城があったころから。
存在したという。
伝説の井戸。
あの頃でさえ。
青く苔むしていた井戸。
だが水のうまさは……。
いまでも覚えている。
この窪地。
光のささない影の部分の。
この地のもつ違和感。
はっきりとこの肌が覚えている。
そして、昔はあまり見えていなかったものが。
見えてきた。
石の囲いがわずかに残っているにすぎない。
麻屋は三津夫&番場とその縁に立った。
苔むした石に掌をあてた。
呪文をとなえる。
石がゆっくりと盛り上がってきた。
青い鱗状の苔むした。
石の蓋がうごいた。
石の表を擬装ししていた。
苔が枯れていく。
迷彩が消えると……。
「先生。これは……」
おどろいてあげる声を。
番場は三津夫に押さえられた。
「これはなんなんですか」
こんどは低く囁やく。
異様なあたりのし雰囲気を感じたのだ。
三津夫は黙って辺りに気をくばっている。
「抜け穴があるらしい。
ゆうべ徹夜で鹿沼の古文書を調べた。
街の中で。
人知れず悪霊召喚の儀式ができるのは。
こうした地下の空間だけだ。
防空壕あとは。
五箇所も昼のうちに調査ずみた」
「残るはここだけってわけスか」
しかし、さきほど。
「先生。これは……」
と番場が絶叫したのは。
そういう回答をもとめたわけではなかった。
みなれた塾の先生。
何の変哲もないアサヤのオッチャンが。
ほかのものに変わっていた。
呪文をとなえる塾の先生。
麻屋がふいに溶解した。
破れた墨染めの衣を着た乞食坊主がいた。
それが見えた。
番場にも見えたのだ。
なんで、麻屋のオッチャンが坊主に見えるんだよ。
おれはどうかしてしまったのかよ。
と三津夫のほうもびびっていた。
そんなことはない。
どうかしたわけではない。
三津夫も番場も、心配するな。
ふたりとも、とくに三津夫は。
二荒の血を強くひいていたのだ。
おれの姿が乞食坊主にみえるなら。
三津夫は、おれの側の人間だ。
番場もどこかで、わたしたち麻績部(お み べ )の系譜につながってる。
注。麻績部については半村良『闇の中の系図』角川文庫151ー155ページを参照。
だから、異様な雰囲気は感じる。
先生が呪文を唱えていた。
応援のクリックありがとうございます
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存在したという。
伝説の井戸。
あの頃でさえ。
青く苔むしていた井戸。
だが水のうまさは……。
いまでも覚えている。
この窪地。
光のささない影の部分の。
この地のもつ違和感。
はっきりとこの肌が覚えている。
そして、昔はあまり見えていなかったものが。
見えてきた。
石の囲いがわずかに残っているにすぎない。
麻屋は三津夫&番場とその縁に立った。
苔むした石に掌をあてた。
呪文をとなえる。
石がゆっくりと盛り上がってきた。
青い鱗状の苔むした。
石の蓋がうごいた。
石の表を擬装ししていた。
苔が枯れていく。
迷彩が消えると……。
「先生。これは……」
おどろいてあげる声を。
番場は三津夫に押さえられた。
「これはなんなんですか」
こんどは低く囁やく。
異様なあたりのし雰囲気を感じたのだ。
三津夫は黙って辺りに気をくばっている。
「抜け穴があるらしい。
ゆうべ徹夜で鹿沼の古文書を調べた。
街の中で。
人知れず悪霊召喚の儀式ができるのは。
こうした地下の空間だけだ。
防空壕あとは。
五箇所も昼のうちに調査ずみた」
「残るはここだけってわけスか」
しかし、さきほど。
「先生。これは……」
と番場が絶叫したのは。
そういう回答をもとめたわけではなかった。
みなれた塾の先生。
何の変哲もないアサヤのオッチャンが。
ほかのものに変わっていた。
呪文をとなえる塾の先生。
麻屋がふいに溶解した。
破れた墨染めの衣を着た乞食坊主がいた。
それが見えた。
番場にも見えたのだ。
なんで、麻屋のオッチャンが坊主に見えるんだよ。
おれはどうかしてしまったのかよ。
と三津夫のほうもびびっていた。
そんなことはない。
どうかしたわけではない。
三津夫も番場も、心配するな。
ふたりとも、とくに三津夫は。
二荒の血を強くひいていたのだ。
おれの姿が乞食坊主にみえるなら。
三津夫は、おれの側の人間だ。
番場もどこかで、わたしたち麻績部(お み べ )の系譜につながってる。
注。麻績部については半村良『闇の中の系図』角川文庫151ー155ページを参照。
だから、異様な雰囲気は感じる。
先生が呪文を唱えていた。
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