サチコは帰宅時間が終電間際になってしまったことを後悔していた。最寄り駅の改札を出て、現実にサチコは向き合っている。駅前ロータリーを一歩出た瞬間から街灯は無くなり、漆黒の闇にサチコは包まれていた。
でも、家に帰らなくてはならない。サチコは暗闇が怖くなって、鞄からスマホを取り出した。電話をかける。こんな時間に電話をかけて許されるのはカレシのマサオ一人しかいない。しかし、無情の呼び出し音がサチコの耳元で鳴っている。
「もしもし」
あきらかに寝起きの声でマサオが電話に出た。
「ごめん。寝てたでしょう」
「いや、寝ようかなと思っていただけで、ぎり起きてたよ。何、どうしたの」
「実は、会社から帰るのが遅くなっちゃって。ほら、駅から家まで真っ暗でしょう」
「それで怖くなったんだ」
「そう。だから、ごめんだけど話し相手にしばらくつきあって」
「いいよ」
サチコは少し安心した。
今週末の予定の話を始めようと思った瞬間、後ろから重い足音がついてくるような気がした。しかし、サチコには後ろを振り返る勇気は無い。
「この駅で降りたのは私だけだったのに」
「どうしたの?」
マサオが心配して聞く。
「うん、誰かが私と同じ方向に帰るみたいなの」
足音はだんだん大きくなり、ついには走りだした。
サチコは叫びだそうとする声を必死に押し殺す。
後ろを振り返る。
「お嬢さん、落とし物ですよ」
巨大なクマがサチコのハンカチを持っていた。
「スマホを出したときに落としたのね。どうもありがとう」
呆然としながらサチコはハンカチを受け取った。
「おきをつけて」
巨大なクマは、クマさん鉄道の駅員さんだった。
サチコはキタキツネで、マサオはイリオモテ山猫だ。
ここは動物の国。
あつまれ動物の国。
でも、家に帰らなくてはならない。サチコは暗闇が怖くなって、鞄からスマホを取り出した。電話をかける。こんな時間に電話をかけて許されるのはカレシのマサオ一人しかいない。しかし、無情の呼び出し音がサチコの耳元で鳴っている。
「もしもし」
あきらかに寝起きの声でマサオが電話に出た。
「ごめん。寝てたでしょう」
「いや、寝ようかなと思っていただけで、ぎり起きてたよ。何、どうしたの」
「実は、会社から帰るのが遅くなっちゃって。ほら、駅から家まで真っ暗でしょう」
「それで怖くなったんだ」
「そう。だから、ごめんだけど話し相手にしばらくつきあって」
「いいよ」
サチコは少し安心した。
今週末の予定の話を始めようと思った瞬間、後ろから重い足音がついてくるような気がした。しかし、サチコには後ろを振り返る勇気は無い。
「この駅で降りたのは私だけだったのに」
「どうしたの?」
マサオが心配して聞く。
「うん、誰かが私と同じ方向に帰るみたいなの」
足音はだんだん大きくなり、ついには走りだした。
サチコは叫びだそうとする声を必死に押し殺す。
後ろを振り返る。
「お嬢さん、落とし物ですよ」
巨大なクマがサチコのハンカチを持っていた。
「スマホを出したときに落としたのね。どうもありがとう」
呆然としながらサチコはハンカチを受け取った。
「おきをつけて」
巨大なクマは、クマさん鉄道の駅員さんだった。
サチコはキタキツネで、マサオはイリオモテ山猫だ。
ここは動物の国。
あつまれ動物の国。
人々が気づいた時には宇宙船は地上に降りたっていた。宇宙船の大きさはベースボールスタジアムに匹敵した。 不思議な事に、巨大な宇宙船が着陸した事実を人類の誰もが、気づかなかった。宇宙人のテクノロジーに科学者たちは恐怖を感じていた。
宇宙船のタラップは下りていて、ドアは開いていた。
誰が人類を代表して対応に当たるのか、世界のトップたちの間では揉めていたが、そんな事を知らない、地元警察の駐在さんが対応に当たっていた。
