一人とぼとぼ学校から帰っていた。
風が冷たい。
マフラーをぐいと口元まで上げた。
あと7ヶ月で大学受験。
睡眠時間を削って机に向かっているが実際の所はラジオを聞いたり、CDを聴いたりだらだらと過ごしてしまう。
これではいけないと今日は図書館で勉強していたわけだ。
カップルで勉強している同級生を横目で羨ましく思いながら、遅々として手元の課題は終わらなかった。
こんなんで合格するのだろうか・・・
もう現実から逃げたい。
そう思っていた。
「そこの少年」
声をかけられた。
「え・・・」
ずいぶん頭上から声がする。
黒い足一対と素肌の足一対が宙に浮いている。
見上げると伝統的、トラディショナルスタイルの天使と悪魔が浮かんでいた。
「うわああ」
「おっ、少年。俺たちが見えるのか。
普通は俺たちの声が聞こえても姿が見えないから自分の思考の声として話をすすめるんだが、見えるんなら仕方ない」
「何が仕方ないんですか?」
「話、聞く気ある?」
悪魔が聞いた。
「いえ、ありません」
「それで済むわけがない」
悪魔の顔がほの青く光った。
どうやら、いらっとしたらしい。
ここは話題を変えなければ・・・
「どうして天使といっしょにいるんですか」
虚を突かれた悪魔はしばしの沈黙の後、にやりと笑った。
「俺たちつき合ってるの。
禁断の愛っていうわけ。
もちろん上司に見つかったらただではすまないの。
だから下界で会っている」
「そうなの」
天使が相づちをうった。
二人は見つめあい、手をつないだ。
「おっと、話が横道にそれちまったな。
実はこう見えて俺、サラリーマンなの。
雇われているの。
ノルマがあるの」
悪魔が言った。
「ノルマって?」
「悪魔のノルマといったら、わかんないかなあ。
地獄につれていく魂の数。
お宅、今、現実逃避の手段を考えてたよね」
図星だった。
どうやって死ねば楽かを具体的に考えていた。
「だから俺が現れたわけ。
お宅結構、本気で考えてたよ。
まあ、俺が来た時点で棺桶に片足以上つっこんでるけどね」
そういうと悪魔の顔はオレンジ色に光った。
どうやら楽しいらしい。
「ぼく死にません」
あわてて悪魔に言った。
「おっと、さっきもいったろ。
俺だってノルマがあるのさ。
もう面倒くさいから、500円玉出せよ」
そういうと悪魔は人差し指をくるっと回した。
僕のズボンのポケットから財布が引っ張り出された。
硬化入れから500円玉が飛び出てぼくの手のひらに落ちた。
「コインを投げろ。
裏なら地獄に連れていく」
悪魔はそういうと人差し指をくるっと回した。
悪魔の顔は黒く、黒く光った。
「ううう」
体が勝手に500円玉をコイントスした。
ピーン
放物線を描き、500円玉は地面に落ちた。
クルクル回る。
体の自由は利かない。
視線だけ何とか下にむけて硬化をみつめる。
夢か現実かの区別が曖昧になってくる。
パタリと硬貨は静止した。
表。
「ちっ、少年、運が良かったな」
悪魔はそう言うと一人上昇して消えた。
僕はその場に座り込み、表の500円玉を拾い上げ、手のひらに乗せた。
「良かったわね。
受験もきっと成功するわ」
ウインクしながら天使はそう言った。
手のひらの500円玉がクルリと回転し、裏面で静止した。
僕は息をのんで上昇中の天使を見た。
ウインクしながら天使は消え
ていった。
「なかなかうまいこと考えたわね。」
ここは天使カンパニーのオフィス。
「悪魔をだますなんてね」
二人の天使が話していた。
一人は先ほどの天使。
「そうなんですよ。
頭の悪い悪魔で助かってますけど。
これで今月のノルマ達成で」す」
そう言うと壁に貼ってある業務報告ノルマ表の「迷える魂の救済」覧に花を一つ貼った。
