田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-04-26 09:00:30 | Weblog
4月26日 土曜日
吸血鬼/浜辺の少女 16 (小説)
雨野が剣を風車のようにふりまわし鬼島と戦っている。
「爺、ムリしないで」
夏子と隼人は囲まれていた。じりじりと吸血鬼が迫ってくる。
「なぜ、おそうの。兄妹で争うことはない。わたしの家からでていって」
夏子の悲しみが隼人のこころにしみこんでくる。夏子は兄と戦いたくない。夜の一族から追放され、一世紀にわたってヨーロッパを放浪してきた妹のふいの帰還。掟により追放された妹を表向きは歓迎できないとしても、襲撃することはない。兄が指揮して故郷についたばかりの夏子をおそっている。夏子は悲しんでいた。
「わたしの庭からでていって。あなたたちがいるとバラが枯れるわ」
 吸血鬼はむかし神の庭園の庭師だった。あるとき、バラの棘に刺された。ふきでた血をうっとりとすすっていたのを神にみとがめられて天国からおとされた。そんな伝承がある。夏子はバラを愛するが、ほかの吸血鬼はバラを忌みきらっている。バラさえなければいまも天国にいられたのに。天国の美しい庭の園丁で優雅なくらしがしていられたのに。と、バラの花をにくんでいる。
「争うことはないのよ。わたしはバラの世話でもして静かにここでくらしたいだけなの」
「嘘だな。なぜ帰ってきた」
 さきほどと、おなじ返事をして鹿人がさらに間合いをつめてくる。鉤爪が光っている。
 夏子の髪がのびる。10万本あるという女の髪が鹿人たちにからみつく。
「かえって。ここからでていきなさい」
 釈由美子のようだ。夏子が人差し指を真っすぐ鹿人にむけ「おゆきなさい」と叱咤する。
鹿人はさらに間合いをつめる。どうしても夏子をおそう気だ。爪がぶきみにさらにのびる。ナイフのような凶器となっている。
「うわあ。これはなんだ」
 まさに夏子をおそうためにさいごの間合いをつめた鹿人とその従者がおどろきの声をあげた。
「力がぬけていく」
「ラミア。なにをした」
 髪の触手が鹿人をとらえている。鹿人の顔が夏子の髪に埋もれている。黒髪がバチッと放電した。青白い光がとびちった。青白い光は髪の先に走る。そこに髪にとらえられたものたちの顔がある。日がかげり、あたりは薄闇になっていた。夏子の庭を闇にしたのは鹿人の能力だろう。薄墨色の闇の中でスパークは美しく光った。
 夏子には芸術的感動が蓄えられている。それが夏子の生きるエネルギーになっている。それは人の心を浄化する。芸術を志す若者に精気をあたえる。美の精華をつたえる。
 だが相手は吸血鬼だ。人外魔境のもの。人にして人ではない。不死のものたちなのだ。
「どうかしら」
 人を至福の芸術のよろこびに誘うエネルギーは、吸血鬼には死の苦痛をあたえる。人の苦しみを糧として生きる、血を吸って生きるものたちが、顔をゆがめて叫び声をあげている。
「どうかしら。みなさんわたしのバラ園からでていつてくださる」
「やめろ! やめるんだ。話し合おう。ラミア」


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