「ごめんください。誰かいますか」
来年定年を迎える駐在さんは勇気を振り絞り、出来るだけ失礼の無いよう、慎重に船内へと足を踏み入れる。
長い廊下が続いている。壁全体が発光していた。どうやら電力は生きているらしい。突き当たりには扉があり、やはり開いていた。
駐在さんは首だけを差し込んで室内を確認する。何もない部屋の真ん中にイスが一つ。
イスには人類と同じ体躯を持つものが、目を閉じて座っている。着衣は半透明のつなぎのようなものを身につけている。唯一の外見的相違点は額に角が一本生えている事だ。
駐在さんは自分の経験を総動員して外宇宙からの来訪者に話しかけた。話しかける内容にも変化を加えた。
「あなた一人ですか?」
「好きな食べものは何ですか?」
「好きなスポーツは何?」
「休みの日は何をしている?」
あらゆる呼びかけに反応は無かった。
駐在さんはトランシーバーで応援を要請しながら小さな声でつぶやく
「これは大変なことになるぞ」
対応のレベルは村から町へ、市から国へと変わっていった。相変わらず、呼びかけに反応は無かった。
宇宙人には体温があり、自発的呼吸も行われていた。
宇宙人は生きていると判断したが、人類はどうすることも出来ずにいた。
何の進展も無いまま十年の月日が過ぎた。
宇宙船は観光スポットとして人を集める存在になっていた。宇宙まんじゅう、宇宙漬け物、宇宙タオルなどがお土産として売られていた。
宇宙人は相変わらず座ったままだったが、動物園のパンダを観察するように、宇宙人を観察するモニターが出来ていた。
宇宙人は角の外見的特徴から「ミスター・ボーン」と呼ばれた。
いつもと変わらない朝。宇宙船の前で、宇宙温泉卵を用意していた土産物屋のミチコは空模様を気にしていた。
「今日は雨、降るのかしら」
ミチコはミスター・ボーンを常時映し出す街頭モニターに何気なく目をやった。 ミスター・ボーンが立ちあがろうとしていた。
「これは大変」
ミチコは組合長に電話をかけるために走り出していた。
ミスター・ボーンは早口で話し始めていた。
「俺ひとりだ」
「地球の好きな食べ物はバナナだ」
「ベースボールだな。エナツの二十一球がレジェンドだ」
「休みの日は朝から酒を飲む」
ミスター・ボーンは十年前の駐在さんの質問に忠実に答えていた。
「俺の発明した、ワープ航法はどうやら成功したようだ。しかし、時間の流れがおかしくなるらしい」
ミスター・ボーンは端末を取り出してなにやら読み下しながら、打ち込む。
「なるほど、俺としたことが、初歩的ミスをしたようだ。ロケットエンジンで十年かかる宇宙旅行の時間を縮める目的のワープ。移動自体は一瞬で終わるが、移動終了直後、時が止まってしまう結果になった。よし、わかったぞ。ここを訂正して。もう一度ワープだ」
宇宙船は音もなく浮き上がった瞬間、一瞬で消えた。
ミスター・ボーンロスに人々は涙した。
宇宙船のタラップは下りていて、ドアは開いていた。
誰が人類を代表して対応に当たるのか、世界のトップたちの間では揉めていたが、そんな事を知らない、地元警察の駐在さんが対応に当たっていた。
「ごめんください。誰かいますか」
来年定年を迎える駐在さんは勇気を振り絞り、出来るだけ失礼の無いよう、慎重に船内へと足を踏み入れる。
長い廊下が続いている。壁全体が発光していた。どうやら電力は生きているらしい。突き当たりには扉があり、やはり開いていた。
駐在さんは首だけを差し込んで室内を確認する。何もない部屋の真ん中にイスが一つ。
イスには人類と同じ体躯を持つものが、目を閉じて座っている。着衣は半透明のつなぎのようなものを身につけている。唯一の外見的相違点は額に角が一本生えている事だ。
