あの野郎…
何人の仲間が狙撃の餌食になったのか。
約1km前方。
ビルの一室に奴はいる。
部隊は一歩も動けない。
A国に進行中の我がB国の精鋭部隊。
頭を出した刹那、弾丸が襲ってくる。
奴は部隊がこの距離に近づくまで待っていたのだ。
この距離で奴に致命傷を与える武器は持ち合わせていない。
攻略車両を送り込んだが、50口径の弾丸が正確に運転手を射抜いた。
八方ふさがりとはまさにこの事だ。
奇妙な点が多々ある。
奴は「ねぐら」を移動しない。
通常、自分の位置が敵にしれた時点で狙撃地点を移動し、隠れる。
それが狩る者の常識だ。
しかし、よほど自信があるのか移動しない。
屋上から一階下のフロアー、右隅の部屋に陣取っている。
敵味方入り乱れての車両、屍がビルを中心に散乱している。
しかも奴はこのビルの向こう側でも誰かと交戦しているらしい。
銃声が響いている。
相手は誰だ…。
破壊された車両の陰に部隊の仲間は散り散りになり隠れている。
通信でのやりとりで連絡を取り合っている。
ここに停滞してもう4日。
いよいよ食料も底をつきそうだ。
あそこを落とさないと補給部隊も近づけない。
闇にまぎれてビルに近づく命令が下った。
深夜2時。
今夜は新月。
ゴーサイン。
そろりと動く。
100メートル先の丘の陰に隠れる。
いける。
奴には気づかれていない。
チーム5人が50mほどの間隔を空けて横に展開している。
ビルまで残り800メートル。
700メートル。
600メートル。
次の遮蔽物まで前進を開始した。
その一瞬。
全身をさらけだしている俺以外の4人は上半身を吹き飛ばされていた。
一番最後に狙われた俺は、身を隠す時間があった。
くそ。
奴の熱源反応スコープでねらい打ちだ。
この位置までおびき出されたらしい。
まさに手練れだ。
もうダメかもな。
車両の陰で停滞するしかない。
苦しい訓練を重ねた俺だが、思考は停止している。
本部とも連絡が取れない。
自分の呼吸音だけが耳の中で鳴っている。
いや…
蚊の羽音。
ブーン
もう少し大きな物体の風切り音。
頭上から聞こえる。
見上げる。
ドローンに搭載された、汎用マシンガンの銃口が俺を狙っている。
ドローンから受け取った映像がモニターに映っている。
ここはA国軍司令部。
「B国の連中は、あのビルに最強のスナイパーがいると思っているだろうな。」
将軍の顔には苦渋にみちた表情がうかんでいる。
「まさか無人の狙撃システムとは思いもよらないかと思われます。」
部下もまた悲壮な表情のまま答えた。
「自軍のマーカーを識別して敵のみが半径1km圏内に近づけないシステムのはずだな。それがどうだ自軍が進行しても容赦なく狙撃されるではないか!あのビルには我が軍の中枢システムがあるのだぞ!」
「もうしわけございません将軍。どうやら識別マーカーセンサーの不具合のようです。敵味方の区別がつかない状態になっております。」
「弾薬の供給はどうなっておる。」
「はっ、その点なのですが…」
部下は口ごもった。
「はっきり申せ!」
「10年は戦える量の弾薬が備蓄されており、自動で供給されるシステムになっております。」
「電源は?」
「電源はソーラーシステムで供給されております。」
「ならばどうする…」
「どうしましょう…」
あのビルの一室。
一人の男が作業をしている。
モップを手に床を掃除している。
彼は掃除人。
外に出られないでいた。
もう一週間になる。
「はやくここから帰れるようにしてくれねえかカカア」
携帯で妻と話していた。
「会社の人には言ってあるのよ。ただそのビルなんだがすごく重要なビルらしいじゃあないの。待ってくれ待ってくれの一点張りなのよ。水と食べ物はあるって聞いてるわよ。」
「ああ、シャワーもある。ホテル並の設備は整っている。でも出れないんじゃあしょうがない。ひまだから掃除してるよ。ただもう外に向けてやたらめったら銃を撃ちまくっておる。ただごとじゃあねえ。どうなってるんじゃあ」
「特別手当が出るらしいから、もう少しそこにいてくれって言われたわ。あっ、ちょっとまって会社からメールが来たわ。何々、一階にあるぶっといコンセントを抜いてくれだって、わかる?」
「ああ、分かる分かる、一階にあるぶっといコンセントだろ。あれを抜けばいいのか?」
「そうだって、それで帰れるって」
男は一階に駆け下り、ぶっといコンセントを引き抜いた。
男の働きにより無人システムは無力化された。
