3
「美智子。ごめんね。
わたしたちこの3年間――。
クスリをはじめてからアイツラに監視されていたのよ。
なにかこころあたりない」
「ウチにも、盗聴マイクが……」
いおうとしたが美智子はためらった。
この部屋だってヤッラのアジトだ。
わたしたちは、いまも監視されている。
盗聴されているかもしれないのだ。
滅多なことは、いえない。できない。
そっと相手のでかたをまつだけだ。
「美智子はエライは……。わたしはあれからずっと……よ」
唄子が泣きだした。
美智子は寂しさに耐えきれず、クスリをやったことがあった。
唄子にすすめられた。
たまたま滞在していた鹿沼のジイチャンが。
いちはやく知って母にも内緒で忠告してくれた。
麻薬の怖さをおしえてくれた。
ジイチャンの訓戒をきかずに、なんどもやっていたら、
わたしも唄子のように依存症になっていたかもしれない。
いや、確実になっていた。
ひとは麻薬の誘惑にはよわい。
それを身をもって知っている。
「おまえの好きなクスリをたっぷりやったのによ。
アレ飲んでおねんねしてれば、痛い目にあわずにいられのによ」
黒服の男が入ってきた。
唄子に話しかけている。
「パクられれば、女はすぐ仕入先をゲロルからな」
ちがう。
唄子を拉致しておく。
すでに逮捕されている唄子の夫、
服飾デザイナーの大津健一を脅しているのだ。
余計なことをシャベれば、唄子がひどい目にあう。
暗に脅迫しているのだ。
男が唄子を非情な目でみている。
薬物に汚染される。
薬物に手をだす。
薬物を摂取する。
そんなことをすれば、身も心もぼろぼろになる。
一瞬の快楽のためにじぶんの運命さえかえてしまうことになる。
怖いことだ。
薬物そのものを手にいれるということは、
売人の背後にいるソシキにつながってしまう。
目をつけられてしまう。
非合法的な影のソシキに知られてしまうほうが、
さらに怖いことなのだ。
あのとき、美智子におしえてくれたのは翔太郎おじいちゃんだった。
いまその言葉が現実となってしいる。
美智子が男に体当たりをした。
狙いが外れた。
男は唄子の顔を殴ろうとした。
顔は女優の命だ。
唄子の顔を殴らせるわけにはいかない。
必死で男に美智子は体をぶちっけた。
男の拳は唄子の肩をヒットした。
デビューしたときから……ずっと仲良しだった唄子だ。
いろいろせわになったセンパイだ。
「唄子をなぐるなら、わたしをなぐって」
「ジャマするな」
男がほえた。
「わたしたちにとって、
顔を傷つけられるのは、
命にかかわることなの。
わかっているの。やめて。おねがい」
美智子が唄子を抱き起した。
唄子は殴られたショックでふるえている。
呻いている。
「死なないで。唄子」
「バカ。殴られたくらいで――死ぬか。
ヤクがきれかけているんだ」
「ゴメンね。美智子。
まきこんじまって。ごめん。美智子だけでも逃げて」
美智子を見上げる唄子の目に涙が光っていた。
頬をつたって涙がながれた。
唄子を放っておいて、自分だけ逃げることは出来ない。
だいいち、どうやって逃げればいいの。
あの紙だれか拾ってくれたかしら……。
唄子の動悸が速まっている。
男の言うように禁断症状かもしれない。
心拍がさらに速まっている。
胸の鼓動が高まり、眼が裏返ってきた。
絶えず、唄子の体と心をむしばんできたものの正体。
これだつた。
ときおり、唄子が見せたエキセントリックな言動。
あれはクスリの切れてきたための行動だった。
なんとしても、唄子を助けだしたい。
そしてね唄子には立ち直ってもらいたい。
そのためなら、どんなことでもする。
してあげたい。
「唄子!! 唄子」
唄子を麻薬の脅威から、汚染からひきもどさなければ――。
「おまえら、ウザイんだよ」
男が近寄ってくる。
目が狂気をおび、ギラギラ赤く光っている。
タスケテ。直人。
助けて。直人。
たすけて。直人。
男の牙が伸びる。
白く光っている。
鋭く尖っている。
じっと美智子の首筋を見ている。
凝視している。
吸いたいのだ。
わたしの血を吸う気だ。
恐怖。
強烈な恐怖。
こんどは美智子の胸が張り裂けそうな鼓動の高鳴り。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