駐在さんは自分の経験を総動員して外宇宙からの来訪者に話しかけた。話しかける内容にも変化を加えた。
「あなた一人ですか?」
「好きな食べものは何ですか?」
「好きなスポーツは何?」
「休みの日は何をしている?」
あらゆる呼びかけに反応は無かった。
駐在さんはトランシーバーで応援を要請しながら小さな声でつぶやく
「これは大変なことになるぞ」
対応のレベルは村から町へ、市から国へと変わっていった。相変わらず、呼びかけに反応は無かった。
宇宙人には体温があり、自発的呼吸も行われていた。
宇宙人は生きていると判断したが、人類はどうすることも出来ずにいた。
何の進展も無いまま十年の月日が過ぎた。
宇宙船は観光スポットとして人を集める存在になっていた。宇宙まんじゅう、宇宙漬け物、宇宙タオルなどがお土産として売られていた。
宇宙人は相変わらず座ったままだったが、動物園のパンダを観察するように、宇宙人を観察するモニターが出来ていた。
宇宙人は角の外見的特徴から「ミスター・ボーン」と呼ばれた。
いつもと変わらない朝。宇宙船の前で、宇宙温泉卵を用意していた土産物屋のミチコは空模様を気にしていた。
「今日は雨、降るのかしら」
ミチコはミスター・ボーンを常時映し出す街頭モニターに何気なく目をやった。 ミスター・ボーンが立ちあがろうとしていた。
「これは大変」
ミチコは組合長に電話をかけるために走り出していた。
ミスター・ボーンは早口で話し始めていた。
「俺ひとりだ」
「地球の好きな食べ物はバナナだ」
「ベースボールだな。エナツの二十一球がレジェンドだ」
「休みの日は朝から酒を飲む」
ミスター・ボーンは十年前の駐在さんの質問に忠実に答えていた。
「俺の発明した、ワープ航法はどうやら成功したようだ。しかし、時間の流れがおかしくなるらしい」
ミスター・ボーンは端末を取り出してなにやら読み下しながら、打ち込む。
「なるほど、俺としたことが、初歩的ミスをしたようだ。ロケットエンジンで十年かかる宇宙旅行の時間を縮める目的のワープ。移動自体は一瞬で終わるが、移動終了直後、時が止まってしまう結果になった。よし、わかったぞ。ここを訂正して。もう一度ワープだ」
宇宙船は音もなく浮き上がった瞬間、一瞬で消えた。
ミスター・ボーンロスに人々は涙した。
ソードマスターからのありがたい教えをいただく。
トマトの皮がうまく切れない。
結果スライスに失敗しているとソードマスターからの助言をいただく。
包丁のお尻で皮に切れ込みを作ってからスライスすべし。
なるほど。
結局どういう事なのかシリーズ
「地味に」から始まると結局どういう事なの分からない。
地味に痛い(結局、痛いんでしょう)
地味に重い(結局、重いんでしょう)
地味に苦い(結局、苦いんでしょう)
「微妙」で返答されると結局どういう事なのか分からない。
A「今日、楽しかった?」
B「微妙」
A「……」(楽しかったのか、楽しくなかったのか、どっちなんじゃい)
超能力というものがもしあるとしたら、日常的に発生しそうな事故
瞬間移動
・「いしのなかにいる」という文字が現れて全滅する。瞬間移動先が石の中だった場合の事故。
・遺伝子レベルでハエと合体してしまう。ハエと一緒に瞬間移動して合体してしまう事故。
・高速道路上に瞬間移動してしまう。再ジャンプする暇も無い。
「よし、これでよかろう」
深夜、博士は最後のネジを締め終わると、ドライバーを机に置いた。
博士はこれまでにいくつもの発明を世に送り出している。今回の発明もまた人々の暮らしを劇的に変えるものと確信していた。
「やれやれ、その発明はいただけませんな」
博士は後ろから話しかけ飛び上がって驚いた。研究所には誰も残っていないはずだ。
「誰だ」
