日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日の想像話「試合」

2014年02月01日 | ◎これまでの「OM君」
「今度のファイトマネーは2倍だすよ」
マネージャーがそう切り出した。
そういう事を言い出すときにはろくな目にあっていない。
有刺鉄線蛍光灯爆破マッチ。
うまいことその気にさせられてやったがえらい目にあった。
結局その時のファイトマネーもほぼ通常どおりだった。
「マネージャー、勘弁してくださいよ。今度は何をさせるんですか」
「K(ケイ)よ~。悪いようにはしないんだって。ファイトマネー2倍だよ、2倍」
髪の毛はボサボサ。
葉巻をくわえながらマネージャーは言った。
本人はドン・キングを気取っているつもりだが、コロンボにしか見えない。
「それは、さっき聞きました」
俺のリングネームは「K」。
3発の必殺ナックルパンチで必ず倒す。
そういうふれこみだが、何のことはない、本名が川島だからだ。
小、中学とレスリングに汗を流した。
高校進学時に当時旗揚げしたばかりの新興インディーズ団体の門戸を叩いた。
基礎練習と投げ技禁止の地味な下積み時代を経て、それなりに稼げるレスラーにはなったつもりだ。
しかし、所属団体の経営不振は「K」個人の
力ではどうにも出来ない問題だ。
色物と言っては語弊があるかもしれないが、人目を引く、過激なマッチメークが組まれる様になってきたのだ。

「熊とやってほしい」
自分の耳を疑った。
この平成の時代にクマとは恐れ入る。
「クマって…。自分はウイリーにもマスターマスにもなれません。危険すぎます。言葉が通じないんですよ」
「しかもな…」
「聞いてるんですか!」
完全に聞き流しながら、マネージャーは話を続ける。
「しかもな…クマだけじゃないんだ。ライオンも同時にリングに放つ。クマ VS ライオン VS 人間の異種混合バトル・ロイヤルをやろうってんだ」
「無理ですよ」
「レスラーが無理って言うんじゃねえ。人のやらないことをやるのがレスラーだ」
出たよ。いつもの口癖だ。
「エア式の麻酔銃も手配するから大丈夫だあ。やってくれ」
「もう、すぐにリングアウトしてノーコンテストにしますよ」
「客を前にしてそれが出来るおまえじゃあないだろう」
そうなのだ。ファンサービスが身に及ぶ危険より勝ってしまう。
なるようになれだ。

試合当日を迎えた。
筋書きらしい打ち合わせもなく当日になった。
「麻酔銃お願いしますよ」
マネージャーにはそう言うのがやっとだった。
「ああ、あれね。やっぱり観客がいるなかでぶっ放すのは無理だから。用意してない。でも大丈夫だから」
何が大丈夫なものか。

リングを見て絶望した。
金網デスマッチ。
しかも爆破つき。
リングアウトでノーゲームの道も閉ざされた。
もう最悪には金網をよじ登ろう。
よじ登って天井にぶら下がろう。
そう心に誓った。

会場の熱気が地響きをたてるように体にひびく。
よしやってやる。

クマが飼育員と一緒にリングに入る。
口には一応猿ぐつわがかまされている。
ほんの気休めだ。
ライオンもリングに入った。
同じく猿ぐつわがかまされている。
思ったほど獣のにおいはしない。不思議だ。
心臓がせり上がる。
ゴングと同時に飼育員達はリングの外にでる。
おいおいどうなるんだよ。

人とクマとライオンはゴングの響きが残るなかリング中央に走り込んでいた。
クマは以外と小さく、立ち上がっても俺と同じくらいの身長だった。
しまったと思った時には組み付かれていた。
クマの顔が近づく。
「大丈夫だ」
「!」
クマがしゃべった。
「ぬいぐるみだよ、ライオンもそうだ。最後はロープにふられて三者爆破で終わろうや」
(マネージャーこれじゃあ、落語だよ)
そう思いながら、この試合の筋書きを考え始めていた。
なんて因果な商売だろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする