7
なにかかすかな音がする。
猫が壁をひっかくような音だ。
カリカリカリ。あたりを見回す。
猫の子一匹みあたらない。
なにもいない。
だれもいない。
かすかな音。
つづいている。
かすかな音。
呼びかけられているような、絶え入るような女の声。
翔子……翔子……翔子。
翔子ははっとした。
畳の下だ。
床下だ。
翔子は純たちを呼び寄せる。
「畳あげて。床下から声がするの」
「ぼくにはきこえない」
「いや、している。忍者の含み声みたい。仲間にだけ聞こえるように、忍者は周りにひとがいると、はっきりとは発音しないのよ」
と百子。
「猿ぐつわてもかまされているのよ」
と翔子。
庭の植木バチのわきからシャベルを探してきた。
純は床下の土を掘りだした。まだ最近掘られた跡がある。
土が柔らか過ぎる。
「なにが埋まってるの」
と翔子。
「音はこの下からよ」
と百子。
翔子……翔子……翔子。かすかな声がまたきこえてきた。
カリカリとなにかこするような音もする。
見えた。
棺が現われた。蓋を開ける。
そこに翔子たちがみたものは、紅子だった。鎖で手足をシバラレテいた。
「翔子ならきてくれる。翔子にならきこえる。そう信じていた」
疲れ果て、やせ細った紅子が翔子に抱きついた。
泣いていた。
まったくの偶然だった。
だれひとり頼ることのできない。
翔子しか知り合いはいない。
紅子だった。
信頼してわたしの救助をまっていた。
ここにきたのは、まったくの偶然だったと言えなくなった。
「それより……きょうは幾日か」
「11月の13日よ」
「タイヘンダよ。わたし二日も埋められていた」
紅子の話は意外だった。
日名子が狙われている。
日名子に紅子が声をかけた。
日名子は思い悩んで街をふらついていた。
そのすぐあどで、家まで連れてきた日名子がアラブ人らしいグループに拉致さた。
日名子の父である小山田副総理をおどしている。
なにかしょうとしとているグループがある。
日名子を誘拐してでも、副総理に従わせる……とはなにか。
日名子はじぶんがいたのでは、父が動けなくなると知った。
父の電話を立ち聞きした。
その結果の家でだった。
だから公安の推測もまつたく見当はずれではなかったのだ。
「バラ展に爆弾を仕掛けたれんちゅうかしら」
「翔子。ビンゴだ。あのころから小山田副総理は狙われていた」
「純。パパに連絡してみょうよ。あの時とちがい、こんどはパパがいる」
「テロだな。その情報はまだこちらにあがってきていない。携帯で顔写真をおくる。紅子さんに、確認してもらってくれ」
翔子の携帯にアラブ人の顔がながれだした。
「あっ、この男ダヨ」
「よしこの件は、この男はこっちに任せてくれ。翔子は日名子さんの聴きこみに集中してくれ」
クノイチガールズ48が全員街に散った。
紅子は埼玉のほうに出稼ぎにでているルー芝原と、柴山にメールをうっている。
翔子と純も在京ルーマニヤ人協会をあとにした。
むろん紅子もいっしょだ。
人にとって一番怖いのは、未知モノに襲われることだ。
いつ襲われるかわからなければ、恐怖はさらに増幅する。
そんな恐怖に日名子はさらされていたのだ。
「わたしラーメンだべたい」
新大久保駅前の繁華街。
「翔子ここで止めて」
純を車に残してふたりは降りる。
「紅子、なにか思いだしたんでしょう」
「翔子にはわかるのね。ヤッパわたしたち友だちだシ」
なるほど「中華屋」というそのお店には、ざったな種族があっまっていた。
「あら紅子さんシバラクね」
顔見知りの女性が声をかけてきた。
それからさきはルーマニヤ語らしい言葉で話しだした。
「翔子、このガールに中華丼おごってあげて」
「まかしといて。十パイぶんどうぞ」
翔子は気前よく樋口一葉をその娘にわたす。
「ありがとう、翔子。わたしたち生活きびしい。助かるよ」
娘が話しだした。
「翔子、さっきの顔写真また出るか」
翔子は百子に携帯を入れた。
純が車を発車させた。
紅子は丼りごと持ちだしてきたラーメンをまだ食べている。
「ウチのご近所さんね」
ルーマニヤ協会、紅子の家から200メートルほど新宿寄りだった。
銃声がした。SMGのようなダダダという連続音だった。
翔子ははじめて戦う父をみた。
翔子ははじめて火器のすごさを見た。
翔子は雨戸、柱、など日本家屋がみるまに粉砕されるのを見た。
そしてひとがノタウチナガラ死ぬのを――。
アラブ人だった。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
