月曜日の朝、憂鬱な気持ちでアキラはホームに立っていた。
電車が滑り込む。ほぼ満員の車内を見て、アキラは自分に気合いを入れる。今からこの電車に乗り込む自分が信じられない混雑ぶりなのだ。白昼夢のように自分を見失う。電車に乗り込む理由はいたってシンプルだ。会社がこの先にあるからだ。
ドアの開く圧縮空気の音に一瞬ひるむ。解放されたドアに車内から人があふれ出す。アキラは果敢に体を横にしながら車内に突入する。アキラの目的駅は日本の中心地なのだ。
アキラは群衆の中にエアポケットのように出現した空間を見つける。砂漠の中に出現したオアシスを発見した気持ちになる。ずいずいとアキラは確かな足取りでオアシスに向かう。あと一歩でその空間にたどりつくはずが、その空間の理由が分かった。おばあさんが床に座り込んでいた。
そのおばあさんの髪の毛は満員電車の洗礼を受けたかのようにざんばらで服装の和服も乱れに乱れている。不思議なことに周囲の人は誰一人気にもとめていない。アキラは半ば憤慨しながら、たまらず声をかける。
「おばあさん。大丈夫ですか」
おばあさんはびっくりしたようにアキラを見上げる。
「ああ、大丈夫じゃ」
「ぜんぜん大丈夫じゃないよね。イスに座ろうよ。ほらあんた、変わってやりなよ」
目の前のサラリーマンはスマホから延びたイヤホンを耳に差し、目を閉じて微動だにしない。
「この状況であんた何も感じないのか」
アキラは語気を強めて叫ぶように声を出す。しかし、誰も何も行動を起こさなかった。
「いいんじゃよ。若者よ。ありがとう。もうすぐ駅に着く。一緒に降りよう」
「いや、会社に行かないと」
「本当に、行かないとだめか。よく考えて……」
アキラはおばあさんに見覚えがあるような気がしてきた。記憶をたぐるように映像がスライドショーのように激しく瞬いた。
おばあさんがゆっくりとホームから転落する。アキラは線路に飛び降りる。滑り込む電車の圧倒的な存在感。警告を叫び汽笛。迫るヘッドライト。
「あっ……」
「そうじゃ。あんたを巻き込んですまなんだ。さあ行こう」
「そうなんですね」
アキラは目をゆっくり閉じる。涙は流れない。
電車が滑り込む。ほぼ満員の車内を見て、アキラは自分に気合いを入れる。今からこの電車に乗り込む自分が信じられない混雑ぶりなのだ。白昼夢のように自分を見失う。電車に乗り込む理由はいたってシンプルだ。会社がこの先にあるからだ。
ドアの開く圧縮空気の音に一瞬ひるむ。解放されたドアに車内から人があふれ出す。アキラは果敢に体を横にしながら車内に突入する。アキラの目的駅は日本の中心地なのだ。
アキラは群衆の中にエアポケットのように出現した空間を見つける。砂漠の中に出現したオアシスを発見した気持ちになる。ずいずいとアキラは確かな足取りでオアシスに向かう。あと一歩でその空間にたどりつくはずが、その空間の理由が分かった。おばあさんが床に座り込んでいた。
そのおばあさんの髪の毛は満員電車の洗礼を受けたかのようにざんばらで服装の和服も乱れに乱れている。不思議なことに周囲の人は誰一人気にもとめていない。アキラは半ば憤慨しながら、たまらず声をかける。
「おばあさん。大丈夫ですか」
おばあさんはびっくりしたようにアキラを見上げる。
「ああ、大丈夫じゃ」
「ぜんぜん大丈夫じゃないよね。イスに座ろうよ。ほらあんた、変わってやりなよ」
目の前のサラリーマンはスマホから延びたイヤホンを耳に差し、目を閉じて微動だにしない。
「この状況であんた何も感じないのか」
アキラは語気を強めて叫ぶように声を出す。しかし、誰も何も行動を起こさなかった。
「いいんじゃよ。若者よ。ありがとう。もうすぐ駅に着く。一緒に降りよう」
「いや、会社に行かないと」
「本当に、行かないとだめか。よく考えて……」
アキラはおばあさんに見覚えがあるような気がしてきた。記憶をたぐるように映像がスライドショーのように激しく瞬いた。
おばあさんがゆっくりとホームから転落する。アキラは線路に飛び降りる。滑り込む電車の圧倒的な存在感。警告を叫び汽笛。迫るヘッドライト。
「あっ……」
「そうじゃ。あんたを巻き込んですまなんだ。さあ行こう」
「そうなんですね」
アキラは目をゆっくり閉じる。涙は流れない。