日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日の想像話「解散とアーティスト」

2014年02月09日 | ◎これまでの「OM君」
妻と子供は朝から出かけた。
そういう予定だ。
本日、私はフリー。
フリーダム。
なんとうれしい一日だろうか。
そそくさと食パンを焼き、牛乳で流し込む。
身繕いを完了させ、お気に入りのCDを2、3枚鞄に放り込む。
コーヒーをタンブラーに入れ、手に持つ。
靴を履き、自宅を後にする。

カーステレオにCDを入れ再生する。
今、このアーティストにはまっている。
知ったのは最近で、もう解散してしまっている。
こういう過去の解散してしまったアーティストのCDを中古ショップで見つけるのは至難の業だ。
ネットショップで検索をかければ一発ですべてを手に入れることはできるが、まあ、自分の楽しみで中古ショップに足をむける。
残念だな。
解散しちゃったらだめだ。
メンバー感の軋轢は置いといて、新曲を供給し続けて欲しかった。

コンビニで飲み物を買う。
ドライブ+音楽+飲み物。
まさにうれしさの三重奏。
本日、目が覚めてから2度目のうれしさを感じつつ、中古ショップに到着する。
あいうえおの「み」の段をCDラックから探す。
心のなかで「は・ひ・ふ・へ・ほ…」と唱えながら棚を移動する。
ま行はこの棚のちょうど裏手だ。
通路を回り込むと…
白いズボン、白い靴、白いジャンパーの長髪の女がうつむき気味に立っていた。
棚がよく見えないな。
しょうがない、店内をうろついて、この人が移動するのを待とう。
CD売場を離れる。

このお店はいくらいても飽きない。
中古の本、雑誌、プラモデル、ゲーム各種が揃っている。
30分はたっただろうか。
CD売場に戻る。
まだいる。
うつむき気味の真白の女。
しょうがないので「み」の売場ににじりよる。
正面には立てなかったが、あった。
4枚目のアルバムだ。
手を伸ばして手に取る。
「………」
そのCDを目にとらえ、動きを追って、CDの延長線上の自分と目が合う。
「えっ…」
思わず声が漏れた。
(何か言った方がいいのか、これは)
「これ、僕、欲しいんですけど、買ってもいいですか?」
女はじーっとこちらを見つめながら、しばらくの沈黙。
沈黙。
しょうがないので待つ。
すると「はい」
と一言だけ言って、くるりとその場で回れ右をしてスタスタと行ってしまった。
(なんなんだ、いったい…)

駐車場に戻り、今買ったCDを再生する。
あーなるほど。
やっぱりいい。
そう思いながら、朝から決めていた近所のハンバーガー屋さんに入る。
コーラでハンバーガーを流し込む。
本日3度目の幸せを感じる。
ちらりと白っぽいものが目に入ったような気がしたが、休日の昼ご飯時、家族連れと走り回る子供たちしか視界には入らない。
気のせいか…。
そう思いながら図書館に向かった。
これも朝から決めていた。
図書館の駐車場で昼寝をしてから好きなだけ本を読もうと。
駐車場に到着した。
運転席のシートを倒す。
ドアロックは用心のため掛ける。
目を閉じる。
ああ、幸せだなあ。

コンコン、コン
窓ガラスを叩く音。
遠慮がちではあるけれど、決して叩くことはやめない。
(誰だ…警察だったらいやだな)
別にやましいことは何も無いのだが、ハイと声を出して目を開けながら、半身を起こした。
そこには…
うつむきがちの白い女が立っていた。
(何だ。うそだろ)
怖いので窓だけを1cm程度空け聞いた。
「なんでしょうか」
「あのCDなんですけど、あれ私のCDなんです」
(なにを言っているんだ…)
「お店で売られてましたけど、盗まれたんですか」
「いえ…」
「売ったんですか」
「………」
「え~っと…私にどうしろとおっしゃってるんですか」
「あのCD、私のなんです」
(この人怖いな)そう思った。
「じゃあ、私が買った金額をいただけたらこのCDお渡ししますよ」
「お金ないんです」
(えーこわいこわい)
「じゃあ、あげますよ」
カーステレオからCDを取り出し、ケースに戻した。
もう少し窓を開け、CDを手渡した。
白い女はケースを無言で受け取り、回れ右をして走っていった。
怖いから今日は帰ろう。