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「美智子。ごめんね。
わたしたちこの3年間――。
クスリをはじめてからアイツラに監視されていたのよ。
なにかこころあたりない」
「ウチにも、盗聴マイクが……」
いおうとしたが美智子はためらった。
この部屋だってヤッラのアジトだ。
わたしたちは、いまも監視されている。
盗聴されているかもしれないのだ。
滅多なことは、いえない。できない。
そっと相手のでかたをまつだけだ。
「美智子はエライは……。わたしはあれからずっと……よ」
唄子が泣きだした。
美智子は寂しさに耐えきれず、クスリをやったことがあった。
唄子にすすめられた。
たまたま滞在していた鹿沼のジイチャンが。
いちはやく知って母にも内緒で忠告してくれた。
麻薬の怖さをおしえてくれた。
ジイチャンの訓戒をきかずに、なんどもやっていたら、
わたしも唄子のように依存症になっていたかもしれない。
いや、確実になっていた。
ひとは麻薬の誘惑にはよわい。
それを身をもって知っている。
「おまえの好きなクスリをたっぷりやったのによ。
アレ飲んでおねんねしてれば、痛い目にあわずにいられのによ」
黒服の男が入ってきた。
唄子に話しかけている。
「パクられれば、女はすぐ仕入先をゲロルからな」
ちがう。
唄子を拉致しておく。
すでに逮捕されている唄子の夫、
服飾デザイナーの大津健一を脅しているのだ。
余計なことをシャベれば、唄子がひどい目にあう。
暗に脅迫しているのだ。
男が唄子を非情な目でみている。
薬物に汚染される。
薬物に手をだす。
薬物を摂取する。
そんなことをすれば、身も心もぼろぼろになる。
一瞬の快楽のためにじぶんの運命さえかえてしまうことになる。
怖いことだ。
薬物そのものを手にいれるということは、
売人の背後にいるソシキにつながってしまう。
目をつけられてしまう。
非合法的な影のソシキに知られてしまうほうが、
さらに怖いことなのだ。
あのとき、美智子におしえてくれたのは翔太郎おじいちゃんだった。
いまその言葉が現実となってしいる。
美智子が男に体当たりをした。
狙いが外れた。
男は唄子の顔を殴ろうとした。
顔は女優の命だ。
唄子の顔を殴らせるわけにはいかない。
必死で男に美智子は体をぶちっけた。
男の拳は唄子の肩をヒットした。
デビューしたときから……ずっと仲良しだった唄子だ。
いろいろせわになったセンパイだ。
「唄子をなぐるなら、わたしをなぐって」
「ジャマするな」
男がほえた。
「わたしたちにとって、
顔を傷つけられるのは、
命にかかわることなの。
わかっているの。やめて。おねがい」
美智子が唄子を抱き起した。
唄子は殴られたショックでふるえている。
呻いている。
「死なないで。唄子」
「バカ。殴られたくらいで――死ぬか。
ヤクがきれかけているんだ」
「ゴメンね。美智子。
まきこんじまって。ごめん。美智子だけでも逃げて」
美智子を見上げる唄子の目に涙が光っていた。
頬をつたって涙がながれた。
唄子を放っておいて、自分だけ逃げることは出来ない。
だいいち、どうやって逃げればいいの。
あの紙だれか拾ってくれたかしら……。
唄子の動悸が速まっている。
男の言うように禁断症状かもしれない。
心拍がさらに速まっている。
胸の鼓動が高まり、眼が裏返ってきた。
絶えず、唄子の体と心をむしばんできたものの正体。
これだつた。
ときおり、唄子が見せたエキセントリックな言動。
あれはクスリの切れてきたための行動だった。
なんとしても、唄子を助けだしたい。
そしてね唄子には立ち直ってもらいたい。
そのためなら、どんなことでもする。
してあげたい。
「唄子!! 唄子」
唄子を麻薬の脅威から、汚染からひきもどさなければ――。
「おまえら、ウザイんだよ」
男が近寄ってくる。
目が狂気をおび、ギラギラ赤く光っている。
タスケテ。直人。
助けて。直人。
たすけて。直人。
男の牙が伸びる。
白く光っている。
鋭く尖っている。
じっと美智子の首筋を見ている。
凝視している。
吸いたいのだ。
わたしの血を吸う気だ。
恐怖。
強烈な恐怖。
こんどは美智子の胸が張り裂けそうな鼓動の高鳴り。
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