何人の仲間が狙撃の餌食になったのか。
約1km前方。
ビルの一室に奴はいる。
部隊は一歩も動けない。
A国に進行中の我がB国の精鋭部隊。
頭を出した刹那、弾丸が襲ってくる。
奴は部隊がこの距離に近づくまで待っていたのだ。
この距離で奴に致命傷を与える武器は持ち合わせていない。
攻略車両を送り込んだが、50口径の弾丸が正確に運転手を射抜いた。
八方ふさがりとはまさにこの事だ。
奇妙な点が多々ある。
奴は「ねぐら」を移動しない。
通常、自分の位置が敵にしれた時点で狙撃地点を移動し、隠れる。
それが狩る者の常識だ。
しかし、よほど自信があるのか移動しない。
屋上から一階下のフロアー、右隅の部屋に陣取っている。
敵味方入り乱れての車両、屍がビルを中心に散乱している。
しかも奴はこのビルの向こう側でも誰かと交戦しているらしい。
銃声が響いている。
相手は誰だ…。
破壊された車両の陰に部隊の仲間は散り散りになり隠れている。
通信でのやりとりで連絡を取り合っている。
ここに停滞してもう4日。
いよいよ食料も底をつきそうだ。
あそこを落とさないと補給部隊も近づけない。
闇にまぎれてビルに近づく命令が下った。
深夜2時。
今夜は新月。
ゴーサイン。
そろりと動く。
100メートル先の丘の陰に隠れる。
いける。
奴には気づかれていない。
チーム5人が50mほどの間隔を空けて横に展開している。
ビルまで残り800メートル。
700メートル。
600メートル。
次の遮蔽物まで前進を開始した。
その一瞬。
全身をさらけだしている俺以外の4人は上半身を吹き飛ばされていた。
一番最後に狙われた俺は、身を隠す時間があった。
くそ。
奴の熱源反応スコープでねらい打ちだ。
この位置までおびき出されたらしい。
まさに手練れだ。
もうダメかもな。
車両の陰で停滞するしかない。
苦しい訓練を重ねた俺だが、思考は停止している。
本部とも連絡が取れない。
自分の呼吸音だけが耳の中で鳴っている。
いや…
蚊の羽音。
ブーン
もう少し大きな物体の風切り音。
頭上から聞こえる。
見上げる。
ドローンに搭載された、汎用マシンガンの銃口が俺を狙っている。
ドローンから受け取った映像がモニターに映っている。
ここはA国軍司令部。
「B国の連中は、あのビルに最強のスナイパーがいると思っているだろうな。」
将軍の顔には苦渋にみちた表情がうかんでいる。
「まさか無人の狙撃システムとは思いもよらないかと思われます。」
部下もまた悲壮な表情のまま答えた。
「自軍のマーカーを識別して敵のみが半径1km圏内に近づけないシステムのはずだな。それがどうだ自軍が進行しても容赦なく狙撃されるではないか!あのビルには我が軍の中枢システムがあるのだぞ!」
「もうしわけございません将軍。どうやら識別マーカーセンサーの不具合のようです。敵味方の区別がつかない状態になっております。」
「弾薬の供給はどうなっておる。」
「はっ、その点なのですが…」
部下は口ごもった。
「はっきり申せ!」
「10年は戦える量の弾薬が備蓄されており、自動で供給されるシステムになっております。」
「電源は?」
「電源はソーラーシステムで供給されております。」
「ならばどうする…」
「どうしましょう…」
あのビルの一室。
一人の男が作業をしている。
モップを手に床を掃除している。
彼は掃除人。
外に出られないでいた。
もう一週間になる。
「はやくここから帰れるようにしてくれねえかカカア」
携帯で妻と話していた。
「会社の人には言ってあるのよ。ただそのビルなんだがすごく重要なビルらしいじゃあないの。待ってくれ待ってくれの一点張りなのよ。水と食べ物はあるって聞いてるわよ。」
「ああ、シャワーもある。ホテル並の設備は整っている。でも出れないんじゃあしょうがない。ひまだから掃除してるよ。ただもう外に向けてやたらめったら銃を撃ちまくっておる。ただごとじゃあねえ。どうなってるんじゃあ」
「特別手当が出るらしいから、もう少しそこにいてくれって言われたわ。あっ、ちょっとまって会社からメールが来たわ。何々、一階にあるぶっといコンセントを抜いてくれだって、わかる?」
「ああ、分かる分かる、一階にあるぶっといコンセントだろ。あれを抜けばいいのか?」
「そうだって、それで帰れるって」
男は一階に駆け下り、ぶっといコンセントを引き抜いた。
男の働きにより無人システムは無力化された。