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未完の大作『板橋高校卒業式事件』 藤田勝久〈再掲〉3

2011年10月17日 | 板橋高校卒業式
 ◎ 未完の大作『板橋高校卒業式事件』 藤田勝久〈再掲〉3

「錦秋の旭岳」 《撮影:佐久間市太郎(北海道白糠定、札幌南定、数学科教員)》

 ★ 「撹乱」から「混乱」へ


 産経新聞が、3月12日、朝刊で「卒業式撹乱」と派手にぶちあげたものだから、他紙も追いかけることとなった。
 その中で、立派だったのはK社のN記者である。当たり前のことだがたった一人ということで価値をもった。その日に記事を書く前に電話してきた。
 他社は、本人取材なしで書いていった
 「撹乱」は大袈裟としても、「混乱」はあったのだろう。かくして「卒業式混乱」 「混乱」 「混乱」との記事が世間に流れて行った。
 卒業式は、何の混乱もなかったというのに。

 N新聞は、「もみ合い」と書いた。
 記者をバイト先の守衛所まで来ていただいた。懇切に説明した。いきなり腕を掴んだのは教頭であり、「手を離せ」と言って自ら放させたこと、それ以外の身体的接触は一切ないこと、分っていただいた。
 こりゃほっといたら「突き飛ばした」なんて書かれかねない。各社にその日の模様をこまかく書いた二枚の紙をファックスで送った
 人に事実を説明することは至難なことだと実感した。

 K氏にはファミレスで何時間も説明した。帰途車で自宅まで送っていった。
 「ところで何で卒業生は座ったままでいたんだい」
 「なんだって、あれほど話したじゃないか、始めから全員立たされていたんだよ」
 「え、立っていたのが座ったのか」
 こんな具合である。
 彼は「国歌斉唱」の際は卒業生は着席状態から起立するものと思いんでいる。だからいくら説明してもその部分は頭に入らない。
 H氏とも二時間ほど説明した。
 彼はノートにどんどん書き込んでいく。
 のち彼は、「ビラは前列の保護者に一枚づつ配布した」と書いた。
 電話した。
 「違うよ」
 「言ったとおりノートに書いたんだ、そう書いてあるよ」
 なんと、「前列の保護者には、一枚づつ手渡した」と言った、その「は」が書かれていなかったのである。聞こえなかったのかも知れない。
 前が開いている「前列」の方には手渡しできるが二列目以降は入っていけないから端の方に何枚か渡して横にながしてもらったのだ。
 たしかに日頃の生活でもそうだ。
 「言ったじゃないか」 「そんなこと聞いてないよ」
 などということはよくある。
 そういえば授業で説明したことが答案でまったく違って捉えられているのに愕然としたことを思い出した。
 「口頭」は駄目だ。「文書」でなければ。

 そう思ってもすべての問いに一々紙に書いて渡すなどということは無理である。繰り返しゆっくりと確認をとりつつ話するしかないが、実際は無理だ。
 とくに電話はどうしようもない。
 危険きわまりない。

 「取材報告書」には驚いた。
 電話のやりとりが詳細に記されている。
 録音しているのだろうか。

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