振り返った博士は自分の目を疑った。耳まで裂けた口元、背中には翼。尻尾は蛇のようにのたうっている。深紅に光る瞳。その姿はまさに悪魔だ。
「私が誰で、どうしてここにいるのかは分かっているだろう。その発明は闇に葬っていただこうか」
博士は自らを落ち着かすようにマグカップに手を延ばす。冷めてしまったブラックコーヒーを一口飲み下す。
「我ながら半信半疑で作業を進めていましたが、悪魔というものは本当に存在するのですね」
悪魔はゆっくりと博士の眼前にやってくる。瞳の奥には焦りとも懇願ともいえるものを宿しているように博士には感じられた。
「ああ、いるさ。そして返答次第ではお前の魂をいただくことになる。その発明は破壊しろ」
博士は精一杯威嚇する悪魔を、頭の先からから尻尾の先まで興味深く観察する。たっぷりした沈黙の後、博士は口を開く。
「いる事はいるが、物理的な行動は起こせない」
悪魔の顔面には明らかに落胆の表情が浮き上がる。
「そんなことはない」
悪魔は平静を装おうとしている。
「事実と受け取ります」
悪魔は上目遣いで博士を見る。
「行動を起こすのは、あくまで人間だ。我々は、めぼしい人間の耳元でささやくだけだ。すると面白いように思ったとおりの行動を起こす。それが我々の上司の評価となるのだ」
博士は出来上がったばかりの機械に無言でスイッチを入れる。
「よせ、やめてくれ」
悪魔は博士の動きを止めようと右手を上げる途中で音もなく消失した。
「悪魔の声・ノイズ・キャンセラーとでも名付けようか」
消え失せた悪魔を見て博士は満足げにうなずく。
「外野の雑音が人間の意思を惑わす事を歴史は証明している。悪魔のささやきを消し去るマシンは人類をよき方向に導くだろう」
深夜、博士は最後のネジを締め終わると、ドライバーを机に置いた。
博士はこれまでにいくつもの発明を世に送り出している。今回の発明もまた人々の暮らしを劇的に変えるものと確信していた。
「やれやれ、その発明はいただけませんな」
博士は後ろから話しかけ飛び上がって驚いた。研究所には誰も残っていないはずだ。
「誰だ」
振り返った博士は自分の目を疑った。耳まで裂けた口元、背中には翼。尻尾は蛇のようにのたうっている。深紅に光る瞳。その姿はまさに悪魔だ。
「私が誰で、どうしてここにいるのかは分かっているだろう。その発明は闇に葬っていただこうか」
博士は自らを落ち着かすようにマグカップに手を延ばす。冷めてしまったブラックコーヒーを一口飲み下す。
「我ながら半信半疑で作業を進めていましたが、悪魔というものは本当に存在するのですね」
悪魔はゆっくりと博士の眼前にやってくる。瞳の奥には焦りとも懇願ともいえるものを宿しているように博士には感じられた。
「ああ、いるさ。そして返答次第ではお前の魂をいただくことになる。その発明は破壊しろ」
博士は精一杯威嚇する悪魔を、頭の先からから尻尾の先まで興味深く観察する。たっぷりした沈黙の後、博士は口を開く。
「いる事はいるが、物理的な行動は起こせない」
悪魔の顔面には明らかに落胆の表情が浮き上がる。
「そんなことはない」
悪魔は平静を装おうとしている。
「事実と受け取ります」
悪魔は上目遣いで博士を見る。
「行動を起こすのは、あくまで人間だ。我々は、めぼしい人間の耳元でささやくだけだ。すると面白いように思ったとおりの行動を起こす。それが我々の上司の評価となるのだ」
博士は出来上がったばかりの機械に無言でスイッチを入れる。
「よせ、やめてくれ」
悪魔は博士の動きを止めようと右手を上げる途中で音もなく消失した。
「悪魔の声・ノイズ・キャンセラーとでも名付けようか」
消え失せた悪魔を見て博士は満足げにうなずく。
「外野の雑音が人間の意思を惑わす事を歴史は証明している。悪魔のささやきを消し去るマシンは人類をよき方向に導くだろう」