政府も、NHKを含む報道機関も福島原発事故について、なかなかもう安心とは言ってくれません。これは、避難している半径20kmの人たちの事を考慮しての事だと推測しています。うっかり、もう大丈夫などと枝野さんが口を滑らせれば、それなら、ワシャうちに帰ると言い出す方がゾロゾロ出てくるでしょう。それは、後処理を無人地帯で行いたい政府、東電にとっては管理しにくい事態となります。
その上で、特に海外で心配しているJICAの仲間に、原発事故はもう峠を越え、収束に向かいつつある事をお伝えしたいと思います。
まず、元々福島原発で何が問題だったかと言う事ですが、福島第一原発の全ての炉は地震直後に制御棒が正常に挿入され、ウラン核分裂反応は停止しました。ところが原子炉には厄介な崩壊熱という現象があります。核分裂反応は例えば、ウラン235原子に中性子1個が当たるとクリプトン92+バリウム141に分裂し中性子3個を出します(235+1=92+141+3)。このときに出るエネルギーで熱を発生し水を水蒸気に変え発電します。この例ではウランはクリプトンとバリウムに変わりましたが、その他の色々な組み合わせで分裂を起こします。つまり、原子炉を運転するとウランから色々な物質が生まれて来るわけです。プルトニウムもその一つです。これらの核分裂生成物は安定ではなく、例えば問題になっているヨウ素131などは半減期8日で分裂し別の物質になります。こんな不安定な物質が使用中、使用済み核燃料にはぎっしり詰まっていて炉が停止した後も、それらが次々と自然に分裂を起こし熱を発する現象を崩壊熱と呼んでいます。
崩壊熱がいつまで出るかは下記のサイトを御参照下さい。停止一分後には定常出力の2%になり、一日後に0.5%、10日後に0.3%と徐々に低下してきます。今日現在は停止から2週間経っているので0.2%程度で、かなり冷えた状態になっています。
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kid/safety/decayhea.htm
原子炉停止した後に、この崩壊熱を取り去る必要があるのですが、福島原発ではバックアップ電源等が津波にさらわれた為、原子炉は崩壊熱により圧力と温度が上昇してきました。本来ならECCS(緊急炉心冷却)が働いはずであったのが、その電源が絶たれたのです。これを放っておくと圧力で炉心ごと吹っ飛び、最悪の事態になります。それを避けるため、海水を炉心に注入し炉心を冷やし、それで発生した水蒸気を排気ベントにより外部に放出を行ったわけです。
ここで予想外の事態が起りました。一つは注入した海水が炉心の燃料棒を満たすレベルに達せず、燃料棒の上部が海水から出て空焚き状態になり加熱して融解したこと。これにより本来であればジルコニウム菅の中に封入されているべき燃料と、核生成物が圧力容器内に漏れ出てしまいました。この漏れた核生成物は、ベント水蒸気と同時に大気に放出され今、報道で大騒ぎしています。ただ、幸いなことに燃料棒の上部は溶けましたが下部は海水につかっており、溶けた上部も下の海水に落ちて冷え固まっていると思います。このため、圧力容器の底が加熱することは無く、底が抜けて水蒸気爆発を起こしたり、再臨界で核反応が起ったりすることは避けられています。海水を注入している限り、この問題がこれ以上悪化する可能性はありません。
もう一つの予想外は、海水を注入したためバルブが塩で固まって上手く圧力が抜けない状況が起ったことです。これにより2号機の格納容器が破損しました。(3号機も同じだと思います。)ここでも幸運が日本の味方をしました。福島第一はBWR・Mark-1型といって最も古い型の原子炉で格納容器がドライチャンバーとサプレッション・プールという円環(トーラス)部分に分かれていてその二つは熱膨張を吸収するためのジャバラで接続されています。(蛇腹、ジャバラ、解りますよね。) 圧力が高まった2号機(+3号機)はこのジャバラ部分が、安全弁のように破れて内部蒸気が吹き出てしまいました。これが無ければ、格納容器は大爆発していたかも知れません。吹き出たものは、すでにベントで出していた水蒸気と同じもので、違いは煙突から出すか、ジャバラから噴出すかの違いだけで、環境に対する影響は同じです。ただ、現場作業にとっては大違いで、この破損で現場の放射線量は一気に上がったと思います。
世界中を仰天させた1,3,4号炉の水素爆発ですが、これは原子炉建屋で保管している使用済み核燃料プールから発生した水素が爆発したものです。(これはマスコミの意見とは違いがあります。)使用済み燃料は水中で保管され崩壊熱を冷却しているのですが、電源が停止したことで二つの問題を起こしました。一つは水の冷却が出来無くなりプールが沸騰を始めたこと。二つ目は水中の核燃料放射線で発生した遊離水素を外気に放出でき無くなり、水素が建屋に充満したことです。充満した水素は派手に爆発し1,3,4の建屋天井をふっ飛ばしました。(2号は壁だけ)ただ、格納容器はこれくらいではビクともしないぐらい頑丈に出来ているので、炉心は保安されています。もう一つのプールの沸騰ですが、プールは15mの深さがあり燃料棒(4m)の上を11mも水で覆っています。この11mの水が全部沸騰して無くなれば燃料棒はむき出しになり、やばいことになります。しかし、どう計算しても1週間くらいでは水は無くならないのです。水の蒸発潜熱は非常に大きいので、ストーブ並みの発熱量の核燃料では簡単には無くなりません。おまけに、自衛隊や消防隊がやっきになって水をかけまくったので、プールはあふれています。よって、この問題もこれ以上悪化はしません。ちなみに、保管プールからは水素が発生を続けていますが建屋が吹っ飛んでいて溜まらないので再爆発はありません。ただ、局所的にたまった水素が、ボヤを起こしてゴムや油に延焼し、時々黒煙を上げているのではないかと思います。
また、保管燃料棒が破損していない間接的な証拠は100km離れた下記の女川原発の放射線モニターで得られます。ここの、特にMP2はベント直後は3600位まで上昇しましたが、その後は単調低下しています。もし保管燃料が溶け出して封入が破れた場合は放射性ガスが漏れてこの値が再度上昇するはずですが、そうなっていないので私は保管燃料は保全されていると思います。
http://www.tohoku-epco.co.jp/electr/genshi/onagawa/mp.html
さて、恐れられるプルトニウムの漏出ですが、問題になっているヨウ素131(訂正セシウム134は固体)は気体になりやすく、ベントで外部に出れば拡散して環境を汚染します。しかしプルトニウムは固体です。これが拡散するには炉心爆発か保管燃料が火災で燃え上がり、灰として散らばるか位しかありませんが、そのどちらも起っていません。またIAEAの調査では、少なくとも20km地点ではアルファ線の検出はありません。(プルトニウムはアルファ線を出す。)よって、プルトニウムの大量放出は無いと考えています。(格納容器破損で、近辺には炉心の水と一緒に出ている可能性は残っていますが...)
結局のところ海水注入、蒸気ベント、格納容器(ジャバラ)破損、水素爆発、プール沸騰等が有りましたが最も重要な炉心と保管燃料は保たれおり、チェルノブイリのような最悪事態は避けられました。今後は電源が復旧し、10年ほどかけて徐々に後始末をしていく事になるでしょう。もちろん1-4号炉は、廃炉になると思います。