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なにかかすかな音がする。
猫が壁をひっかくような音だ。
カリカリカリ。あたりを見回す。
猫の子一匹みあたらない。
なにもいない。
だれもいない。
かすかな音。
つづいている。
かすかな音。
呼びかけられているような、絶え入るような女の声。
翔子……翔子……翔子。
翔子ははっとした。
畳の下だ。
床下だ。
翔子は純たちを呼び寄せる。
「畳あげて。床下から声がするの」
「ぼくにはきこえない」
「いや、している。忍者の含み声みたい。仲間にだけ聞こえるように、忍者は周りにひとがいると、はっきりとは発音しないのよ」
と百子。
「猿ぐつわてもかまされているのよ」
と翔子。
庭の植木バチのわきからシャベルを探してきた。
純は床下の土を掘りだした。まだ最近掘られた跡がある。
土が柔らか過ぎる。
「なにが埋まってるの」
と翔子。
「音はこの下からよ」
と百子。
翔子……翔子……翔子。かすかな声がまたきこえてきた。
カリカリとなにかこするような音もする。
見えた。
棺が現われた。蓋を開ける。
そこに翔子たちがみたものは、紅子だった。鎖で手足をシバラレテいた。
「翔子ならきてくれる。翔子にならきこえる。そう信じていた」
疲れ果て、やせ細った紅子が翔子に抱きついた。
泣いていた。
まったくの偶然だった。
だれひとり頼ることのできない。
翔子しか知り合いはいない。
紅子だった。
信頼してわたしの救助をまっていた。
ここにきたのは、まったくの偶然だったと言えなくなった。
「それより……きょうは幾日か」
「11月の13日よ」
「タイヘンダよ。わたし二日も埋められていた」
紅子の話は意外だった。
日名子が狙われている。
日名子に紅子が声をかけた。
日名子は思い悩んで街をふらついていた。
そのすぐあどで、家まで連れてきた日名子がアラブ人らしいグループに拉致さた。
日名子の父である小山田副総理をおどしている。
なにかしょうとしとているグループがある。
日名子を誘拐してでも、副総理に従わせる……とはなにか。
日名子はじぶんがいたのでは、父が動けなくなると知った。
父の電話を立ち聞きした。
その結果の家でだった。
だから公安の推測もまつたく見当はずれではなかったのだ。
「バラ展に爆弾を仕掛けたれんちゅうかしら」
「翔子。ビンゴだ。あのころから小山田副総理は狙われていた」
「純。パパに連絡してみょうよ。あの時とちがい、こんどはパパがいる」
「テロだな。その情報はまだこちらにあがってきていない。携帯で顔写真をおくる。紅子さんに、確認してもらってくれ」
翔子の携帯にアラブ人の顔がながれだした。
「あっ、この男ダヨ」
「よしこの件は、この男はこっちに任せてくれ。翔子は日名子さんの聴きこみに集中してくれ」
クノイチガールズ48が全員街に散った。
紅子は埼玉のほうに出稼ぎにでているルー芝原と、柴山にメールをうっている。
翔子と純も在京ルーマニヤ人協会をあとにした。
むろん紅子もいっしょだ。
人にとって一番怖いのは、未知モノに襲われることだ。
いつ襲われるかわからなければ、恐怖はさらに増幅する。
そんな恐怖に日名子はさらされていたのだ。
「わたしラーメンだべたい」
新大久保駅前の繁華街。
「翔子ここで止めて」
純を車に残してふたりは降りる。
「紅子、なにか思いだしたんでしょう」
「翔子にはわかるのね。ヤッパわたしたち友だちだシ」
なるほど「中華屋」というそのお店には、ざったな種族があっまっていた。
「あら紅子さんシバラクね」
顔見知りの女性が声をかけてきた。
それからさきはルーマニヤ語らしい言葉で話しだした。
「翔子、このガールに中華丼おごってあげて」
「まかしといて。十パイぶんどうぞ」
翔子は気前よく樋口一葉をその娘にわたす。
「ありがとう、翔子。わたしたち生活きびしい。助かるよ」
娘が話しだした。
「翔子、さっきの顔写真また出るか」
翔子は百子に携帯を入れた。
純が車を発車させた。
紅子は丼りごと持ちだしてきたラーメンをまだ食べている。
「ウチのご近所さんね」
ルーマニヤ協会、紅子の家から200メートルほど新宿寄りだった。
銃声がした。SMGのようなダダダという連続音だった。
翔子ははじめて戦う父をみた。
翔子ははじめて火器のすごさを見た。
翔子は雨戸、柱、など日本家屋がみるまに粉砕されるのを見た。
そしてひとがノタウチナガラ死ぬのを――。
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