田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-04-26 15:20:38 | Weblog
4月26日 土曜日
吸血鬼/浜辺の少女 17 (小説)
鹿人が夏子の髪に引かれてよろける。それはみせかけだった。よろけるふりをしながら、背後のものにサインをだした。
「ひきょうょ。なにする気」
 夏子がすばやく気づいたが……。
「ひきょうは覚悟のうえだ」
 鹿人の顔が冷酷な笑みをたたえる。勝ち誇ったように哄笑する。
 ……雨野がとらえられた。剣をうばわれた。高野に白刃を喉元にあてられている。高野はおぞましい顔で不敵に笑っている。暴走族の頭。いまは吸血鬼の従者。レンフイルド。RF。疑似吸血鬼。
「レンフイルドの雨野京十郎でも首をはねられればあとかたもなく土にもどる。ふたたびこの世にあらわれることはない。どうするラミア。この髪を解いてもらおうか」  
「雨野を楯にとるなんて。どこまでひきょうなの」
 隼人……頼むわ、すきをみて、雨野をたすけてあげて。夏子の声なき声が隼人の心にひびく。隼人は動いた。それを田村がはばむ。田村の胸の傷はあとかたもなく消えでいる。いまは上半身むきだしだ。
「逃がさんぞ。まだ決着はついていない」
 鱗状の上半身もあらわに迫ってくる。
 隼人は焦る。
 木刀で胴に切りこむ。ばんと横に払った木刀がはねかえる。さきほどからおなじことのくりかえしだ。いくら打ちこんでも、突いてもまったく効果がない。
 ガチっとこんどはナイフで受けられる。
「兄さん。雨野をはなしてあげなさい」
「いやだね。そちらが髪を退くのがさきだ」
「ひきょうよ」
 夏子の髪が吸血鬼の戒めを解く。髪の拘束から解放された吸血鬼の集団がさあっと撤退する。雨野は高野につかまったままだ。
「ひきょうだわ。だましたのね」
「なんとでもほざけ。雨野はあずかった」
 よろけながら鹿人が逃げる。隼人が追いすがる。
 鹿人の姿が門の外に消えていく。霧のように消えていく。
「夏子、追いかけよう」
「よして。」
「さっきは、たすけてあげてと……」
「もう、まにあわない。追いつけないわ。でも、行き先はわかっているのよ」
夏子は鹿人の消えた方角をくやしそうににらんでいる。
遠くでバイクのおとがひびいた。
夏子がよろめく。
立っているのがつらそうだ。乱れた髪が肩にかかってかすかにゆらいでいる。息もたえだえだ。細くひきつるような呼吸をしている。それでも、ことばをつむぐ。
「わたしはくやしくて泣いてるのではないのよ。夜の一族なのに、血を吸えないのはわたしの罪なの。ただ血を吸えないということだけで、どうしてこんなにいじめられるの。ねえ、こたえて隼人」
「夏子。いまはなにも考えないほうがいい。心がみだれているときは、なにを考えても悲観してしまう。悲しくなる」
 夏子の髪が光沢を失う。色褪せる。
「あまりみつめないで。わたしが、おばあちゃんだってわかってしまう。消耗がはげしすぎたのよ。夜の一族と戦うと、こういうことが起きるの。……同族間の闘争をいましめるスリコミかしら」
「夏子。おねがいだ。ぼくの血を吸ってくれ。それで元気になるならぼくの血を吸ってくれ。夏子、すきだ。愛している。ぼくの血を吸って元気になってくれ」


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