらのことについては、いまは、ぼくは語るまい。
ぼくはいままでしっかりとふみしめていた地盤が、がらがらと崩れてしまった困惑に苦しめられている。
ぼくは慧の悩みは何も理解してやれないでいた。
それどころか、自殺するほどの苦しみを何も感知してやれなかった。
ぼくは父親として失格だ。
義父が慧の遺書を持ち帰るのにもさからえなかった。
ことを公にしたくない彼の気持ちは理解できる。
でも死んだのは慧だ。
彼にとっても初孫だ。
かわいくないわけがない。
それなのに、どんなことがあってもこの事件は公にして、県の教育界にたいする不信感を募らせることはできないと泣いていうのだ。
ぼくらはもうおわりかもしれない。
ぼくはいま離婚を考えている。
なんだか無様なことばかり書いてしまった。
ごめん。
悲しいよ。
じぶん自身がふがいなくて恥ずかしい。
小野崎 俊
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