その日の深夜もネットオークションを見ていた。
具体的に欲しいものがあるわけでもないのに、何となく安いものがないか見てしまう。
たいがい手に入れるものは不要なものが多く、結局は無駄遣いとなる。
でも、買い物が楽しくて仕方がない。
手が止まる。
「何でも叶う夢のチケット」
キターーーーーー
現在の金額は6000万円。
これは間違いなく出品を取り消される。
以前にもタイムマシンが売りに出たり、UFOが出品されたこともあった。
いずれも法外な価格がついたあと、サイトから消された。
今回もどうせ消される。
祭りには参加する主義。
「1億円で買いますっと・・・」
どうせ偽のアカウントと偽のアドレスだ。
まあ大丈夫だろう。
3日後。
1億円で見事に落札してしまった。
背筋に寒気が走ったが、どうすることも出来ない。
無視することに決めた。
幸い、発送確認のメールは届かなかった。
まあ、結局、ハッタリだったというわけか。
そう理解した。
1年後・・・
メールが届いた。
「お買い上げありがとうございました。
遅くなりましたが「何でも叶うチケット」をお届けに参上いたします。
代金引換でお願いいたします」
そこには1億円と消費税が書かれていた。
2日後
ピンポーン
インターホンが鳴る
「チケットお届けに参上いたしました」
(げっ、来た)
居留守を決め込むが、帰らない。
仕方なくドアを開ける。
そこにいたのは全身、黒色で統一された男。
筋肉質。
しかし黒色のハンチングの奥からのぞく目は穏やかな輝きだった。
(この人なら話せば分かってくれるかもしれない)
そんな淡い期待も感じた。
「こちらがチケットになります。
代金は1億円と消費税になります」
「あのー、そのー、これウソでしょう」
「ウソではありません」
「1億円なんてお金は持っていません」
「そうおっしゃると思っていました。
では、こうしましょう。
この書類にサイン願いますか。
このチケットは何でも叶うチケットです。
どうですか、1億円さしあげましょう。
その1億円で支払ってもらえますか」
なんだ・・・
何を言っているのか分からない。
しかし、偽のアカウントでやりとりしている負い目がある。
それにもまして、調べあげられてここに来られてしまっている。
言う通りに従うほかない。
「はい。」
「そうですか。ではこちらにサイン願います」
ボードに固定された書類と高そうな万年筆を手渡される。
小さい文字がたくさん書かれていて内容はまったく分からない。
手がふるえる。
名を書く。
書き終わるやいなや、男はドアを後ろ手に閉め、室内に入ってきた。
素早い動き。
えっえっ・・・
男の手にはスプレーが握られている。
噴霧。
意識が遠のく。
そして二度と目は覚めなかった。
「ここの学生さん自殺したんだってねえ」
「そうらしいわよ」
「保険屋がこの周囲を聞き込みしていて私のところにもきたのよ。
なんでも1年前に1億円の生命保険に入ったらしいの。
もともと親とも早くに死別して身よりらしい身よりがいないらしいの。
それなのに他人が1億円受け取ったんだって。
書類もそろっていたんだって・・・」
「へえ・・・悲しい話だけど、1億円もらった人には夢みたいな話だねえ」