「食欲ヒットマン」
京都発東京行きのぞみ322号。
ターゲットは前の席に座っている。
どこの誰かは知らない。
俺の仕事はこいつを速やかに葬り去ること。
パナマ帽を粋に被った老紳士。
タブレットを手慣れた手つきでさわっている。
自分の身にふりかかる災難には気づきもしない。
当たり前だ。
俺はプロだ。
今回のプランはターゲットの飲み物に、無味無臭の薬物を混入させる。
それでザッツ・オール・フィニッシュだ。
そのとき車両前方のドアが開いた。
「お弁当、お茶、おつまみ、アイスコーヒーはいかがですか~」
車内販売のおねえさんがワゴンを押しながら現れた。
窓際に座っている老紳士はそわそわしだした。
(これは何か買うな…チャンスだ…)
「あっちょっとおねえさん」
「はい」
「幕の内弁当とお茶をいただこうか」
「ありがとうございま~す」
(弁当を食べるのか。そうかそうか。もうお昼だからな。そうなってくると俺も腹が減った。)
ちらりとワゴンを物色する。
(酢豚弁当!これは魅力的だ。酢豚弁当を俺は食べるぞ!)
こそこそとお姉さんを呼び止め、ひそひそと注文した。
「酢豚弁当ひとつとお茶。」
(東京までまだ時間はある。チャンスはある。それよりも酢豚弁当だ。)
ひもの結び目をほどくのももどかしい。
包みを開き、上蓋をとる。
つややかに豚肉が輝く。
うまそうだ。
豚肉とたまねぎをまずいただく。
まず甘酢のすっぱさ。
そして豚肉のうまみが口の中にひろがる。
うまい。
この酢豚弁当にはパイナップルが入っている。
酢豚にパイナップルは邪道であるという方もいるが、俺はフルーティなパインの酸味も好きだ。
夢中で食べた。
うまかった。
お腹が満たされると睡魔に襲われた。
昨夜はサッカー女子の予選がアジアで開催され深夜まで見入ってしまった。
寝不足だ。
瞼が下がる。
「ホットコーヒーを一ついただこうか」
「ありがとうございます」
老紳士が車内販売のコーヒーを買う声で慌てて起きた。
(うぉ!寝てしまった。今どこだ。)
ポットからコーヒーが注がれる。
コポコポコポ
いいにおいが立ちこめる。
(あっ、俺も飲みたい。)
そう思ってしまった。
(いかんいかん任務が先だ。………いやいややっぱり飲みたい。そしてお茶うけにチョコレート系のお菓子も頂きたい。)
こそこそとお姉さんを呼び止め、ひそひそと注文した。
コポコポコポ。
お茶受けにロイスのチョコを買った。
チョコを食べる。
ほろ苦い甘さ。
コーヒーを飲む。
最高だ。
体が温まる。
「まもなく東京に到着いたします。」
車内アナウンスが東京駅到着を告げる。
ああ、また俺はやっちまった。
食い意地に負けた。
老紳士はさっそうと人混みの中に消えていった。
京都発東京行きのぞみ322号。
ターゲットは前の席に座っている。
どこの誰かは知らない。
俺の仕事はこいつを速やかに葬り去ること。
パナマ帽を粋に被った老紳士。
タブレットを手慣れた手つきでさわっている。
自分の身にふりかかる災難には気づきもしない。
当たり前だ。
俺はプロだ。
今回のプランはターゲットの飲み物に、無味無臭の薬物を混入させる。
それでザッツ・オール・フィニッシュだ。
そのとき車両前方のドアが開いた。
「お弁当、お茶、おつまみ、アイスコーヒーはいかがですか~」
車内販売のおねえさんがワゴンを押しながら現れた。
窓際に座っている老紳士はそわそわしだした。
(これは何か買うな…チャンスだ…)
「あっちょっとおねえさん」
「はい」
「幕の内弁当とお茶をいただこうか」
「ありがとうございま~す」
(弁当を食べるのか。そうかそうか。もうお昼だからな。そうなってくると俺も腹が減った。)
ちらりとワゴンを物色する。
(酢豚弁当!これは魅力的だ。酢豚弁当を俺は食べるぞ!)
こそこそとお姉さんを呼び止め、ひそひそと注文した。
「酢豚弁当ひとつとお茶。」
(東京までまだ時間はある。チャンスはある。それよりも酢豚弁当だ。)
ひもの結び目をほどくのももどかしい。
包みを開き、上蓋をとる。
つややかに豚肉が輝く。
うまそうだ。
豚肉とたまねぎをまずいただく。
まず甘酢のすっぱさ。
そして豚肉のうまみが口の中にひろがる。
うまい。
この酢豚弁当にはパイナップルが入っている。
酢豚にパイナップルは邪道であるという方もいるが、俺はフルーティなパインの酸味も好きだ。
夢中で食べた。
うまかった。
お腹が満たされると睡魔に襲われた。
昨夜はサッカー女子の予選がアジアで開催され深夜まで見入ってしまった。
寝不足だ。
瞼が下がる。
「ホットコーヒーを一ついただこうか」
「ありがとうございます」
老紳士が車内販売のコーヒーを買う声で慌てて起きた。
(うぉ!寝てしまった。今どこだ。)
ポットからコーヒーが注がれる。
コポコポコポ
いいにおいが立ちこめる。
(あっ、俺も飲みたい。)
そう思ってしまった。
(いかんいかん任務が先だ。………いやいややっぱり飲みたい。そしてお茶うけにチョコレート系のお菓子も頂きたい。)
こそこそとお姉さんを呼び止め、ひそひそと注文した。
コポコポコポ。
お茶受けにロイスのチョコを買った。
チョコを食べる。
ほろ苦い甘さ。
コーヒーを飲む。
最高だ。
体が温まる。
「まもなく東京に到着いたします。」
車内アナウンスが東京駅到着を告げる。
ああ、また俺はやっちまった。
食い意地に負けた。
老紳士はさっそうと人混みの中に消えていった。