風が冷たい。
マフラーをぐいと口元まで上げた。
あと7ヶ月で大学受験。
睡眠時間を削って机に向かっているが実際の所はラジオを聞いたり、CDを聴いたりだらだらと過ごしてしまう。
これではいけないと今日は図書館で勉強していたわけだ。
カップルで勉強している同級生を横目で羨ましく思いながら、遅々として手元の課題は終わらなかった。
こんなんで合格するのだろうか・・・
もう現実から逃げたい。
そう思っていた。
「そこの少年」
声をかけられた。
「え・・・」
ずいぶん頭上から声がする。
黒い足一対と素肌の足一対が宙に浮いている。
見上げると伝統的、トラディショナルスタイルの天使と悪魔が浮かんでいた。
「うわああ」
「おっ、少年。俺たちが見えるのか。
普通は俺たちの声が聞こえても姿が見えないから自分の思考の声として話をすすめるんだが、見えるんなら仕方ない」
「何が仕方ないんですか?」
「話、聞く気ある?」
悪魔が聞いた。
「いえ、ありません」
「それで済むわけがない」
悪魔の顔がほの青く光った。
どうやら、いらっとしたらしい。
ここは話題を変えなければ・・・
「どうして天使といっしょにいるんですか」
虚を突かれた悪魔はしばしの沈黙の後、にやりと笑った。
「俺たちつき合ってるの。
禁断の愛っていうわけ。
もちろん上司に見つかったらただではすまないの。
だから下界で会っている」
「そうなの」
天使が相づちをうった。
二人は見つめあい、手をつないだ。
「おっと、話が横道にそれちまったな。
実はこう見えて俺、サラリーマンなの。
雇われているの。
ノルマがあるの」
悪魔が言った。
「ノルマって?」
「悪魔のノルマといったら、わかんないかなあ。
地獄につれていく魂の数。
お宅、今、現実逃避の手段を考えてたよね」
図星だった。
どうやって死ねば楽かを具体的に考えていた。
「だから俺が現れたわけ。
お宅結構、本気で考えてたよ。
まあ、俺が来た時点で棺桶に片足以上つっこんでるけどね」
そういうと悪魔の顔はオレンジ色に光った。
どうやら楽しいらしい。
「ぼく死にません」
あわてて悪魔に言った。
「おっと、さっきもいったろ。
俺だってノルマがあるのさ。
もう面倒くさいから、500円玉出せよ」
そういうと悪魔は人差し指をくるっと回した。
僕のズボンのポケットから財布が引っ張り出された。
硬化入れから500円玉が飛び出てぼくの手のひらに落ちた。
「コインを投げろ。
裏なら地獄に連れていく」
悪魔はそういうと人差し指をくるっと回した。
悪魔の顔は黒く、黒く光った。
「ううう」
体が勝手に500円玉をコイントスした。
ピーン
放物線を描き、500円玉は地面に落ちた。
クルクル回る。
体の自由は利かない。
視線だけ何とか下にむけて硬化をみつめる。
夢か現実かの区別が曖昧になってくる。
パタリと硬貨は静止した。
表。
「ちっ、少年、運が良かったな」
悪魔はそう言うと一人上昇して消えた。
僕はその場に座り込み、表の500円玉を拾い上げ、手のひらに乗せた。
「良かったわね。
受験もきっと成功するわ」
ウインクしながら天使はそう言った。
手のひらの500円玉がクルリと回転し、裏面で静止した。
僕は息をのんで上昇中の天使を見た。
ウインクしながら天使は消え
ていった。
「なかなかうまいこと考えたわね。」
ここは天使カンパニーのオフィス。
「悪魔をだますなんてね」
二人の天使が話していた。
一人は先ほどの天使。
「そうなんですよ。
頭の悪い悪魔で助かってますけど。
これで今月のノルマ達成で」す」
そう言うと壁に貼ってある業務報告ノルマ表の「迷える魂の救済」覧に花を一つ貼った。