妻と子供は帰っていた。
妻には今日の出来事を話した。
怖いわねその人
妻はそう言った。

その日の深夜。
夢にその女がでた。
よほど印象に残ったのだろう。
あたりまえだ。
枕元に白い女が立った。
とんとん
肩を叩かれた。
とんとん
もう一度肩を叩かれた。
今度は本当に叩かれている。
目を開けるとそこには、白い女が立っていた。
ベランダにつながる窓が割られている。
そんな。
ここは5階だぞ。
妻と子供は別室で眠っている。
「あの、車中に他のアルバムも何枚かありましたね。あれも私のCDなの…」
もう何も考えられなかった。
夢中であのアーティストのアルバムをすべて手に取り白い女に手渡した。
ニヤリと笑ったように見えた。
回れ右をして風のようにベランダから女は消えた。
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◎本日の想像話「ただ酒」

2014年02月09日 | ◎これまでの「OM君」
とある一室。
深夜、男二人が飲んでいた。
板間に置かれたテーブル。
つまみは冷蔵庫から取り出した焼き鳥をチンしたもの。
甘ったるいタレのかかったスーパーによく売られているものではなく、本格的なぷりぷりの焼き鳥だ。
イスに腰掛け、ほぼ弛緩した姿勢で琥珀色の液体を各々飲んでいる。
おかしなところと言えば、テーブルの上にはrec状態のボイスレコーダーが置いてある。

「しかしあれだな、俺たち二人よく飲んだ
な」
しわがれ声の男が言った。
白髪の長髪。
抜け目がないように見えて、案外と抜けている。
頼りになりそうで頼りにならない。
周囲の評価はそんな男だ。
「ああ、そうだな」
もう一人はよく日に焼けた短髪の筋肉質の男。
肉体労働に汗を流している。

「俺たちは酒が好きだからいいんだけど、なんだか変な話だな」
「この部屋に来て、酒飲んで、テーマの会話を録音すれば、この部屋の酒、つまみは飲み放題、食べ放題っていうんだからな」
「ある日、突然黒いスーツを着た男が現れて、そんな話をするもんだから、あやしい…俺は絶対に行かないって心に誓ったけど、ただ酒の誘惑にはやっぱり勝てねえ。のこのこ出かけたらあんたがいたってわけだ」
「そうそう、俺も同じだ。なんだか知らないが、ただ酒万歳だ」
そう言いながら二人は飲んでいた。
「えっと本日のテーマは「少し悲しかったこと」だそうだ。何かある?」
年の功で白髪長髪のおやじが切り出す。
「そうだな、俺からいこうか」
短髪筋肉質ボウヤが言う。
「この前ね、昼ご飯を牛丼チェーン店で同僚と食べてたのよ。2人掛けテーブルがふたつくっついて4人掛けになってたんよ。そんなに混んでなかったけど、一応、向かい合いで2人座って、2人テーブルを空けておいたんよ。
牛丼は特盛りを頼んだんよ。
紅ショウガはテーブルとテーブルの間のトレーに置かれてたん。
紅ショウガをがっと入れて、半分食べ進んだら再び、紅ショウガをごそっと入れようと算段していたんよ。
うまーい。
もくもくと食べてたん。
そしたら店員さんがやってきて、「こちらの空いているテーブルを離させてもらってもいいですか」って聞くわけ。
「ああ、どうぞどうぞ」って言うじゃない。
テーブルをガガガッて動かしたら、紅ショウガの入っているトレーは向こうのテーブルにくっていていて、紅ショウガが一緒にあっちにいったんよ。
テーブルの移動は認めたが、紅ショウガの移動は認めていないと言いたかったけど、言わなかったよ。
なっ、少し悲しい話だろう」
「そうだな…」
そんなこんなで二人は肩を組んで上機嫌で帰っていった。

現れる黒いスーツの二人。
手にはテーブルの上にあったボイスレコーダーを持っている。
「ラボの計算は正しいのでしょうか」
「ああ、ほぼ間違いない。近しい未来にあの二人が世界を破滅におとしめるテロ行為を行う。これが世界を救う最良の方法だと計算されたのだ。
二人が酒を酌み交わす。
その会話の中で世界が滅びる発想が生まれる。
それを阻止するために、くだらないテーマを与える。
ただ酒につられて思考はそのことしか考えない。楽しいひとときを過ごし、二人のガスも抜け、世界は救われる。
まあ、そういうことだ」
黒いスーツの男はボイスレコーダーに録音されたファイルを消し、机の上に戻した。
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